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事例に見る借地権の注意点 その2~借地権の名義変更について~

借地

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2009年11月 1日

事例に見る借地権の注意点 その2~借地権の名義変更について~

前回は、借地上の建物を建て替える際の承諾料について、事例を通して見てみました。建て替えについての承諾料を支払う際に、必要な書類をそろえておくことが大切であり、また借地権の条件変更による承諾料は、土地の更地価格の10~15%程度を見込まなければならないことなどがポイントでした。さらに建物の構造が堅固・非堅固によって、借地権の残存期間が変わることを知っておかなければなりません。

さて今回は、借地権の名義変更をする場合について見てみます。様々な理由から、借地権の名義もしくは借地上の建物の名義を変更せざるを得ないケースは多くあります。そして、そのような時にトラブルが発生することも事実です。しかしそのような場合でも、地主と借地人の双方の立場に立って考え、話し合いを進めていくことを忘れないようにしましょう。

※事例は、実際のご相談に旭化成ホームズが、どのように対応したかをまとめています。

◆事例1◆ 借地名義人と建物名義人が異なる場合は、建物の新築は認められない?

借地上の建物を建て替えようと考えているCさんは、現在、年金収入のみの生活なので建築資金を用意することができません。そこで、息子さん世帯と同居することにし、新築資金を息子さんに調達してもらおうとしました。ところが、それを聞いた地主が「借地名義人と建物の名義人が異なる場合は、建物の新築を認めることができない」と言って、建て替えを承諾してくれません。このような場合は、どう対処すればよいのでしょうか?

◆事例1・回答◆ 地主の承諾なしに、子供名義で建物を新築することは回避すべき

例えば借地人が高齢で、子供との同居を前提に自宅の新築を行うケースは、非常に多く見受けられます。建築資金を子供が調達する関係上、新築する建物の名義は子供にせざるを得ませんが、そうした場合にこのような問題が持ち上がります。地主が異議を唱えず建て替えを承諾する場合もありますが、本ケースのように建て替えを認めないという地主もいます。

いずれにしても、地主の承諾なしに子供の名義で建物を新築することは、絶対に回避すべきでしょう。もし強行した場合、土地賃貸借契約書に「無断転貸禁止条項」があれば、債務不履行を理由に、地主から契約解除を申し立てられることもあります。

さてこのケースでは、息子さんを名義人に加えて新たに土地賃貸借契約を結んでもらうようお願いする必要があります。その上で、新たに親子共有名義で建物を新築する承諾を求めることになるでしょう。連名での契約に地主の了解が得られなければ、事例2で解説するような借地非訟に移行することになります。

◆事例1・参考◆

その他、名義を書き換える際に注意が必要なケースとして、以下が考えられます。

<義理の息子が新築資金の調達を行う場合>

実の子供の場合は、借地契約の名義の変更も地主の承諾さえあれば、そう難しいことはありません。しかし、これが義理の息子が建築資金を負担するとなると、問題がやや複雑になります。まず、義理の息子に借地権が引き継がれることになりますので、他の兄弟や姉妹が快諾するかどうか。借地権も高価な土地であれば、大きな財産なのです。また、地主が名義の書き換えに同意したとしても、推定相続人以外への贈与になるため、名義書換料が割高になるといった懸念もあります。

<相続を理由とする借地名義の書き換え>

借地権は、使用貸借のように「借主の死亡によってその効力を失う」という規定(民法)はありません。また、借地人の一身に帰属する権利でもないため、借地人が死亡した場合、相続人に財産権の一つとして相続されることになります。そして、相続による借地権の移転については、地主の承諾は不要であり、名義の書き換え料は授受されないのが一般的です。ただし、承諾は不要としても、相続があったことや誰が借地権を継承したのかといったことは、地主に一報を入れるのが礼儀といえるでしょう。地主との関係を円滑にする上でも大切なことです。

