くらしノベーションフォーラム レポート

第10回 くらしノベーションフォーラム  2013.2.13開催

テーマ:今どきの「子育て・共働き家族」の暮らし

旭化成ホームズでは、共働き家族の暮らしに着目し、1989年に共働き家族研究所を設立し、96年までに15の研究レポートを発行しました。今、時代の変化と共にパート・アルバイト中心の共働きからフルタイム雇用を中心とする子育てをしながらの共働き家族が一般的となりつつあります。今回、新たな調査を進める中で、四半世紀に渡る過去の研究結果と現在の比較分析をおこなった一部をレポートします。また、後半では、『イクメン』という言葉の生みの親であり、ワークライフバランスの論者として著名な渥美由喜氏にご講演をいただきました。

報告1:共働き家族研究の経緯と社会背景
旭化成ホームズ(株)共働き家族研究所長
入澤 敦子

報告2:夫の家事・育児への関わりと価値観
旭化成ホームズ(株)くらしノベーション研究所 研究員
伊藤 香織

講 演:『イクメン』という生き方の選択
講 師:渥美 由喜氏
厚生労働省政策評価に関する有識者会議委員(東レ経営研究所研究部長)

■『イクメン』という生き方の選択
◇なぜイクメンがブームになったのか

イクメンという言葉は7年前から使われ始めました。当時厚生労働省の調査で、女性が結婚相手に求めるものの1位は「経済力」、2位が「育児家事を手伝う」で「容貌・容姿」の4倍でした。「イケメンにはなれないけど、イクメンにはなれる」とこの言葉を使っていたら、流行語大賞にもなりました。しかし、まだ希少価値です。これが「あいつワクメン(ワークホリックの男性)だって、珍しいね」といわれる時代に早くなって欲しいと思います。
イクメンの背景にあるキーワードは「あんな上司、父親にはなりたくない」。私の場合は、家に帰らなかった自慢をして長時間労働合戦を行っているような会社に違和感を覚えていました。
ワークライフバランス、ダイバーシティがなかなか現場に浸透していかないのは、ピラミッドの中間層に、いくらレクチャーしても染み込まない粘土層のような人たちがいるからです。しかし、今の若い世代は非常に堅実で、共働きは安全・安心の保険という世代。明らかに価値観が違います。
私が2回の育休を取得したとき、女性は応援してくれましたが、逆に男性の反応はとても冷ややかでした。1回目はどこでも珍獣のような扱いでしたが、2回目は平日の昼間にベビーカーを押している男性の姿は一般的になりました。「産後クライシス」という、産後の大変な時期に一緒に家事育児をやろうとしない夫、またそれを全容している社会のあり方に対して問題提起をする言葉にも代表されるように、社会が変化してきています。
これから日本の企業は介護に関して大きなリスクを負います。今、子育てさえできない企業は、いつ始まりいつ終わるのか不透明な介護に立ち行かなくなります。ですから先が見えている企業はこれからくる介護ラッシュに備えて、子育てでカバーし合える体制や安心して働ける職場づくりに着手しています。

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◇イクメンという生き方のよい面、大変な面

イクメンブームは大きな社会の変化に対応する動きです。人口減社会で労働力が減っていく中で、女性の活躍とワークライフバランスについては基本的に国策であり、男性は確実にこれからもっと育児をします。
イクメン・カジダンはリスク回避になるだけでなく、イクメンという生き方は人生が豊かになります。「気づき」のきっかけになりますし、立ち止まるメリットを実感します。また、職場での同時並行力やリスクマネジメントにも非常にプラスになります。
ワークライフバランスに取り組むと、職場に効率化のメスが入ります。基本的に、ライフを充実させるとワークが劣るわけではなく、業務を圧縮して日々時間当たりの質を高めるというイメージで、知恵をいかし、子育てしているわけではない人たちも生産性を高めていくことがポイントです。
家事・育児はやればやるほどビジネススキルも大きく伸びるので、男性も育休をとるべきだと思います。ただ、男性自身の家事スキルが低い、そういう夫に任せたら妻も不安・不満がある。祖父母世代の反対や職場の無理解などもあり、ハードルは高いです。

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◇イクメンの今後の展望

イクメンブームの今後に関して、私は、自分が育つ、次世代のイクメンを育てる、地域を育てる(イキメン)を3本柱に考えています。もし自分の子どもだけを猫かわいがりする男性が増えたら、モンスターペアレントの温床になるだけかもしれません。自分の子育てをきっかけに地域とつながる「イクメンからイキメンヘ」というのが男性の育児参画の最大の意義だと思います。
私が最もイクメンでよかったと思うのは、介護のストレス耐性が増したことです。4年前に認知症と統合失調症を併発した父から罵詈雑言浴びせられても踏みとどまれたのは、育児をしていたおかげで「せいぜいこれは数年だ、それまでの数十年、愛情込めて育ててくれたんだ」と思えたからです。介護は、いずれ自分も老いたときにしてもらうことの疑似体験。お互いさまの「介互」だと思います。
私にとってワークライフバランスやイクメンは、机上の空論でもきれいごとでもありません。それを実現しなかったら家族が幸せになれないのです。今は、子どもたちが生まれてきてよかった、親が晩年に生きていてよかったと思えるサポートをしています。
私はかつて、不幸なことが起きないのが幸せだと勘違いしていました。しかし、5Kライフ(会社員・子育て・家事・介護・看護)を経験して、そういうことが起きたときに逃げたりするのではなく、きちんと向き合い、周りの人と協力して乗り越える、そのプロセスに幸せがあると気づきました。たとえば子育てで嬉しいことは妻と分かち合って倍増し、つらいことは分かち合って半減していく。職場も同じです。男性も女性も、誰もがこの会社で働いていてよかったと思える職場づくりを進めてほしいと思います。
ワークライフバランスとは「よかったづくり」、頭文字は「ワかちあい ラくあり、くあり バトンリレー」だと思っています。

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