
【専門家解説あり】4割は住居内で起きている。熱中症リスクを低減する住環境を解説

今年も全国的に酷暑の予想。熱中症対策を考えなければならない季節です。夏場の熱中症と聞くと、日差しの強い屋外で起きると連想しがちですが、実は4割は室内で発生しています。
室内の熱中症は室温や湿度の上昇に加えて、夜間冷房を使わないために就寝中に起きる場合も。安全なはずの家の中で発生する熱中症の予防に有効な温度・湿度、さらに部屋別にできる対策を、大阪府済生会中津病院小児科・アレルギー科で診療に従事する清益功浩(きよます たかひろ)先生に取材しました。
1.熱中症の多くは家の中で発生!その対策は?
まずは、室内で起きる熱中症にかかりやすい人、発生のメカニズムなどについて解説します。
1)65歳以上の救急搬送人員が約60%
消防庁によれば、2024年5~9月の全国における熱中症の救急搬送人員の累計は 9万7578人。これは2008年の調査開始以降、最も多い人数です。
そして搬送された人の中で目立っているのが、高齢者(65歳以上)の割合の多さです。2024年は57.4%にのぼり、遡って2020年以降も50%台半近くを占め続けています。この原因は何なのでしょうか。
「暑さや喉の渇きに対する感度が低下する傾向があること、適切な水分摂取ができていないこと、さらには高血圧、糖尿病など基礎疾患を持っている人が多いことも背景と考えられます。また、もともと成人の体内水分量が約60%であるのに対し、高齢者は約50%とされているため、熱中症リスクが高いことも要因です。ただ、2024年、18歳以上65歳未満の成人も33.0%を占めており、熱中症が高齢者特有のものではないことは覚えておいてください」
2)熱中症はどのような条件下で発生する?
「私たち人間は恒温動物であり、平常時の体温は36~37℃に保たれています。運動や仕事などで身体を動かすと、体内で熱が作られて体温が上昇しますが、汗をかいたり、身体の表面から熱を逃がしたりして、体温を一定に保つ機能を備えています。しかし、温度や湿度が高い環境下では、体内でつくられた熱を外に逃がすことがうまくできなくなり、体温が上昇します。すると、体温上昇で筋肉や脳、そのほかの臓器がダメージを受け、脱水により十分血液が行き渡らなくなると、脳や肝臓や腎臓などがさらに大きなダメージを受け、意識を失う人も出てきます。こうして熱中症が引き起こされるのです」
厚生労働省によれば、熱中症の初期症状は<めまい><立ち眩み><大量の発汗>>筋肉痛><筋肉のこむら返り>などで、悪化すると<頭痛><嘔吐><倦怠感><虚脱感>などが表れるということです。
3)高齢の方が熱中症にかかりやすい理由は
先述した消防庁公表の熱中症発生場所別の救急搬送人員を見てみると、最多は住居(敷地内すべての場所を含む)の約4割。熱中症というと、日差しの強い屋外で起きるイメージがありますが、なぜ家庭での発症が多いのでしょうか。
「ご家庭で過ごす時間は睡眠時間も含めると、平均的に1日の半分程度と推定されます。職場ではエアコン、空調などで対策がされているでしょうから、相対的に住居で熱中症が起きる確率が高くなると言えます。さらに2025年6月1日からは国が職場の熱中症対策を義務化したことで、職場での熱中症リスクは今後さらに低くなると考えられる半面、住居での発生リスクが高まっていくかもしれません」
特に、前述した救急搬送人員の約6割を占める高齢者は、自宅で過ごす時間が長いため、室内での熱中症リスクが高まるのではと清益先生は警鐘を鳴らします。
2.室内熱中症を予防するポイントを紹介
では、室内熱中症を防ぐためには、どのような住環境が適しているのでしょうか。
1)室温は28℃以下、湿度は60%以下が目安
国が活用を推奨している熱中症のリスクを評価する指標「暑さ指数(WBGT)」、日本生気象学会の「室内用のWBGT簡易推定図 Ver.4」などによると、夏場の部屋の中の温度は28℃以下、湿度は60%以下が熱中症リスクを低減する目安となっています。
「ここで注意をしていただきたいのが、エアコン使用をためらう高齢者の多さです。世代的にエアコンを使い慣れておらず、『長時間使う必要はない』『扇風機で十分』『冷えすぎて身体に悪い』などと考える方や、『エアコンの風が身体に当たるのが不快』と感じる方、昨今の物価高で電気代を節約する目的から使用を我慢する方も少なからずいらっしゃると聞いています。しかし、それでは室内熱中症リスクは高いままです。躊躇せずエアコンを使う、特に気温が高い日は就寝中~朝まで使用し、睡眠中も室温を適切に保つ、こまめな水分、塩分補給などを強くお勧めします」
