くらしノベーションフォーラム レポート

第8回 くらしノベーションフォーラム  2012.6.18開催

テーマ: 団塊親子の今後と住宅

講 師:三浦 展氏
カルチャースタディーズ研究所 代表取締役
1958年生まれ。一ツ橋大学社会学部を卒業し、(株)パルコに入社、同社のマーケティング雑誌『アクロス』編集室に勤務し、1986年に同誌編集長に。90年から三菱総合研究所の主任研究員になり、99年に独立、消費社会・文化・都市研究のためのシンクタンク「カルチャースタディーズ研究所」を設立、同社の代表取締役に就任し、現在に至る。著書に『下流社会』『郊外はこれからどうなる?』『これからの日本のために「シェア」の話をしよう』など多数。

団塊世代の完全リタイアの時代

これからの「家族」と言っても幅が広いが、マーケットを考えている者として、一番分かりやすいのは団塊の世代とその子どもたちの世代だろうと思い、今回のテーマを「団塊親子の今後と住宅」というタイトルにさせていただきました。
ふと気づくと、隣の部屋で高齢者が孤独死している。そんな話題を2年ほど前、NHKが「無縁社会」という番組で放映し、話題になりました。また、震災の直前、足立区で白骨死体が見つかった。年金を払っているはずなのに姿を見たことがないと。そんな話題がマスコミを賑わしました。
多摩ニュータウンの話を聞いても、大体1棟当たり毎月1人孤独死があるなどという話も聞きます。
私のマンションは杉並区なんですが、杉並区、世田谷区にいち早く起きている高齢化が今後、団塊世代がたくさんいる郊外の住宅地でも起こり、かつてはニュータウンと言われたまちでオールドタウン化が進行すると、この10年間、ずっと言われてきました。その団塊世代の定年が5年前から始まりました。再就職・再雇用もありますが、1947年生まれは65歳ですので、再雇用もそろそろ終わりとなり、今年、来年、再来年と、団塊世代の完全なリタイアが起きます。それまで会社人間だった団塊世代も、これから10年経てば75歳、20年経てば85歳となります。まちは完全にオールドタウンとなって行き、彼らも単に順調に歳をとっていくだけならばいいのですが、それだけですむでしょうか。

ニュータウンからオールドタウンへ

これは1980年のニュータウンの図です。【ニュータウン1980の図】当時、団塊世代の1947年生まれが33歳ですね。奥さんは32歳か31歳。こんな時代に家を買ったはずです。当時は今と違って33歳にもなると、子どもが2人いて、大体7歳くらいの子どもと4歳くらいの子どもがいる。子どもが小学校に入ると部屋が必要かなと、杉並区の家では狭いなということで、所沢とか八王子とか大宮とか柏のニュータウンに家を買われた。これが1980年頃の状況です。で、大体庭にホンダのシビックが並んでいる。こんな状況だったと思います。
今はどうでしょうか。【オールドタウン2010の図】30年経ちましたので、お父さんは定年、再雇用はされたけれど給料は少ない。子どもはめでたく大学を出て就職をして、ひとり暮らしなり結婚するなりして出て行った家庭もあるでしょう。ところが、まだ2人とも結婚せずに残っているという家庭もあります。これが意外に多い。団塊世代の子ども、「団塊ジュニア」という言葉がありますが、実はこの「団塊ジュニア」という言葉の中に団塊世代の子どもたちをあまり含んでいないのですね。団塊世代の女性が産んだ子どもは相当数いますが、男性の子どもは73年生まれくらいから増えまして、76~78年生まれくらいが多いんです。今の35~37歳くらいです。今、東京圏で35歳くらいの男性で結婚していない人は大勢います。女性も同様で、まさにパラサイトシングルの息子と娘が一緒に住んでいるという家庭も珍しくない。その隣の家はというと、息子は結婚して家を出たのだけれど、娘は結婚し、旦那さんがマスオさんとなって一緒に住んでいる。そして子ども2人、孫も生まれた。子どもが1975年生まれだと35歳で、その子どもは5歳とか10歳になり、3世代同居、2世帯住宅として住んでいる。車はステップワゴンのような大きな車を持っている、こんな家庭も珍しくない。中には、子ども1人はひとり立ちしたけど、まだパラサイトシングルの娘が1人残っているという家庭もある。30年経って家族の形が多様になったんですね。