<推定相続人に対する借地権の生前贈与に伴う名義の書き換え>

生前に借地権の名義変更を行う場合は、借地人に名義変更料の支払い義務が発生します。ただし、このケースでは借地人に経済的利益はありませんし、将来の相続人への引き継ぎであるという事情が勘案されるので、名義書換料は通常の半額以下、もしくは相当低額に抑えられて授受されるのが通例です。

<借地権譲渡に伴う名義の書き換え>

借地権を第三者に譲渡した場合の名義書換料は、利益の衡平という観点から「土地の値上がり益の一部を地主に還元するための金銭」として、授受されると解釈されています。

こうした第三者への名義書換料は、法律上でもその支払い慣行が認められており、大都市圏では借地権価格(借地権の売却価格)の10%前後が相場といわれています。なおこの名義書換料はその趣旨からして元の借地人の負担となるケースが多いようです。

◆事例2◆ 二世帯住宅を新築しようとしたら、高額の承諾料を求められてしまった...

母親の借地に、両親と同居するための二世帯住宅を新築しようとしていたDさん。地主からは「借地人の子供が新築するなら、名義変更料と建て替えに関する承諾料の両方を払ってもらう必要がある。そうでなければ、新築は承諾しない」と言われて困ってしまいました。さて、このようなケースはどう対処したらよいでしょうか?

◆事例2・回答◆ まず親の借地権を子供に転貸することの許可を求める

このケースの場合、過去に紛争があったいきさつから、条件の交渉に見込みがなく、建築を可能とするには、借地非訟手続きしかありませんでした。手続きは以下のようになります。

借地権者の子供が新築する建物の名義人として建て替え許可を求める場合には、まず親の借地権を子供に転貸することの許可を求めます。その次に、その転借人となった子供が当該借地上に建物を新築する許可を求める...という「二本立ての申し立て」をすることになります。借地権者の子供は推定相続人であり、その子供は相続発生に伴い借地権者の地位を継承しますので、地代支払い能力に問題がなければ、子供への借地権の転貸はほぼ許可されるでしょう。

また、建て替え許可の申し立てについても、よほど特殊な建物を計画しない限り、これも許可されることがほとんどです。ところで、新築資金にローンを利用する場合で、借地非訟手続きに入る際、最も注意しなければならないことは、「裁判所の許可」で融資が可能かどうか、金融機関に事前に確認しておくことです。「裁判所の許可」は取れたものの、建築資金の融資が不可となっては、せっかく得られた許可が水の泡となってしまいます。

◆事例2・参考◆ このケースでかかった諸費用はいくらか?

このケースでは以下のような費用がかかりました。あくまでも一例であり、ケースによっては、かなり費用にばらつきはあると思われます。それをご承知の上で参考にしてください。

1.借地非訟手続きにかかる費用

借地非訟申し立て費用および弁護士報酬など一式......120万円

2.財産上の給付額

子供への転貸を許可することに対する財産上の給付額(名義変更料)......86万円
建物建て替え許可に対する財産上の給付額(建て替えについての承諾料)......246万円

3.地代

従前地代......28,000/月
新築後の地代......35,800円/月

4.本件の借地非訟申し立ての概要

借地権の目的となっている土地の更地価格......3,080万円
用途地域制限......商業地域
改築建物......鉄骨造3階建て
建物の用途......居宅(二世帯住宅)

このように、基本的に借地権の名義を変更する時は、名義変更料を地主に支払うことになります。ただし、相続が理由で名義を変更する場合、名義変更料は不要です。また、相続する際は、借地権はもちろん建物についても兄弟などで共有名義にしないことをお勧めします。関わる人数が増えれば増えるほど、地主との交渉も面倒になり、トラブルの原因も増え解決が困難になることが多いからです。

次回は、借地権と底地を交換する場合の注意点を、事例を通して見ていきます。

株式会社 旭リサーチセンター 住宅・不動産企画室室長
川口 満(かわぐち みつる)
旭化成のシンクタンク「旭リサーチセンター」で住宅・不動産に関わる専門的なアドバイスを提供している。著書「サラリーマン地主のための戦略的相続対策」(明日香出版社)。ファイナンシャルプランナー。

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