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リウマチほっとネット ドクターインタビュー

治療上の不安やわからないことがあったら、恥ずかしがらずにご家族など周囲の力を借りましょう

■ 日本の高齢化を凌ぐ関節リウマチの高齢化

──高齢化の進展に伴い、関節リウマチを患う方の高年齢化も進んでいることと思いますが、長年診療に携わってこられて、どのような実感をお持ちになっていますか?

川上:私が関節リウマチの外来診療に携わるようになって30年ほどになりますが、その間にどこかの時点で急激に患者さんの高齢化が進んだというより、じわじわと進んできて、気づいたら30年前に比べるとかなり増えていたという印象です。
関節リウマチ患者さんの平均年齢をみると、年々高齢化しています。理由として考えられるのは、以前は関節リウマチの患者さんの生命予後はがんと同程度で、一般人口よりも10年くらい寿命が短いといわれていました。それが最近では健康長寿を達成できる方が増えて高齢化にあらわれてきたと考えられます。これは早期診断・早期治療の浸透が貢献しているのでしょう。

■ 日本全国関節リウマチデータベースにおけるリウマチの発症年齢分布(上)と年齢分布(下)の推移

──長く患いながらも、上手にコントロールできている患者さんが増えているのですね。高齢で新規に発症するという方も多いのでしょうか?

川上:新規に発症する患者さんの高齢化も進んでいます。これも下の図に示すとおりです。もちろん日本全体の高齢人口が増えたという背景もあります。

対象は03年度、08年度、13年度に早期RA(発症2年以内)として日本全国関節リウマチデータベース(NinJa)に登録された患者(02~03年度発症患者536例、07~08年発症患者812例、12~13年発症患者1864例)。

E Kato, et al. Int J Rheum Dis. 2017 Jul;20(7):839-845

■ 高齢のリウマチ患者さんの治療を難しくする合併症の存在

──高齢の患者さんは若い人に比べてどんな特徴があるのでしょうか?

川上:高齢患者さんと若い人の違いは、発症や症状についても指摘されている点はありますが、間違いなくいえるのは併存症が多いことです。高齢になるとがんや心不全、慢性肺疾患、等々の病気を併発することが多くなります。この併存症というファクターが治療の選択に色濃く反映し、それを難しくしてしまう側面があります。

──併存症の存在が治療を進める上で、どのように影響するのでしょうか?

川上:一般的に高齢の関節リウマチ患者さんでも、併存症や合併症がなければ若い方と変わらない治療、つまり抗リウマチ薬のメトトレキサート(MTX)を第一選択薬として、その効果が不十分なら生物学的製剤を含む分子標的治療薬により、寛解を目指した治療戦略をとるべきと考えます。しかし、これらがあると治療が制限されます。例えば、腎臓での代謝や肺の問題で薬を十分に使用できないなど、治療が困難になってしまいます。これにより寛解を目指すのが難しくなり、LDA(低疾患活動性)を治療目標とする場合もあります。
また、併存症を評価するための「チャールソン併存疾患指数」という指標があり、この指数が高い、つまり各種併存症に罹患していると、治療薬の選択が狭まり、疾患活動性のコントロールが難しくなるといわれています。このように、高齢の方の関節リウマチでは、併存症が治療を最も難しくしている点ではないかと考えます。

チャールソン併存疾患指数

──併存症に配慮して、診療では具体的にどんなポイントを注意されていますか?

川上:併存症全般の状態を把握するとともに、なかでも加齢に伴って腎機能が落ちてきますのでその状態に細心の注意を払って、腎代謝型の薬剤の量を調節しています。また、生物学的製剤は感染症が心配ですから、肺の状態をチェックすることも重要です。こういった点をふまえながら、使用する薬剤の選択を考えています。
また、今は悪性腫瘍(がん)で2人に1人が亡くなる時代ですから、これも念頭に置いていますが、がんは初めのうちは症状が出にくいですから、体重が減ってきたとか、疲れやすくなったとか、そういうサインを見逃したくないというのは常にあります。さらに、高齢になって筋肉量が減少して筋力や身体機能の低下をきたすサルコペニアも、転倒の可能性があるため、それによって寝たきりの状態となれば治療に影響しますので、気にかけています。このような点をふまえて、治療薬をよく考えないといけないと思います。

