くらしノベーションフォーラム レポート

第7回 くらしノベーションフォーラム  2012.3.5開催

テーマ:江戸時代の環境型社会に学ぶ ~設備に頼らない省エネの暮らし~

講 師:石川 英輔氏
江戸時代の文化について研究する作家。科学技術的な立場から江戸時代の日本のエネルギー、資源のリサイクル状況について、詳しい解説書も執筆している。また、時代劇バラエティ「コメディー道中でござる」(NHK総合テレビ)に出演し、解説を務めた。
1933年 京都生まれ。東京都立石神井高校卒業。国際基督教大学と東京都立大学理学部中退。その後、武蔵野美術大学・視覚伝達デザイン学科講師(印刷学)、ミカ製版(株)取締役を務める。1976年 カラー製版技術の研究により、日本印刷学会第一回技術賞を受賞。1985年より、執筆活動に専念。最近は、科学技術的な立場から江戸時代の日本のエネルギー、資源のリサイクル状況についての著作が多い。

日本の食糧問題は大丈夫か。そんなのまったく心配することはありません。農地はいっぱいあるし、農業技術のある人もいっぱいいる。百姓をやりたい人もいっぱいいる。今後人口はドンドン減っていくし、輸入量だって、あっという間に半分くらいに減ってしまうでしょう。
みなさん牛肉を食べたいと仰るけど、牛肉なんて食べなくても平気なんです。私なんて年に1、2回しか食べません。わざわざ食べなくてもほかに食べる物はいくらでもある。
それに栄養学、これも真面目に信じないほうがいい。もしああいうものが正しいとしたら、何で今、年寄りが死なないでみなさん困っているんですか。年寄りが65歳くらいでバタバタ死んでくれたら、若い人は楽ですよ。介護しなくていいし、年金の心配もしなくていい。ところが今のお年寄り、簡単には死なないですね。このお年寄りの人たちはどんな立派な栄養生活をしてきたんでしょうか。はっきり言って、若い頃はろくなもの食べていません。それでも長生きしているんです。
私たちの時代ですと、まず肥料は下肥。衛生面から見ればこんな非衛生なものはない。私など30代半ばごろまで、この下肥農作物を食べていました。
ところが厚労省は今、1日35種類の食品を摂れという。こんなことできっこないじゃないですか。麦飯に七味唐辛子をかければ9種類だという人もいますけど(笑)。私は1日に10種類ぐらいしか摂っていなくても、この35年間風邪をひいたこともないし、虫歯もありません。ちゃんと生きています。だから、もう国を挙げてエネルギーをたくさん使わせようという陰謀があるんではないかと思ってしまうぐらいです。みなさん、エネルギーを使わないと大変だと思うかも知れないけど、逆なんです。エネルギーは身体に悪い。


昭和35年に出た家庭の医学大事典(主婦の友社)には、「老人病」として、「60歳以上に現われる高血圧、動脈硬化、糖尿病……」とあります。これが昭和50年くらいの「現代用語の基礎知識」になると、「40歳以上に現われる高血圧、動脈硬化、糖尿病……」。それから10年、「小児成人病」という言葉が出てきます。「10代の少年に現われる高血圧、動脈硬化、糖尿病……」。同じ病気なんです。昭和35年から同60年までで、60歳から10歳まで、若返るのではなく老化が進んじゃったんですね。そして平成8年、今度は「生活習慣病」です。年齢関係なしになる、と……。
今、子どもの生活習慣病、5歳で5%、10歳で10%、15歳で15%。また、群馬県の医師会が5歳児1,000人の調査をしました。すると、肥満が8.2%、高コレステロールが5.5%、動脈硬化が5.2%、高血圧の傾向が4.3%。こういう結果になりました。5歳児で、ですよ。おかしいでしょ! エネルギー量が順調に増えて、栄養学が発達して、衛生学も進んで、私たちの生活は向上しているはずじゃないですか。それがどうして、このわずか30~40年の間に、それまでの「老人病」が5歳児まで“普及”するようになったのでしょうか。この間、順調に増えているのが、エネルギー消費なんです。
それで専門家に伺うと、次の3点――1.高脂肪・高カロリーの食事、2.運動不足、3.不規則な生活、だそうです。この高脂肪・高カロリーの食事の運搬のために、我が国は大量のエネルギーを消費しています。歩かずに車を使うから運動不足になり、電灯がなければ、夜は早めに寝るしかないから、そういう不規則な生活にはならない。エネルギーを大量に使う生活はからだによく無いと考えるのは短絡のしすぎでしょうか。
でも、江戸時代は寿命が短かったじゃないかといわれます。たしかに短いです。今のような抗生物質もサルファ剤もありませんから、人は簡単に死にました。また、江戸時代は小児死亡率が無茶苦茶高い。当時は世界中そうです。昭和10年ごろでも、子どもは簡単に死にました。江戸時代と同じです。

今は食べるものがいくらでもある。太るような生活になってしまっているんです。そこへもってきて、テレビで食べる番組の多いこと。これでは否応なく太ります。そうすると、太らせる道具と痩せさせる道具の両方のコマーシャルをやる。これを同じ会社がやっていたらもう犯罪ですよね。結局、何から何まで、エネルギー=電力を使うような構図になってしまっているんです。それに乗せられるほうも悪いんですが……。
改めて言いますが、エネルギーをたくさん使うことは決して身体にいいことではないし、健康なことでもありません。しかし、やめろと言っても、もうやめられません。私たちは今の生活を変えよう、省エネをしようと言っても、今日のお題にあるように、設備に頼らないと暮らせないようにされてしまっているんです。言い換えれば、設備に頼らずに省エネすることはできなくなってしまったのです。
江戸時代。もともと石油などなかった。エネルギーゼロ。でも、それで不安だということはなかった。人間はなければないように、ちゃんと暮らせるようにできているんです。丈夫で長持ちするものを使えば、人間そこそこやっていけます。江戸時代を見ていて一番分かることは、少ないエネルギーでも人間は普通に生きていけるのだということです。そう思えば安心できます。そこから学べることは、「いざとなれば恐くない」ということです。

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