PART2 EVOLUTION
トバモライトを巡るロマンはサイエンス大国イングランドで科学の列車に乗った
トバモライトの結晶構造はセメント水和物に似ていた
スコットランドの鉱物学者によって発見されたトバモライトは、20世紀に入るとイングランドの科学者の手に渡った。そのきっかけを作ったのが、「天才」と称された結晶学者J.D. バナールだった。
X線による原子構造研究の第一人者だったバナールは、当時すでに存在していた(が科学的にはほとんど解明されていなかった)セメント水和物(C-S-H)の原子の並び方が天然鉱物であるトバモライトに似ていることに気づいた。
1946年、彼は英国の威信をかけたプロジェクトを立ち上げ、翌年から5年計画で愛弟子たちに研究を進めさせた。
「答えは自然にある。自然の鉱物にヒントがある」─そして1951年、愛弟子の一人H.F.W. テイラー博士がついに「C-S-Hを110℃ -200日間の水熱処理で結晶化させ、これが天然のトバモライトに一致する」(日本におけるトバモライト研究の第一人者、光田博士の資料による)ことを見いだす。
バナール・チルドレンによってC-S-Hの結晶構造とともにトバモライトの結晶構造も明らかになり、強度をはじめとするトバモライトの物性もはっきりしたことで、人工合成による産業利用の可能性が現実味を帯びたのである。
アバディーン大学で研究を進めたテイラー博士の魂は、その後P.T. グラッサー博士に受け継がれ、その科学的理論はさらに進化した。奇跡の石トバモライト→賢者の石ALC→最強の壁ヘーベル誕生にむけての線路は、サイエンス大国イングランドで敷かれた。
天才J.D. バナールとノーベル賞を獲った弟子たち
サイエンス大国イギリスでも最も著名な科学者として知られるJ.D. バナール(1901-1971)。
同国ではいまでも「バナールにノーベル賞を与えられなかったのは最大の謎のひとつ」と言われる。キャベンディッシュ研究所などで、複雑な結晶構造を解明するX線回析法を編み出し、セメント水和物(C-S-H)とトバモライトの類似性にもいち早く気づいた。
1960年代には、天才的着眼点をもったバナール博士のもとでノーベル賞受賞者が続出した。1962年にはM.F.ぺルーツ(球状タンパク質の構造研究)、1964年にはW.C.ホジキン(X 線回析法による生体物質の分子構造の決定)がそれぞれノーベル化学賞を受賞、なかでも、J.ワトソン、F.クリック、M.ウィルキンソンによるDNA二重らせんの発見(1962年ノーベル生理学・医学賞)は今世紀最大の科学的発見のひとつと言われる。
トバモライトを科学的に解析したH.F.W. テイラー
J.D. バナールの指示により1947年から5年間にわたってセメントの科学的研究を行うチームが結成された。このなかでセメント水和物の結晶構造を明らかにしたのがH.F.W.テイラー博士であり、このチームはトバモライト結晶構造も解き明かした。「セメント・ケミストリー」(テイラー博士著)はバイブル的著作物だ。
H.F.W.テイラー博士の下、アバディーン大学でトバモライトの研究を進めた日本人が光田武博士だった。