メディア向けフォーラムレポート

第12回 くらしノベーションフォーラム

ナワバリ学で家族と住まいを読み解く


講演

ナワバリ学で家族と住まいを読み解く

講演:小林氏 報告:松本

1.ナワバリ研究の始まり(地域におけるナワバリ)

 ナワバリ学とは、動物のナワバリをヒントに人間行動を解明する研究です。30年近く前、さまざまな高層住宅を見学して、同じ高層住宅でもずいぶん雰囲気が違うと感じたことがきっかけで始めたのですが、進めるうちに、ナワバリ学が「防犯性の高い住環境」を極めてよく表現してくれることに気付きました。
 顔見知りが多かったり、通路に植木鉢を置いたりすると領有意識が形成され、ナワバリになります。すると、見知らぬ人が入ってきたら注意しようとする行為(自然監視)が発生し、安心感が生まれます。このような「住民のナワバリ(共有領域)が防犯性を高める」という理論の詳細は、1992年に私が書いた「集住のナワバリ学」をご覧いただくとして、今回は昨年出版した「居場所としての住まい」の中から、住まいの中の家族のナワバリを通して、「居心地の良い住まいとは何か」をお話ししたいと思います。

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2.ナワバリ学からみた家族と住まい

 住まいのナワバリを調べるときは、「誰が利用しているか」ではなく、「誰が管理しているか」という視点で見ていきます。昔の家父長主導型の間取りでは個室はなく、家全体が父のナワバリだったと言えるでしょう。父を頂点とした順位制の住まい方です。一方、都市住宅のモデルであるnLDKの間取りからは、家族皆のナワバリとしてのLDKと、個々のナワバリである個室で構成する、という家族平等の理念が感じられます。ところが実態は多様で、続き間座敷のある間取りでは父主導型の伝統が受け継がれていることが多く、都市LDK型に代表される間取りでは母主導型の傾向が見られます。
 また、子ども部屋を調べてみると、しばらくは母親のナワバリで、14歳頃から子どものナワバリに移行していきます。1歳から子ども部屋で寝かせる欧米とは違って、日本では自立が遅い傾向にありますが、子どもの成長段階に応じておおむねうまく使われているといえるでしょう。しかし成人後も掃除などの管理を母親が行う密着傾向が3割ほど見られる点は要注意です。
 このように日本の家族と住まいのあり方をナワバリ学で考察してみると、日本の典型は封建集団(家父長主導型)から、現在の温情集団(母主導型)に転化し、子どもが中高生になると母子関係が上下関係から友達関係へと移行し友愛集団に変化していく、と解釈できます。
 個室化が進んだにもかかわらず、 欧米のような個人主義と異なり、家族温情主義(順位制)が残っているのは、時代変化が見られない「床上文化」の影響と思われます。玄関で靴を脱いで床上に上がる生活様式は、家全体を「ウチ」と認識させ、一体感を育みます。これからもこの住まい方の傾向は当面、維持されるでしょう。
 私は理想の間取りは普通の間取りと考えています。日本人の住まい方として支持されたから普通になっているのであり、今の一般的な3LDKは、居間と和室がつながり、柔軟な住まい方を可能にする優れた間取りといえます。それをナワバリを変化させながら住みこなすことが大切です。

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3.ナワバリ学から三世代同居を読み解く

 三世代同居世帯は大都市で減少してきていますが、親と同居・隣居を希望する子世帯は現状の2倍と多く、二世帯住宅のような住まい方が再評価されてきています。2000年の介護保険導入によって子世帯の負担が減り強制的同居から選択的同居に変化してきたことに加え、働く女性の増加に伴う子育て支援への期待、安上がりで楽しい暮らしができるという経済的理由などのためでしょう。
 親子両世帯が同居するとき、生活空間が一体である「完全同居」から、同一棟内であっても完全に分離した「隣居」、その中間形の共用空間を持つ「部分同居」などの様々な形態があり、それぞれにナワバリ争いを避けるための工夫が必要です。完全同居の場合は、住み方のルール、すなわち「順位」を決めることによって円満に暮らす知恵が必要です。また、年齢によっても順位が変化し親主導の「支配型」から親が衰える、一人の親が亡くなるなどをきっかけに「老いては子に従え」という「従属型」に変化していきます。この親子間の主導権の移行を円滑にするために、昔は「杓子渡し」といってしゃもじを姑から嫁へ譲る儀式が定着していましたが、現代の同居においても、現代版「杓子渡し」のような、主導権の委譲を宣言するような工夫が必要だと思います。
 一方、母が家事を行い、子世帯は夫婦共働きという「分担型」が増えているのも現代の住まい方の特徴です。この場合、将来介護が必要になったときに介護保険によって問題は緩和されたものの、子の留守中にヘルパー等、他人が家に入ることが多くなるという新たな問題が考えられます。住宅には、鍵の管理の工夫、子世帯ゾーンを区分する工夫などが必要になるでしょう。
 隣居は空間(ナワバリ)を分離することで円満に暮らす知恵と言えます。このノウハウについては旭化成へーベルハウスでの工夫と経験の積み重ねがありますので、後の講演に譲りたいと思います。介護が必要になっても分離型のまま住み続けることができますが、最後は二世帯住宅のうち一つが空き家になるため、その活用策が課題となります。
 親子世帯で共用の空間がある、部分同居の場合はどうでしょうか。日本では共用空間があると順位が生じ、みんなの場所をみんなで管理しようとすると失敗しやすいことがわかっています。雪国の雁木のように、誰かの場所(ナワバリ)として、誰かの場所に集まるという仕組みが自然で円滑に暮らせます。

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4.ナワバリ学による住まいの見方

最後に、ナワバリ学による住まいの見方をまとめます。

①集団生活には順位が生じる
 上座下座、空気を読むといった順位行動により、個室のない住まいでも円滑に暮らすことができます。ただし、順位は家族の成長段階によって変化しますので、それに対応していくことが大切です。

②平等を実現するためにはナワバリによる棲み分けが必要になる
 順位制の対極には一人ひとりのプライバシーを尊重するナワバリ制があるというのが基本的な考え方です。子ども部屋も決して悪玉ではなく、どう住みこなすかというマッチングの問題だと思います。

 現代の家族と住まいは、居間では集団生活が、個室ではナワバリ生活があるので、①、②の両方の性格が混在しています。これらをうまく応用し組み合わせることで、理想の間取りや暮らし方のヒントが得られるのではないかというのが、ナワバリ学の見方です。

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