くらしノベーションフォーラム レポート

第1回 くらしノベーションフォーラム  2010.6.24開催

テーマ: 少子高齢化・人口縮減時代における家族と住まい

講 師:園田眞理子氏
明治大学理工学部建築学科教授 工学博士・一級建築士。石川県生まれ。1979年千葉大学工学部建築学科卒。1993年同大大学院自然科学研究科博士課程終了。専門は建築計画学・住宅政策論。特に高齢社会に対応した住宅・住環境計画について、多数の研究、政策提言などを行なっている。

居住者の描き出した将来計画のストーリー

アンケートの回答者のうち7割以上を60歳以上が占め、ここからは60代以上のシニアの方に限って集計、分析したものをご紹介します。
まず、『現在お住まいの住宅にずっと住み続けますか?』という問いには、住み続ける、と答えた方が62.9%、住み替えたい、と答えた方が10.6%で、24.5%がわからない、という答えでした。続いて『あなたかあなたの配偶者が健康に不安になった時、どうされますか?』という質問をしてみたところ、住み続ける、と答えた方が53.4%になり、住み替えたい、と答えた方は22.6%になりました。加齢不安により居住継続意向が10ポイント近く減少し、その分住み替え意向が2倍以上になったわけで、今の家を終の棲家と考えているシニアは半数程度ということになります。シニアの高齢化や健康不安に対する配慮が郊外住宅地に求められているのではないでしょうか。

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次に『最終的に、家は誰が継承されると思いますか?』とお聞きしたところ、全体の4分の3にあたる75.5%の方が子どもが相続する、という回答でした。サブクエスチョンとして『家を相続したお子さんはその家をどうすると思いますか?』と質問してみると、子どもが住むだろう、と答えた方は3分の1の33.7%しかいらっしゃいませんでした。売却が11.7%、わからないという答えが35.4%にのぼります。相続が発生するのが80-85歳とすると、相続する子どもも50歳以上で既に住む家はあり、世代継承の相手は孫の世代と考えるのが現実的かも知れません。上記の数字から単純に計算すると、現状で次に住む人の当てがあるケースは全体の1/4しかないことになります。今後住み続けることができ、やがて次の世代に継承されていく循環型の住宅地にするにはどうすればよいか。その課題をビジネスチャンスと捉えて解決の可能性を探る必要があると思っています。
そこで、そのような郊外住宅地に住んでいる方たちの今後の選択肢を考えたときに、中身に合わせて殻を持つ「かたつむり型」と殻を取り替える「やどかり型」という2つのビジネスモデルを考えました。

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現状の主流である「かたつむり型」ビジネスモデル

現在のストックは圧倒的に世帯形成期から成長期に合わせた「かたつむり型」なので、老後期を見据えてリフォームする「延命型」か、夫婦二人の住まいにダウンサイジングしたり逆に二世帯住宅にして大きくする「建替型」か、そこに現状の延長としてのかたつむり型ビジネスの大きな需要があると思っています。投資できる間にイニシャルにちゃんと先行投資をしてランニングコストが安く済む家にするというのが老後の暮らしには必須条件で、それを論理的に訴求して需要を喚起することが必要です。もう一つ、大都市の郊外住宅地というのは自然発生的リタイアメントコミュニティであり、地域全体で高齢化の問題を解決しようとすれば、家族だけではできない価値を創造できる。そのためには共有財産を持つ運命共同体にすること、例えば街の拠点としてそれぞれが出資して企業と市民が第三の主体を作り、「グラン・クラブハウス」を建て、運営する。リスクヘッジではなく敢えてその地域でリスクテイクする。これが新しいエリアマネージメントのあり方ではないかと思います。

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サービスを主体とした「やどかり型」ビジネスモデル

一方の「やどかり型」は人生が1.5倍の長さになった今、先の5拍子に「独身期」と「要介護期」を加えた7拍子まで考え、居住者の生活にあわせて家を住み替えていくライフスタイルです。潜在的には需要がたくさんあると思いますが、現状では古い建物価値はゼロ、土地価格デフレ、個人間の中古流通取引の大変さ、という3つの大きな問題があります。これに対して、旭化成ホームズが提案するリバースモーゲージや、JTI(移住・住みかえ支援機構)では、シニアの方の家を借上げて若い方に貸し、その賃料をシニアの方に戻し、シニアの方は新しいところに住み替えるという取組みが始まっています。賃貸価値は建物価値ほどには下がらないし、大きな組織がリスクを取って全体が回るような仕組みがもっと広がると良いと思います。住み替えを促進するには「ハコ」ではなく「サービス」が重要であり、そのメニューとして考えられるもの3つをご紹介します。
ひとつは住み替え先に緩やかに移行していくために、一時的に仕事部屋などもうひとつの住まい「アネックス」をもち、しばらくしてから前住居を売却するようなやり方。2つ目におばあちゃんだけで集まって住めるような、「シニアペンション」的なものを作って、そこに住み替えていくような方法。最後に優れた教育環境や豊かな緑、安全性を高めるコミュニティの存在といった価値を再評価し、住宅地のブランド価値を高めて売却して世代交代につなげるビジネス。住宅産業は「住生活総合産業」としてこういうサービスも提供していく必要があると思います。

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