明治時代から現在に至るまでの住宅の間取りの変容を見てみますと、その時々の売れ筋プラン、こういう間取りタイプが伸びてきている、主流になるかもしれない、というものが見えてきますが、しかし、そういうトレンドと実際に住んでいる居住者のニーズを掘り下げて見ると実はかなり食い違っている、ということに着目して研究をしています。
日本の伝統的な住宅である武家屋敷は接客本位制で、「ハレ」と「ケ」、「表と奥」、「表と裏」という二元論的に作られていました。近代に入り、「中廊下型住宅」が登場し、広く普及します。関東大震災後の復興に際してできた同潤会の提供した典型的な分譲住宅にもこの「中廊下型住宅」が見られます。
一方、国の方では西洋的、合理的な生活ということで、イスの導入や家事労働の軽減、家族中心の住まいというものを、文部省を中心に働きかけ提案されたのが「居間中心型住宅」です。これが大正11年、今から89年前に提案されたものです。
戦後、膨大な住宅不足に陥り、住宅金融公庫が融資をして住宅を確保するためにいろいろな間取りを用意してお奨めプラン集を作りました。これを分析しますと6割以上が居間中心型のプランでした。しかし実際に注文が多かったのは中廊下型住宅で、結局売れているのはほとんどがこのタイプだったと言われています。
21世紀に入り、ここ数年目立ってきたのがリビングルームから直接階段で2階へ上がる、またはリビングルームを通って奥に階段がある、というプランです。これらを調べるために、私は1980年に約1万件、2000年と2007〜2008年にそれぞれ約5000件、新聞折込の建売住宅のチラシや住宅情報雑誌に載っているプランを分析しています。また住まい手のニーズを調べるために2007〜2009年にかけて約500件の居住者へのインタビューを行ないました。それらを分析した結果も踏まえて本日お話したいと思っています。
中廊下型と居間中心型を考えるとき、部屋数が大きく関わってきますので、面積水準別に1階の部屋数と2階の部屋数の関係を見てみました。1980年には、面積が広くなればなるほど部屋数が増えています。ところが2000年になると面積に関わらず1階2部屋、2階3部屋というパターンが増えています。かつてごく標準世帯と呼ばれていた4人家族で、1階にリビングルームと和室、2階に寝室と子ども部屋2室という間取りです。
それが2007、2008年になると面積が広くても1階は1室というパターンが出現してきます。全体の居住面積は広がっているのに、部屋の数は減っているのです。このことから、かなり広い住宅でも和室をとらないという事例が出てきていることがわかります。
もう少し詳しく内部動線の変容を見てみますと、1980年には中廊下型が約80%、居間中心型はわずか0.3%しかありませんでした。2000年になると居間中心型は4.5%ですが、中廊下型はむしろ増えて8割を超えています。ところが2007、2008年になると居間中心型は4分の1近くまで増え、中廊下型は4割強になっています。居間中心型が提案されて89年が経ちますがようやく増え始めたことは注目しています。
2000年と2008年を比較して面積水準別に内部動線をみますと、2000年にはどの面積水準でも居間中心型は多くありません。しかし、2008年になると各面積水準に居間中心型が出現します。この居間中心型は無駄な廊下を省いて面積を合理的に使おう、という狭小住宅に多いのではないかと思っていたのですが、むしろ面積水準の高いところで割合が大きくなっていることがわかりました。これは新しい家族のニーズとも読み取れますし、本当にそれでいいのか、ということものちほど検証していきたいと思っております。