なお、仮にエアコンの設定温度を28℃にしても、その日の外気温によって実際の室温が異なる場合もあります。自分の居る場所の近くで、できれば温湿度計で確認して適切な室温、湿度を保つ、必要に応じて扇風機やサーキュレーターを使って室内の空気を循環させるのも効果的です。
2)熱中症を防ぐための部屋別の対策
家の中のどこにいるかによって、熱中症対策も少しずつ異なります。場所別の注意点を見ていきましょう。
- キッチン…火を使う上、熱が発生する家電が集まっている場所だけにリスクが高い場所。換気扇を使って熱が籠もることを防ぐのはもちろん、サーキュレーターなどで隣り合うリビング、ダイニングなどの冷気をキッチンに循環させるのも効果的。
- トイレ…湿気、熱が籠もりがち。西日が入るなど方角によってはサーキュレーターなどで空気を循環させても良い。掃除の際はドアや窓を開けて換気に注意。
- 洗面所…浴室からの水蒸気が直接入り、湿気が高くなりがち。換気をしつつ、湿気がひどいようならサーキュレーターで空気を循環させる。
- 浴室…湯船に浸かって発汗すると汗腺の機能が高まり、汗をかきやすい体質に。気化熱現象で身体を冷やしやすくなるため熱中症予防に有効だが、半面、あまりお湯を熱くしない、長時間浸からないことにも注意を。必要に応じて摂取できるように飲み物を置いておくのも手。掃除の際は換気を十分にしておく。
- リビング…家の中で最も過ごす時間の長い空間。夏場の部屋の中の温度は28℃以下、湿度は60%以下を推奨。エアコンの設定ではなく、温湿度計で実際の室温を把握することが望ましい。サーキュレーター、扇風機などで空気を循環させると効果的。
- 寝室…就寝中はリビング同様、エアコンで室温28℃以下、湿度は60%以下に。外気温が高い日はタイマー設定にせず、朝まで連続使用しても良い。
「夏に部屋が暑くて使えない、あるいは使いたくない部屋やスペース」に関するアンケート調査でも、上記で挙げられた場所は「暑くて使いたくなくても、使わざるを得ず不満に感じている部屋」に含まれています。(アンケート調査は下記のリンクよりご確認いただけます)。
【調査結果あり】2人に1人が「暑くてイライラ」夏の暮らしへの不満の理由と解決方法
まとめ
屋外で起きると思われがちな熱中症の約4割は、実は住居で発生しており、室内での発生も少なくないことから、本記事では室内熱中症リスクとその対策を解説しました。
特に重要なのが、エアコンなどで家の中の温度を28℃以下、湿度60%以下に抑え、その環境を維持することです。救急搬送人員の約6割を占める65歳以上の高齢者には、エアコン使用をためらう人も少なくないとのことですが、厚生労働省の調べでは、2018~2023年の間の熱中症死亡総数に占める65歳以上の割合は8割以上にのぼっています。やはり、躊躇せずにエアコンを使用することが大切です。
その点で、夏の全部屋の温度が夏26-28℃・湿度が60%以下をめざし、それをほぼ実現できる高断熱・高気密住宅「Asu-haus」の室内環境は、室内熱中症対策となり得るのではないかと清益先生は言います。
「WGBTに照らして、ほぼ安全な数値を24時間維持し続けられるということで、就寝中の熱中症発症リスクを大幅に低減させることにも期待できそうです。また、全部屋の温度差が±1℃以内であることも良いですね。どの部屋に移動しても温度がほとんど変わらないことで身体の恒常性が高まる、自律神経が安定する、ストレスを軽減することなどから、ひいては熱中症対策にもつながります。また、私の専門である免疫・アレルギーの観点からは、夏の全部屋の温度が夏26~28℃・湿度が60%以下ですと、アレルギーの一因となるダニやカビの発生の抑制にも効果がありそうです。さらにAsu-haus内は、エアコン1台のみで事足りるということで、電気代の節約も実現できるでしょう。エアコン使用を躊躇させない理由になりそうです」
下記から、Asu-hausの甲州街道モデル体験棟の詳細をご覧いただけます。
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夏の全部屋の温度が夏26~28℃・湿度が60%以下を保つことで、夏場の熱中症発症の抑制に期待できるAsu-haus。以下の記事では、酷暑に見舞われた2024年8月でも、室内平均温度は全室25~26℃/各部屋の温度差は±1℃/1日を通じて湿度50%台維持/室温と表面温度の差は±2℃以内/外壁表面約60℃でも室内表面は24℃台といった温熱環境を維持したという実証実験の結果が紹介されています。ぜひご一読ください。
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