メディア向けフォーラムレポート

第16回 くらしノベーションフォーラム

子どもの自立における子ども部屋の意義


講演

子ども部屋って何をするところ?

講演:北浦氏報告:木戸

絵本に現れる欧米の子ども部屋の与え方・考え方とは

子ども部屋とは、何をするところなのでしょうか。ここでは、絵本で描かれた世界を導入に、親の子どもとの関わり方や、子どもの自律という観点で、お話しします。

欧米の子ども部屋がどう使われているか、ということがわかる絵本に「怪獣たちのいるところ」があります。この絵本で表現されているのは、空間の役割と親の役割ではないかと思います。この物語は、いたずらをした主人公が親に叱られ子ども部屋に閉じ込められることから始まります。閉じ込められた部屋はいつの間にかジャングルになり、ついには怪獣の国で暮らすことになり・・・と話は続いていきます。話に出てくる怪獣の中には一匹だけヒトの足を持っている怪獣が描かれており、父親の存在を表していると言われています。「夕飯の匂いが漂ってくる」という表現からは温かい母親の存在が感じられ、親の役割と空間の役割が全体を通して表現されています。ここで大事なことは、親が子供の気持ちに寄り添う強い信頼関係が表現されていることです。

欧米では、子どもがいたずらをしたときに子ども部屋に閉じ込めるというのは、躾です。子ども部屋に閉じ込めて反省を促すわけです。「怪獣たちのいるところ」で表現された子ども部屋と、日本の子ども部屋の違いは、日本の子ども部屋は「勉強部屋」であり、欧米のそれは子どもの「寝室」になっていることです。

子ども部屋の与え方についても、日本と欧米では違いがあります。例えば米国では概ね小学校4年生から、子ども部屋の掃除を子ども自身がします。子どものするべきことを親がする必要はないと考えているようです。米国では子ども部屋の使い方のルールが親子間でしっかり決められていて、子ども部屋への人やモノの侵入を子どもがコントロールできるようになっています。一方で寝具の整理や衣類の収納などは子どもに自分で行わせ、親は手を貸さないということを、しっかり決めて実行させています。

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子どもの自律に向けた親の養育態度ついて―日米の比較

米国での子どもの養育目標は、他人へ自己主張できるようにすることです。日本での幼児期の躾は「身辺自律」のものが多く、躾の方向が違います。

日米で親子関係がどう違うのか整理すると、日本では幼児期は親子密着で一心同体というのが一般的な風潮です。米国では子どもは未熟なものという意識が明確である一方、人としての「個」は認めます。その前提で親が子どもとの信頼関係を築くという努力をしています。例えば、幼児が寝るときに、父親、若しくは夫婦で子ども部屋に行き、子どもが寝る前に本を読み聞かせます。それはベッドタイムストーリーという絵本の一つの分野になっています。そして寝るときには、ひとりで寝かせます。ひとりで寝るというのは幼児期の子どもにとっては怖いことですが、それを乗り越えてひとりで寝ることができるようになるというのが、成長の目安になっていると思います。日本では川の字就寝が一般的に行われています。母親が常に横にいることは子どもにとってはとても安心だと思いますが、何かを乗り越えるという強さはここでは生まれないという側面もあります。

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子どものプライバシーと自律について

「子どもの心の成長とは何か」を考えるのは非常に重要な事だと思います。4歳から17歳までの子どものプライバシーの概念の確立を調べたものに、ウォルフという環境心理学者の研究があります。その結論は、プライバシーは自律をはぐくむということです。因みに「自立」ではなく「自律」と表現しているのには意味があります。自律は英語ではautonomyと訳され、自分をどう律することができるか、自分で自分のことを決められるかという意味を表します。自律は「自我の確立」とほぼ同義です。そして自我の確立は「プライバシー意識の確立」ともほぼ同義であると考えます。ウォルフは、社会での他者との関わりにおいて自分を守る、独立した自我の獲得と、他人を認めること、すなわち「社会的自我の獲得」が「プライバシー意識の確立」であると言っています。ひとりになれる空間があり、他者を認めることができるというのは、社会全体の文化の中での繋がりなのではないかと思います。

日本では実際に自律の機会をどのようにつくるのかが大きな課題なのではないかと思います。親が意識して自分の子どもをどのように自律させていくのかという展望を持つことは、とても大切です。その上で重要なのは、「一人就寝」と「川の字就寝」をどのように考えるか、ということです。日本でも0歳から1歳位まではベビーベッドに寝かせるので一人就寝になっています。子どもが1歳になると親が添い寝をするようになる。自律の意識が芽生え始めるタイミングから一緒に寝るようになるので、後々離れにくくなることも考えられます。特に2~3歳の一人就寝を「怖がる時期」に一人就寝のトレーニングをすることが、ピーク(山)を克服させることになるので、子どもに自信をつけさせることにもつながるのではないかと考えます。しかし、実際には親と一緒に寝ているという「安心感」はなにものにも代えがたいものがある、という考え方もあります。このせめぎ合いをどのように考えていくのかが、問われるのではないでしょうか。

子ども部屋とは何かというと、子どもの心の成長を助ける道具であって、ひとりで考え事や空想をする空間です。今は子どもがひとりで考える時間がかなり減っていると感じています。なぜならスマホなどがあって、ひとりで居るようでも常にだれかとつながっている状況にあるからです。ひとりになると色々な空想が浮かび、ひとりで寝ることで寝るまでの間に色々なイメージを持ちながら眠りにつきます。そしてひとりで寝る怖さ・不安を乗り越え、克服することで幼児にとって精神的に1ランク上がることになります。その時に欧米に有りますようにベッドタイムストーリーなどで親子の信頼関係を築けたら良いと考えます。日本で川の字就寝をする際もそのあたりを考えてみると良いのではないでしょうか。

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