くらしノベーションフォーラム レポート

第5回 くらしノベーションフォーラム  2011.9.1開催

テーマ:住要求構造の変容を考える

PART1:〜近代日本住宅の変容過程とその解釈を正す
講 師:鈴木義弘氏
大分大学工学部 福祉環境工学科 准教授・博士(人間環境学)・一級建築士
大分県出身。1982年九州大学工学部建築学科卒業、1984年同大学院 修士課程修了。
同年日本電信電話公社建築局に入社後、1992年から大分大学に在籍、障害者や高齢者の福祉的住環境の研究と共に独立住宅の変容過程に関する研究に携わっている。大分県建築審査会委員、大分市景観審議会委員、(社)大分県建築士会理事・調査研究委員長、(社)大分県作業療法協会理事 ほか

PART2:夫婦の寝室のとられ方 私的領域形成をどう読むか
講 師:切原舞子氏
千葉大学大学院 工学研究科 特任研究員・博士(工学) ・一級建築士
福岡県出身。2004年大分大学工学部 福祉環境工学科建築コース卒業、2006年同大学院博士前期課程修了、2009年同大学院 博士後期課程修了、2009年有明工業高等専門学校 建築学科助教。2011年から千葉大学に在籍。2004年度より独立住宅の変容過程と現代的課題に関する研究に携わっている。大牟田市建築審査会委員

◇和室(座敷)の存亡ととられ方

次に、和室(座敷)について見てみます。床の間がついた和室を「座敷」、床の間なしの場合は「和室」と呼んでいます。1980年には床の間付きの座敷が全体の85.5%でしたが、2000年になるとそれが65.4%、全体の3分の2にまで減ってきます。これが2007、2008年になりますと座敷はわずかに16.3%、和室なしが20.1%出現しています。和室は全体の6割以上あるのに床の間のニーズはなくなったのか、というと、面積水準別に見ると、2000年では、面積が広ければ床の間をつけることがわかります。2007、2008年でみても比率はかなり下がるものの、面積水準と座敷の出現には大きな相関があることがわかります。このことから、和室や床の間がいらない、ということではなく、限られた面積の中で優先順位をつけたとき、リビングルームを広く取ることを優先させた結果ではないかと読み取っています。
更に和室(座敷)のとられ方に着目します。新聞折込を調べて、「和室2室の続き間座敷」「一つ間座敷」「座敷と洋室の続き間」の3つのタイプに分類しました。1980年代に供給された住宅は、この3つのタイプがほぼ同じ比率でした。しかし、「本当はどういう間取りがいいですか」と聞いてみると、「和室2室の続き間座敷」を選好する割合が過半数と大きくなりました。同じく2000年に供給された住宅を見ますと、「座敷と洋室の続き間」の比率が高くなり、「和室2室の続き間座敷」はほとんどなくなっています。ところが、先ほどと同じく選好を調べると、やはり「和室2室の続き間座敷」が23.5%あり、「座敷と洋室の続き間」は17.1%と選好比率が低いことがわかりました。実際の住宅供給と選好にこのような乖離があるということは極めて重要なことだと考えています。

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◇居住プランと選好プランの関係

2007年と2008年のデータですが、和室の要否について、供給と選好の関係を調べたものです。和室2室のプラン、和室1室でアプローチが廊下から、居間から、両方からできるプラン、畳コーナーのみ、畳なしのそれぞれに住んでいる人に、本当はどういうプランがよかったのか、和室の要否について質問した結果です。畳部屋がない人のうち半数はやはり畳部屋はいらないと回答していますが、逆に言えば半数の人は畳の部屋が欲しかったということになります。
もう少し細かく見ますと、選好したプランで「畳部屋はいらない」という「不要層」が19.2%います。和室1室に住んでいて選好も1室の人、和室2室に住んでいて選好も2室の人、つまり「現状温存層」が53.5%です。和室1室に住んでいて和室2室欲しいという「拡大層」が20.3%もいます。和室2室あるけど1室でよかった、という「縮小層」がわずかですが2.3%、そして和室はないけれど本当は欲しかった、という「断念層」が約4割いらっしゃいました。和室へのアプローチの形式での供給と選考の関係で見てみますと、廊下からのみアプローチできる和室がもっとも一致率が高く、半数近くの人が同じプランを選んでいます。一方で急増している居間からのみアプローチできる和室はあまり評判がよくないことがわかります。
次に階段位置について、供給と選好の関係を調べてみました。居間中心型に居住していて居間中心型が良かった、という人が98.3%です。一方中廊下型に居住していて中廊下型が良かった、という人も72.4%で、これはトレンドと選好が非常に一致していることがわかります。この居間中心型に居住している人に、「家庭内交流」「対外交流」「室内環境」「空間構成」の4つの項目ごとにそれぞれ事例を挙げて取得時にどういうことを考えて居間中心型を選んだのか尋ねました。その結果、ほとんどの人が「家庭内交流を優先して居間中心型にした」あるいは「空間構成」、真ん中に居間が欲しい、廊下が無駄だ、ということで選ばれています。
同様に、入居後、同じ項目について評価をお聞きしてみたところ、「家庭内交流」については非常に評価が高い一方で、「室内環境」についてはかなり問題があると回答されている方が見られます。自由回答を見ると「家庭内交流」については、コミュニケーションそのものより、みまもり・管理という側面が背景にあるように思います。「室内環境」については、冷暖房効率の悪さや音響や臭気についての問題点を指摘した記述が多く見られました。

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◇これからの課題

まとめてみますと、居間中心型の家が急激に伸びていることは確認できました。しかしこれがわが国の住宅平面構成の転換点なのだろうか。これからのトレンドだと言い切ってしまっていいのか。家族本位という生活改善同盟会の提案から89年、それがようやく実体化したとして評価できるのだろうか。居間中心型にしたから家族の会話が増えるはずだ、というはかない希望なのか、親が子どもを管理するためではないのか、実際の居住評価が必要だと思っています。また温熱・音・臭気といった室内環境についても、問題点が見えているので、計画課題の明確化が必要だと思っています。
もう一つ、畳の部屋、床の間がない家が増えているということがあります。かつて見られた2階に寝室と子ども部屋2室、1階に居間台所と座敷の2室、という間取りは、とても使いやすく自由度がある間取りでした。座敷にはお客さんが泊まれますし、夫婦の寝室としても活用できる等、その多様性、自由性がきちんと評価されていないと思っています。確かに家にお客さんが来るという機会は減っているかもしれません。しかし、そういう対社会への閉鎖性にも問題があると思っています。玄関脇に座敷がある、ということが外とのつながりの窓口の役割もしていたのです。では、居間がその役割を吸収し多機能化、複合化しているのだろうか、あるいは住宅の個室がどんどんバラバラになっていく中で、和室の存在はどうなっていくのだろうか、そういったことで研究を進めています。
このようなトレンドをご理解いただいたうえで、次のパート2では、夫婦を中心とした住宅とその中にある注目すべき事柄について、切原先生から報告していただきます。

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