拡大拡大

パラサイトシングルの登場

息子世代が、どこかのニュータウンでまた新たにニュータウンになる街をつくっていればいいのですが、そうではない。まだ親元にいるとか、1人残っているとか、昔と違って家族の形成が単線的ではなくなりました。昔は、親元を出る、ひとり暮らしをする、結婚をする、2人で暮らす、ほどなく子どもができる、2年もするともう1人できる、そして家を買うというように、非常に単線的な人生でしたが、最近はフィードバックする人がいるのですね。嫁に行ったと思ったら、離婚して帰ってきたというパターンのパラサイト。これも結構います。さらに子どもを連れてという場合もありますね。最近、2.5世帯という言い方もあるそうで、お父さん、お母さんと息子夫婦の2世帯に、結婚したお姉さんが戻ってきたというようなことが珍しくなく起きているということです。
でも、家族みんなで楽しく暮らしていければいいじゃないかという話もあるんですが、実態はお父さん、お母さんはもう収入がなくなって、年金頼みになっていく。息子が立派な会社の社員であったり、家族を支えることができれば問題はないのですが、息子も娘も非正規雇用で年収200万くらいでひとり暮らしは無理、親も年金収入を夫婦合わせて400万程度で、家族全て合わせれば800万になりますので、リッチな世界と思ってしまいますが、一人ひとりは200万くらいの生活なのです。だから一人では暮らせないので4人で暮らしている。そこで、みんな元気なうちは良いのですが、お父さんが寝たきりで何年も経つとか、お父さんが先に逝かれればまだしも、団塊世代はまだ男女の役割分担が顕著な世代ですから、お母さんがきちんと専業主婦をやっていて、お父さんは何もできないという家庭はいくらでもあり、そんな状態でお母さんが病気になったり若年性の痴呆症になってしまったりすると大変なことになります。家には非正規雇用の息子と娘がいるけれど、経済的に頼りがないという、こんな家族の姿もあるでしょう。

オールドタウンがゴーストタウンに

1980年の時点では順風満帆、みんな幸せに育ち、子どもは独立して、後は夫婦2人で仲良く暮らそうと考えてこられたはずですが、そう簡単にはいきません。もしかすると、息子、娘も出て行って、離婚をしたお母さんのひとり暮らしというパターンもあるかもしれません。これがさらに30年経過して2040年になったらどうなるか。まず、団塊の世代が93歳になります。この93歳と92歳の老夫婦のもとに67歳の息子がまだパラサイトしている。一体どっちが世帯主なのかよく分からない。こういうこともあり得ます。もちろん独居老人で、家に1人で寝たきりのところに息子や娘が面倒を見に来てくれたり、一緒に住むこともあるでしょうし、完全に空き家になってしまうこともあり得ます。親が2人とも亡くなられ、息子や娘もその家はいらないというケースですね。つまり、ニュータウンがオールドタウンを経てゴーストタウンに近いものになる可能性もあります。こういう暗いシナリオの本を書きますと、新書というものは不思議なもので、たくさん売れたりするのですね。問題意識を明らかにし、問題提起をするのが本の狙いとなります。しかし、終わりには、やはりどうにかしたいというビジョンも描いておきたいと思っています。これらのかつてのニュータウンをゴーストタウンではなく、「ゴールドタウン」にしようという話です。どうやったらゴールドタウンになるのかというのは最後にお話ししますが、今までのやり方では無理だと思います。違うやり方をしないといけない。その方法論のひとつは、シェア的なライフスタイルを強めていかないといけないのではないかということ。もうひとつは、住宅・不動産業界に関していえば、これまでは住宅を売っておしまい、売りっぱなしビジネスを、これからは売った後もずっと面倒をみるメンテナンス・ビジネスにしていく。この2つが要点だと考えます。

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