──誰しも歳をとれば理解する力も落ちるもの。恥と思わずまわりの力を借りてほしい

川上:高齢の場合、患者さんご本人の努力だけでなく、ご家族やまわりの協力がより大切になると考えます。私自身もそうですが、歳をとると若い頃に比べて記憶力やものを理解する力が落ちてきますし、隠れ認知症の方もけっこういらっしゃいます。そのため病状の理解や正しい服薬、自己注射など、様々な面で問題が生じてきます。介護保険の力を借りなければいけないこともあるでしょう。ですから、治療をスムーズに進めるためには、診察にご家族が同席されるのも一つの方法と思っています。

──患者さんの中には、自分はまだまだ一人で大丈夫と思っている方も多いのではないでしょうか?

川上:日本人は、わからなかったら恥だという気持ちが強いように思います。しかし、たくさんの種類の薬や疾患自体に対する不安があって、こりゃわからない、と思ったらご家族や信頼できる方と一緒に来るのを恥ずかしく思わないでほしいのです。難しいよ、そう簡単にはわからないよ、という時はまわりの力を借りれば良いのです。三人寄れば何とやらというじゃないですか。

──ご家族などのサポートを受けることで、患者さんご自身の治療への取り組み方にも変化があるでしょうか?

川上:患者さんのアドヒアランス(治療や服薬に積極的に関わり、その決定に沿った治療を受けること)は、医師との信頼関係によって築かれるものです。そのためにも私たちは薬の内容や患者さんの状態を正確に説明して理解を促すのですが、先に述べたように特に高齢の方は、どうしても理解する力が落ち、自分の世界に入り込みがちになる場合があります。そこをご家族など信頼できる人が理解してくれれば、患者さんご自身も安心でき、医師への信頼も生まれて治療に前向きになってもらえるのではないでしょうか。

■ ご家族の協力で、より正確な情報のやりとりが可能に

──患者さんを支えるご家族の役割が大きいと感じます。診察時や家庭で気をつけることはありますか?

川上:薬剤の有効性を最大限に生かすためにも、受診時には併存症や合併症の状況をできるだけ正確に把握したいのですが、患者さんのお話では情報が少し足りないことがあります。そんな時にはご家族の方からも詳しいお話をうかがい、情報を補完できればと思います。加えて、ご自宅では薬の副作用の出方にも気をつけていていただければと思います。というのは、例えば肺炎は若い人なら呼吸器症状が前面に出ますが、高齢者では元気がないとか食欲が落ちたとか、全身症状としてあらわれることも多く、気づきにくいケースがあります。そんなサインを見逃さないようにして、いつもと違うと感じたらすぐに医師の方へ連絡いただきたいです。近年増えてきた高齢患者さんへの生物学的製剤による治療も、そのようなフォローアップがあればより安全にできるものと考えます。

──生活面ではいかがでしょうか?

川上:もし患者さんに併存症を悪化させるような生活習慣があれば、できるだけ控えてもらえるようご家族から促していただくのが良いでしょう。また、患者さん本人には、薬の影響による感染症の予防として、昨今の新型コロナウイルス対策と同様に手洗い、うがい、マスク着用、人混みを避けるなどを心がけていただければと思います。

──最後に、これから長く関節リウマチ治療を続けられる患者さんやそのご家族に、アドバイスをお願いします。

川上:すべての病気に通じると思いますが、私たち医師は看護師、薬剤師らとのチーム医療で協力しながら、病気のことや使う薬剤のメリット、デメリットを詳しくご説明しますので、できるだけそれを理解していただき、なにかわからないところがあれば聞いていただきたいと思っています。そんな時に、一人では不安なら身近にいてわかる方と一緒に来ていただくと良いと思います。そうすることによって正確な情報が伝えられるでしょう。関節リウマチでは、すべての薬をやめられるというのは現実的ではありませんので、今後も長く治療を続けていかれる高齢の患者さんには、ご家族とともにわからないことを一つひとつクリアしていきましょうと申し上げたいです。

高齢の患者さんがリウマチ治療を受けるときのポイント

  • 高齢の患者さんでは、併存症や合併症により薬剤の選択が変わってきます
  • 治療上の不安やわからないことがあったら、恥ずかしがらずにご家族など周囲の力を借りましょう
  • ご家族の方も高齢の患者さんの変化に気づくよう、サポートを
日本医科大学
大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野 日本医科大学付属病院 リウマチ・膠原病内科 教授
桑名正隆先生
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