2021 年の都市型住宅考

戦後の日本における革命的プレハブ住宅

STUDY

 ヨゼフ・ヘーベルがパネル化に成功したのち、プレハブ住宅の壁材として世界中のハウスメーカーから注目を集めたALC(軽量気泡コンクリート)は、日本の地でさらに精度と強度を高めていった。
化学的見地に立って研究と実験を繰り返した結果、日本のヘーベルハウスは世界中の住宅産業関係者から最高レヴェルの評価を得るまでにいたったのである。
その評価は、鉄骨を組み込んで強化した独自のALCに対してだけでなく、躯体自体の性能や空間設計力にも与えられており、都市型住宅のひとつの完成形としてリコメンドされている。

 都市型住宅に先鞭をつけたプレハブ住宅として、いまあらためて注目したいのは、そのヘーベルハウスが開発したCUBICモデルである。
1982年に完成した初代CUBICは、「都市の住まいの次世代デザイン」という謳い文句で登場し、住宅=屋根つきが常識だった時代に斬新なキューブ型フォルムをもって衝撃を与えた。
いま見ても飽きのこない顔つきをした家で、奇しくもグロピウスが設計したマイスターハウスのルックスに重なる。

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日本国内におけるプレハブ住宅の市場は、1970年代に本格的に形成され、1980年代に拡大した。
2018年に着工されたプレハブ住宅は、住宅総着工数約94万2000戸のうち約13万1500戸。
7戸に1戸の割合でプレハブ住宅が建ったことになる(国土交通省建築着工統計による)。
写真:1982年に開発されたヘーベルハウス「CUBIC」初代モデル。
敷地を最大限に活用するために庇をなくし、屋根もフル活用できるようフラットに設計されている。


その後、CUBICは外壁のALCと同時に室内の空間創造力も進化をはかり、ヘーベルハウスの2F建て住宅の主力商品に成長した。
ベランダやテラスを半屋外空間として室内と一体化させた「そらのま」や、1Fと2Fの中間階に居場所を設置する「クロスフロア」も、その進化の過程で生まれてきたアイディアだ。
広さや日照などの敷地条件による制約が多い都市型住宅のフィールドに、床面積の広さだけでは語れない空間の豊かさを提供して市場権を得た。
GDPの成長とともに日本の都市部における地価はさらに上昇した。
21世紀に入ると、2F建てが主流だったプレハブ住宅のマーケットに「タテ空間を生かした3F建て」のニーズが出てくる。
その先駆けともいえる住宅がある。2004年にヘーベルハウスが建てた「かぜのとう」だ(写真参照)。

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2004年に完成したヘーベルハウスの「かぜのとう」。
設備機器で室内調節することを最小限にとどめ、家そのものが自然の恵みを上手に取り込んで暮らせるよう設計されている


遠くから建物をみると、閉じられたシェルターに見えるが、家に入ってみるとその名の理由がよくわかる。
入口には鉄製の格子戸が据えられ、ガレージの扉には細かい横桟のグリルシャッターを使い、屋外からの風や光を上手に取りこんでいる。
敷地内にはタイルの小径があり、すっくと一本ケヤキが2Fのデッキまで伸びている。
1Fから入った風が、2Fの階段を風楼としてのぼり、最上階に見える4つの窓をはじめ計8つにおよぶマルチ窓を伝って屋外へ抜けてゆく。
2Fのデッキフロアは簀子状になっているため、そこに寝そべると真下から気持ちよい風を受けられる。
単なるタテナガの3F建てではなく、「かぜのとう」は、都心にいながらにして存分に自然の恵みを取り入れ、季節を感じられる家として考案されたのだ。

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HailMaryこちらのコラムはHailMary7月号に掲載されています。

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