バウハウスの遺産

バウハウスの遺産vol3:賢者の壁をアップデイトした家創り

STUDY

最強の壁を使った躯体が自由な間取り空間を生む

バウハウスの提唱したモダニズム建築。
そのDNAを受け継いでアップデイトされた現代の建築物がここにある。
へーベルハウスの3F住宅FREXのなかでも異彩を放つ『CUT & GABLE』というモデルだ。

塊から削り出す(=CUT)デザインで、
モダンな箱型に家形(=GABLE)を重ね合わせ、新しい外観と変化にとんだ空間を創り出す

そんなコンセプトから誕生した都市型邸宅で、アイコニックな三角屋根をもつユニークな家だ。

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たまプラーザ駅南口そばに建つ、へーベルハウスのFREX「CUT & GABLE」モデル


その商品開発・設計を担当したのは旭化成ホームズ・マーケティング本部商品企画部のチーフデザイナー、工藤智勇さん。
施工中は現場に毎日足を運び、ミリ単位で指示したという。
工藤さんにこの建物についてうかがった。

工藤さんが最初に語ったのは、躯体としての強靭さだった。
一般の設計事務所からも「躯体だけ欲しい」という要望がきているほどだという。

工藤:ビルディングシステムからみると、この家は業界でも図抜けてトップレベルの強さを誇ります。
それゆえ設計の自由度も増します。
きれいな鉄骨で、在来工法では作れないおさまりになっています。
鉄骨は隠されていますが、そのまま裸で見せてもいいくらい、きれいな骨組みになっているんですよ。
そういう躯体を使って自由に、面白い家を作ろうという発想で建てられた家です。

天井高は2.4m。
その中でいかに自由度を見せるかがデザイナーの腕の見せ所だった。

工藤:建物を伸ばすのではなく、限られた階高の中で床に変化を付けるということに挑戦しました。
床も下がっているし、天井も場所によって上がったり下がったりしています。
基本的にはラーメン構造なので、構造壁がありません。
間取りは複雑ですが、実際はほとんどワンルームと考えても問題ありません。
空間がつながっているんです。
吹き抜けを通して、2Fと1Fもつながっています。

キューブ型の家と三角屋根を組み合わせるというモチーフは、従来、2階建てモデルには起用されていた。
3階建てではこの家が初めてだった。

工藤:2階建ての家に三角屋根を乗せると約2.5階になります。
3階建てに乗せると3.3階建ての高さになる。
都市部では4階建ての家を建てるのは大変ですが、3階建てなら普通になってきた。
そこで、そこにもう少し空間に余裕が持てるようにひと工夫を加えたわけです。

1Fは来客をイメージした開放的なリビングダイニングだ。

工藤:設計する際に、"洞穴に潜るような感覚"を意識しました。
内装は絨毯を採用しています。
最近のモデルハウスではカーペットや絨毯をほとんど使っていなかったのですが、『CUT & GABLE』ではすべて絨毯を張り巡らせました。
このモデルハウスが完成した当初は、1Fは一番毛足の長いホテルのロビーで使うような絨毯を使っていました。
段差を踏み込むと柔らかい感触が伝わってくる。
その感触を大切にしたのです。

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ダイニングを兼ねた1Fリビングの風景
(この一枚は設計当初の写真をお借りした)。
毛足の長い高品質の絨毯が敷き詰められていたが、現在は仕様が変更されている

2Fはキッチンステージとソファーリビング。
縦方向のつながりを意識させる吹き抜けが、壁のない空間をさらに開放的に見せている。

工藤:斜めに視線が飛ぶようになっているので視覚の広さを感じます。
ここより広い敷地の展示場にあるモデルハウスでも、ここまでの視覚の広さは感じないと思います。
フロアは、間仕切り壁で仕切られていない一体型空間です。
このひとつの空間を、4本の柱で持たせています。
それがこの躯体の空間パフォーマンスの特長ですね。
柱は15cmの鉄骨です。
こういう空間を作る際に、鉄骨造の柱で最も一般的な『コラム』(角型)を採用することが多いのですが、あえて丸い柱にしました。


