PART5-2 WALL FOR ONE
最高品質のトバモライト結晶によって生まれたヘーベルには奇跡的なマルチ才能が宿る
PERFORMANCE ヘーベルに宿る8つの性能
1. 軽量性
壁の重量が重ければ、地震や台風など災害時の建物・地盤への負担が大きくなる。コンクリートでありながら比重0.6という水に浮く軽さを誇るALC(以下ヘーベル)はこの負荷を軽減してくれる。
2. 高強度
10気圧の高圧蒸気と180℃の高温でオートクレーブ養生された最高品質のトバモライト結晶と、ヘーベル内部に組み込まれた鉄筋によって優れた強度を実現する。単に軽いだけではないのだ。
3. 耐火性
ヘーベルの特性のひとつ、無数の細孔が火災時に熱で膨張した空気の逃げ道となって爆裂を防止する。また完全無機のため、加熱による有毒ガスの発生もない。過去の大震災においても、その特性が生かされ、数多くのへーベルハウスが延焼を食い止める防火壁の役割を果たした。
4. 耐久性
雨や日光にさらされても強度低下や寸法変化がほとんどなく、高い性能を60年以上にわたって維持できる。築40年のへーベルハウスから回収したヘーベルの一部をテストした結果、新築時と同等の4.3t の力に耐え、強度の劣化がないことが確認されたという。
5. 寸法安定性
ヘーベルは耐水性にも優れ、その乾燥収縮率は0.05%以下という低さ。長い歳月にも寸法変化を起こさず、腐食とも無縁の建材である。
6. 遮音性
ヘーベルを形成する無数の独立気泡が室内の音を吸収してくれるため、優れた遮音性が備わっている。
7. 断熱性
ヘーベルは、一般的なコンクリートの約10倍の断熱性を持つと言われる。このため、屋外の暑さや寒さを遮る能力が高く、同時に結露の発生も防ぎやすい。
8. 調湿性
独立気泡と細孔の働きによって、四季を通じて湿度をゆるやかに調節する能力も備わっている。過ごしやすい室内環境を生み出す建材でもあるのだ。
[最強の壁の素材はすべて自然由来]
ヘーベルウォールを構成する5つの素材はすべて自然由来。長年の研究と経験によって導き出した独自の科学的基準をクリアし、厳選される。珪石は地質学や鉱物学を有する専門の技術者が自ら世界中の山々を巡り、最低でも5年から10年をかけて採掘場所を決定する。セメントも国内にわずかしか流通しない一級品。上質な石灰石を用いて製造された不純物がきわめて少ない素材だ。
そしていま、満を持して送り出されたのが深い赤レンガ色を放つブリックバーミリオン
外壁の系譜へのオマージュが独自の朱色に表現された名品
外壁はファサードの印象を決定づける「家の顔」。
日本のヘーベルハウスが創る外壁は、色、モチーフ(石、土、砂など)、目地タイプともに多彩で、建物のフォームやサイズ、また住まう人の好みに合うよう、世界でも類を見ない数の組み合わせがある。
2018年秋、その壁に新色が加わった。深いレンガ色を放つ「ブリックバーミリオン」だ。深いレンガ色(濃い赤)はとくに退色に弱く、これまで「最難関色」とされてきた色だった。その課題をクリアするため、ヘーベルハウスの技術者たちは日々研究と実験を積み重ね、「30年耐久の性能」を確認できる赤い無機系着色顔料を独自に開発した。
百数種ある従来品でも不可能だったため新たに開発した顔料であり、赤レンガのマット感を出せるよう従来品より「多彩感」を抑え、「ヘーベル外壁塗装史上最大量」の艶消し材を投入している。
また「べた塗り感」も出ないように朱と相性の良いイエローとシルバーの色を加え、光輝材には天然の鉱物雲母(マイカ)を投入した。石からレンガへ、さらにサンド・ライム・ブリックからALCの壁へとつながる、ヨーロッパの都市に根づく外壁の系譜。その集大成ともいえる新色の創造に対して、誰一人妥協しなかったのだ。
BRICK VERMILION TYPE "G"
