
図に示すように、全面腐食発生の限界pHは、SUS304が約2、SUS316が約1.5に対し、2相ステンレス鋼である25Cr-5Ni-4Mo-Nbは約1であり、より高濃度の酸に対して耐食性を有します。
また、SUS329J3LやSUS329J4Lは、すき間腐食もSUS304やSUS316に比較して発生しにくい材料です。
耐食性がSUS304やSUS316に比較して高いのは、これらの材料に比較して、2相ステンレス鋼のクロム濃度とモリブデン濃度が高いため、不動態皮膜の耐食性が優れているためです。
ステンレス鋼を金属組織の種類で分類した場合、SUS304やSUS316はオーステナイト系ステンレス鋼に属します。これに対し、2相系ステンレス鋼とは、オーステナイト組織とフェライト組織が混合した金属組織を有するステンレス鋼です。JISでは、SUS329J1、SUS329J3L、SUS329J4Lが2相系ステンレス鋼に属します。
SUS304やSUS316などのオーステナイト系ステンレス鋼や2相系ステンレス鋼は、いずれも、耐食性の要求される化学装置材料などに利用されますが、2相ステンレス鋼は、SUS304やSUS316に比較して、以下に述べるような優れた特徴があります。
2相ステンレス鋼は、SUS304やSUS316に比較してやや高価な材料ですが、これらの長所を生かし、工業用水や海水を用いた熱交換器や塩化物イオンを含むプロセス環境に接する機器などに利用されています。
なお、冒頭に述べたとおり、2相ステンレス鋼は、オーステナイト組織とフェライト組織が混合した金属組織を有しています。付図に示すように、クロム濃度の高いフェライト組織(海)の中にニッケル濃度の高いオーステナイト組織(島)の存在する、いわゆる海島組織となっています。この組織のバランスが耐食性上重要で、このバランスが崩れると耐食性が低下します。例えば、溶接部では、急熱急冷を受けるので、フェライト組織が多いバランスとなります。このため、溶接部では母材部に比較して、耐食性の低下する場合があります。
付図:2相ステンレス鋼の組織写真