2Fのソファーリビングの空間は、床が一段掘り下げられている。
これによって天井が高く感じられ、独特の解放感を味わえる。
室内の鉢植えも床と同じ絨毯で巻いているため、観葉植物が床から生えているようなイメージを与えるのだ。

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"南国の海を通して見える砂地"をイメージした絨毯が敷かれた2Fのソファーリビング。
仕切り壁がないため、2F全体がワンルームともいえる。
吹き抜けを通して1Fとの一体感もある

空間をどう生かすかは住まう人が決める

この家『CUT & GABLE』の性格をもっとも端的に表しているのが、3Fの空間(寝室+リビング+屋根裏部屋)だ。
リビングの半分は一段下がっているので、壁で仕切らなくてもそこがひとつの独立した空間として意識できる。
ファミリー層には子供部屋として最適な場所だろう。
フォールディングウィンドウを全開放すれば、ベランダとリビングが一体になった"アウトドアリビング"が目の前に広がる。
寝室は床が一段高くなっているので、マットレスを設置するだけで豪華なバブルベッドになる。

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3Fの寝室。
床から一段高くなっているスペースにマットレスを置くだけで立派な寝室になる

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寝室のドアの、ちょうど真ん中の高さに設置されたドアノブと、同じ高さの照明スイッチ

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3F 廊下の棚はミミが付いたままのチーク材をそのまま採用。
ディテールにも相当こだわっている


屋根裏部屋=ロフトは牧場の干し草の上でくつろいでいるような安らぎを与える。

工藤:便利さや快適さを一方的に提供するのではなく、住んでいる人が能動的にかかわり、自分から工夫を加えることで、楽しさは何倍にも広がる。
それが本来の機能的な家です。
子供たちにも、壁で仕切った子供部屋を与えるのではなく、フリーな空間を与えてみてはいかがでしょうか。
自由に使える空間があれば、子供は自分が好きなように利用します。
段差を利用して、飛んだり跳ねたりして遊んでもいいし、ロフトを秘密基地にしてもいい。
もちろん読み書きに集中できる勉強部屋としても機能する。
子供が成人して独立したら、お父さんの大人の趣味の空間にしてもいいと思います。
そういう仕掛けを提供したいですね。

出窓のブルーとイエローのペンキは特別に調合したものだ。

工藤:普通の建築で使わないような派手な色を特別に作ってもらいました。
ル・コルビュジエ建築に色を使っていた影響もありますが、中途半端な色ではなく一番派手な色を使ってみたいと思ったのです。

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3Fのフリースペース。
画面左側が、一段低くなった子供部屋向けのスペース。
3Fの動線を歩いてくると、仕切り壁がなくてもそこが独立した空間であることが理解できる。
窓の周囲は特別に調合した鮮やかなブルーのペンキで縁どられている

20世紀のモダニズム建築のコンセプトは、よりシンプルに、よりフラットに、よりニュートラルに、という方向へむかった。
しかしその先には限界もあった。
また、ユニバーサルデザインの観点では、床の段差は敬遠されるかもしれなかった。
しかし家をより楽しむ、住むことをエンジョイするという意味では、段差によって空間を広く活用するというアイデアは正解だった。
実際そこにしばらくいると、さてここをどのように活用しようか、何を入れようかと、いろんなアイデアが沸き上がってくるのだ。
梯子を登って出入りするロフトも、そのワクワク感がいい。
段差は後から埋めてフラットにすることもできるが、フラットな床に後から段差を付けることはできない。
段差につまづかないよう日ごろから心掛ける(脳の働きを鈍らせない)方向に意識を向けることもできる...。
人間らしい生活を後押しする、クリエイティブな空間を演出した家だったのである。

interviewed by Hiro Naooka /
written by Kazunori Saito /
photographed by Shinichi Miura /
illustrated by Kazutomo Makabe /
© Asahi Kasei Homes

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HailMaryこちらのコラムはHailMary5月号に掲載されています。
※WEB掲載用に一部加筆・修正しています。

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