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事例に見る借地権の注意点 その1~建て替え時の承諾料~

借地

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2009年10月 1日

事例に見る借地権の注意点 その1~建て替え時の承諾料~

前回は、借地(権)の問題で最も多く見受けられる「金銭トラブル」と、話し合いでも解決できない時に利用する「借地非訟」について紹介しました。お金の話は、ただでさえ面倒なことが多く、土地利用をめぐって過去のいきさつが絡めばなおさらです。特に借地に関する問題は、地主と借地人という、相対する立場の二人で、ある程度の了解に達しなければなりません。常にそのことを念頭に、相手の立場を考えつつ、話し合いを進めていきましょう。

今回から、具体的な事例を通して、借地権に関する注意点を見ていきます。まずは、前回も紹介した建て替え時の承諾料にまつわる注意点について、2つの事例を見てみましょう。※事例は、実際のご相談に旭化成ホームズが、どのように対応したかをまとめています。

◆事例1◆ 建て替えについての承諾料を払ったのに建て替えできない!?

借地上の建物を建て替えることになり、地主の代理人と相談していたAさん。程なく、建て替えについての承諾料の金額や建て替え後の地代、建築物の構造など、具体的な条件がまとまり、承諾料を支払って承諾書を受領しました。その後、建築業者との間で請負金額も確定したため、金融機関に建築資金の融資を申し込みに行ったところ、金融機関から「この融資承諾書に地主さんの署名捺印をもらって来てください」と言われてしまいました。

Aさんは、このことを地主に話をして書類を渡しましたが、地主は「署名捺印はできない」と拒否。金融機関では、地主の署名捺印がなければ融資はできないと言っており、このままでは建て替えができない状況です。Aさんが承諾料を支払っていても、地主は金融機関の書類に署名捺印することを拒否できるのでしょうか?

◆事例1・回答◆
地主は融資承諾書への署名捺印を拒否することができる
→承諾料は授受のタイミングに気を付けましょう。

この事例の場合、法律上は地主に融資承諾書に署名捺印する義務はありません。建て替えの承諾を与えることと、借地人の資金繰りに協力することは別の話です。金融機関の融資承諾書に地主の署名捺印が必要な場合、まず、建て替えの承諾を地主から得る際に合わせて、融資承諾書にも署名捺印を依頼します。そして、署名捺印された融資承諾書を受け取るのと引き換えに、建て替えについての承諾料を支払うようにします。

◆事例1・解説◆

借地上に建物を新築するにあたり、住宅ローンを利用する時には、金融機関に「地主の承諾書(融資承諾書)」を提出しないと基本的に融資を受けることはできません。また、この承諾書は金融機関ごとにそれぞれ定型の書式があります。もし、複数の金融機関に融資を申し込む場合は、それぞれの承諾書に地主に署名捺印をしてもらうことになります。

承諾書の記載事項には、例えば「建築した建物には、××銀行(金融機関の名称)が第1順位の抵当権を設定します」など、地主にとって不利な規定があります。そのため、地主の側からは、承諾書そのままの文面での署名捺印に難色を示す場合があります。

つまり、住宅ローンを利用する場合には、建て替えについての承諾料の額と支払日の取り決めに際して、地主の署名捺印が必要となる全ての承諾書を「事前に」地主に手渡ししておき、承諾料の授受は署名捺印済みの各種承諾書と引き換えることが、非常に重要なポイントになります。

◆事例1・その後◆

Aさんは、地主の代理人に支払った承諾料の返還を請求しましたが応じてもらえず、訴訟での解決も困難と弁護士に判断されてしまいました。やむをえず、当初予定していた金融機関の融資をあきらめ、ご両親に資金援助をあらためてお願いすることになりました。幸い、なんとか建設資金を確保することができましたが、建築を直前に控えてのドタバタは大変でした。注意が必要です。

◆事例2◆ 新築する建物の構造によって承諾料は異なるか?

Bさんは、借地上に木造2階建ての建物を所有し、1階で小売業を営みながら2階で生活しています。建物自体が老朽化してきたため、賃貸併用住宅への建て替えを検討。駅に近く商店街に面していることもあり、1階を賃貸店舗、2~3階を賃貸住宅、4階を自宅にする計画も可能ということが判明しました。さらにこの計画では、新築資金のローンの返済は、全て賃貸収入でまかなえるということも分かりました。Bさんは、この計画を進めようと地主に相談したところ、「それは借地条件の変更にあたるため、承諾料は相当高くなる」と言われてしまいました。承諾料はどのくらいになるのでしょうか?

◆事例2・回答◆ 条件変更の承諾料は、土地の更地価格の10~15%

借地条件変更の典型として、非堅固建物の所有を目的とする借地上に、堅固建物を建築する場合が挙げられます。この事例にある条件変更承諾料については、一般的に借地権の目的となっている土地の更地価格に対して10~15%の割合で授受されるケースが多いようです。

◆事例2・解説◆

借地借家法が施行された平成4年より前に設定された借地(旧法借地)については、借地権の目的となっている建物は、建物の構造によって堅固建物と非堅固建物(普通建物)の2種類に分類されます。

・非堅固建物:木造などの建物(ただし、軽量鉄骨造の建物が非堅固とされた判例あり)
・堅固建物:石造、土造、煉瓦造、鉄筋コンクリート造などの建物(ただし、重量鉄骨造の建物が、耐震性が重視されて堅固建物とされた判例あり)

そして、それぞれ借地権の存続期間が異なっています。従って事例2のケースのように、建て替えによって建物の構造が変わる場合には、契約による存続期間も変わることになります。そのために同じ条件での承諾にくらべて、高額の承諾料が要求されることになるのです。

借地の存続期間について

1.契約によって借地期間が定められている場合

・堅固建物所有を目的とする借地権は30年以上
・非堅固建物所有を目的とする借地権は20年以上

これは最低存続期間として法律によって定められている年数です。もし、これ以下の期間で契約が締結されている場合は、期間の定めがないものとなり、堅固建物は60年、非堅固建物は30年と見なされます。

2.契約時に、借地期間も建物の構造も定めていない場合

借地法(旧法)第3条により、非堅固建物の所有を目的とする借地権と見なされます。さらに期間の定めもないのですから、借地権存続期間は30年となります。契約書がないまま、借地期間が一度満了して更新された場合は、次の契約存続期間は20年となります。

なお、借地借家法(新法)では堅固・非堅固の区別は廃止され、存続期間は一律30年と定められましたが、上記のように新法施行前から存在する借地権については適用されないうところの堅固・非堅固の分類も難しくなっています。このような時は、借地非訟事件 の決定例を参考に、地主と借地人がお互い誠意を持って協議するのがよいでしょう。

今回は建て替えの際の承諾料の授受について、また、条件変更の際の承諾料の金額について、具体的な例を挙げて紹介しました。これはあくまでも一例で、借地の数だけ様々なケースがあるといってもよいでしょう。大切なことは、借地をめぐって地主と借地人で争うのではなく、あくまでも双方のメリットを生かすためにどうするのが良いか、話し合いをすることです。

次回は、借地権の名義変更について事例を通して考えていきます。

株式会社 旭リサーチセンター 住宅・不動産企画室室長
川口 満(かわぐち みつる)
旭化成のシンクタンク「旭リサーチセンター」で住宅・不動産に関わる専門的なアドバイスを提供している。著書「サラリーマン地主のための戦略的相続対策」(明日香出版社)。ファイナンシャルプランナー。

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