当研究所では、ヘーベルハウスへの防犯ガラスやサブロックなどの防犯仕様の導入に伴い、2003年に戸建侵入調査の研究を始め、06年発表の「戸建住宅の侵入被害 開口部に関する実態調査」において、被害が建物奥の死角に集中していることを指摘。11年に発表した「みまもり型防犯設計ガイド」においては、1階では住民同士による「みまもり」を活かした防犯対策を基本とし、プライバシーとの両立の条件を検証しました。また、設計手法としては、この10年間は敷地奥への接近を制御するゾーンディフェンスを軸として、時間を掛けさせる防犯ガラスやシャッター面格子などのハードディフェンス、居住者の用心をサポートする録画インターホンや戸締まりの電動化、照明点灯の自動化などのソフトディフェンスを組み合わせたASDS(Asahikasei Secured Defense System)という、総合的な防犯対策の考え方を提案してきました。
ヘーベルハウスの侵入被害調査の特徴は、住宅対象の侵入窃盗の約7割を占める空き巣を主な対象とし、アフターサービスの記録から侵入被害の図面を参照し、被害件数/存在棟数でリスクを算出するという、被害に遭った環境の分析を行っていることです。今回は防犯仕様導入後の2003年以降のご契約における2006-15年の10年間の被害を対象としました。対象の棟数は06年2万2000棟から15年時点で8万7000棟と約4倍になりましたが被害件数は年間約60件であまり増えず、1万棟あたりの被害件数=リスクは、10年間で約1/4と、一般的な戸建て住宅より大きく減らすことができました。但し中部三県(愛知県が中心)で13年を中心に増加傾向が見られ他エリアと違う傾向を示しています。このため中部三県とそれ以外に分けて分析することとします。03年以降、1階の5割以上は防犯ガラス化されましたが、被害は1階が9割を占めています。
道路の接道面数によるリスクの違いが少ないので、中間画地に絞って被害箇所と道路の位置関係を分析しました。中部以外では2006-10年では敷地の奥に8割が集中し、2011-15年では手前の比率が少し上がっています。リスクで見るとゾーンディフェンス等の取り組みにより敷地奥の被害が減った結果、手前の比率が高くなったと解釈できます。しかし中部三県では2006-10年でも敷地手前の被害が中部以外より多く、2011-15年では敷地奥より手前の方がむしろ多くなっています。
愛知県警に相談した結果これは愛知県の組織的な犯罪グループによる被害ではないかと推測しました。このグループは車で来て見張りを立て、従来の死角型とは異なる「手前型」の環境を選び、正面の玄関や窓を大型のバールでこじ開け短時間で侵入することが特徴です。分類してみると手前型は中部三県で元々多い傾向があり2012-14年に集中的に発生しています。手前型の被害には主に車利用の立地で敷地に自由に車を乗り入れられる外構という共通点があり、対策としてシャッターを閉め、車の乗り込みを防ぎ、留守に見えないよう室内外の照明を点灯しておくこと等が考えられます。これらの対策を呼びかけた効果と、警察による犯罪グループの検挙、つまり自助と公助の双方での取り組みが犯罪を防いでいると思われます。
開口部からの侵入手段を警察の一般データと比較することにより、これまで行ってきた防犯対策の効果検証をしてみたいと思います。玄関からの修理被害として把握しにくい無施錠が侵入手段の7割以上を占めますが、それ以外の分布を見るとガラス割りや施錠開けが少なく、防犯ガラスや錠の強化の効果と思われます。こじ開けへの対策は鎌形状のデッドボルト等を導入済みですが90cmのバールを車で持ち込む中部三県ではこじ開けでの侵入例が多くあります。勝手口は上げ下げ窓を開けたままでの無施錠被害が多く、居住者の油断への注意喚起が必要と思われます。窓で一般に比べガラス割りが少なく防犯ガラスで特にこじ開けが多いのは、防犯ガラスによる被害の転移といえるでしょう。
一方、2m以上の高さにある窓やシャッターが閉められた状態、面格子+窓が閉められた状態では被害は極めて被害が少なく、高窓の効果や外出時にシャッターを閉めることの重要性を示しています。
二世帯住宅のリスクは単世帯の0.42倍であり、中部三県でもリスク減の効果を安定して発揮しています。二世帯は防犯上安心と言われますが、その効果を定量的に示した形となりました。一方防犯上不安と言われることが多い2階リビングですが、リスクは1階リビングの0.58倍と、むしろ2階リビングの方が安全、という結果となりました。これは2階リビングの効果というよりも、2階リビングとするような密集地が安全になってきていることが大きく影響していると思われます。2階リビングの被害物件の敷地面積は1階リビングの半分以下でした。
10年間被害を調べてみて、総じてこれまでの防犯対策は効果があったといえます。防犯ガラスのようにこじ開けへの転移が見られるケースでも、一般の知見からはすべて転移せず減少に貢献していると考えられます。今後も死角型の対策としてゾーンディフェンスでの「みまもり型防犯設計」を奨めると共に、これまでは中部地域に限定されていますが他のエリアでも手前型への転移を予測した対策をある程度考えなければなりません。照明を付けるといったソフトディフェンスの対策は死角型手前型に共通して効果が見られ、今後も継続してセミナー等での居住者の啓蒙に力を入れていく必要があると思います。