ブリックバーミリオンの目地は「G」「BM」「TS」の3タイプを用意している。こちらはラギッドな石モチーフの「G」タイプ。染色技術とともに彫りの技術の高さにも舌を巻く。
BRICK VERMILION TYPE "BM"
横長のレンガブロックをモチーフにした「BM」目地。比較的横に広がるフォルムの家(たとえば郊外型の二世帯住宅)の外壁としてフィットする。彫りのラギッド感もいい。
BRICK VERMILION TYPE "TS"
縦長のレンガブロックをモチーフにした「TS」目地。3F建ての狭小住宅など比較的縦に長いフォルムの家の外壁に起用したい。洗練されたモダンな印象を与えてくれる目地タイプ。
LAST PART
ONE FOR WALL WALL FOR ONE
このブロック群は、ドイツ・エクセラ社の研究所に大切に保管されている記念碑的な軽量気泡コンクリートALCの数々である。
その中央にレイアウトされているのが、日本の旭化成が初出荷したヘーベルウォールだ。表面には油性ペンで1967年8月5日の日付が記されている。1967年は、ロンドン大火後にロバート・フックが復興を願うモニュメントを建てて焼成レンガの家造りを開始してから丸三百年、その焼成レンガに代わりオートクレーブ養生によって生成されたサンド・ライム・ブリックが本格的に住宅建材として活用されはじめてから丸百年が経った年でもある。
サンド・ライム・ブリックの家が建ちはじめた頃、すでにスコットランドのエディンバラではマシュー・ヘデルが天然鉱物の発掘探検をライフワークとしていた。1880年に彼がマル島で「奇跡の石」トバモライトを発見し、二度の世界大戦を経た1947年(旭化成のヘーベル初出荷のちょうど20年前)、その結晶構造がイングランドのJ.D. バナールと愛弟子たちの手によって科学的に解明されはじめる。
20世紀最大の科学的発見と言われるDNA二重らせん構造の発見は、その6年後の1953年、イーグルスという名のパブでフランシス・クリックとジェームズ・ワトソンが議論しあったことがきっかけになった。その議論のテーブルに乗っていたX 線回析図形の写真は、バナールの愛弟子のひとりロザリンド・フランクリンが撮り、同じく愛弟子だったモーリス・ウィルキンスに手渡されたものだった。
トバモライトを巡るヨーロッパ取材の旅から帰国した松井久仁雄は閃く。「図らずもバナールが研究していたトバモライト結晶を構成するケイ素は、二重の鎖状につながっているではないか」と。
DNAの二重らせん構造の発明はトバモライト結晶のX 線回析による解明のレールに乗っていたのではないか...いまや世界におけるALC研究の第一人者となったドクター松井の閃きにはリアリティがある。
上に掲載した写真の建物は、厳冬の国スウェーデンでヨハン・エリクソンが「賢者の石」ALCを発明して50年目にあたる1972年、旭化成(現旭化成ホームズ)が建てたヘーベルハウスのひとつだ。
現在は富士にある同社の住宅総合技術研究所に移築展示されている。日本におけるヘーベルウォールの開発から5年の歳月をかけて完成した工業化住宅ということになる。さらにいえば、旭化成の社内にはドイツのヘーベル社と提携して住宅メーカーになる以前からトバモライト結晶を研究する者たちがいた。
そして世界基準で最高品質のALCを創りあげた現在もなお、未知なる研究を積み重ね、トバモライト結晶生成の謎をつぎつぎと解明している。もし旭化成が化学メーカーでなかったならば、そしてもし、異端児ともいえる研究者たちの探求心がなかったならば、ヘーベルハウスは誕生しなかっただろう。
「最強の壁」のなかには、最高品質のトバモライト結晶だけでなく、人々の暮らしをより豊かにしたいという一心でその壁に挑みつづけてきた者たちの、英知と情熱が育んだ結晶体も宿っている。