column

暮らしのコツ

TASK LIGHT LAMPS FOR ALL

In Praise of Shadows

欧米で建築やデザインを学ぶ学生たちと話をすると、「陰影礼賛」が広く読まれていることに驚くと思います。彼らが愛読する「In Praise of Shadows」は谷崎潤一郎の著書「陰影礼賛」の英訳本で、もともとは雑誌「経済往来」に1933~34年に、2号にわたって連載された随筆でした。英語版は1977年に出版されています。西欧の知識人にとって、寡黙で多くを語らない日本人は謎が多く、その美意識も同様に多くの謎をはらんでいるのです。「In Praise of Shadows」は、その秘密を紐解く絶好の書籍でした。そこに描かれる「Shadows」のあり方は、今や文化を超えて広く共感されていて、日本人として誇らしさを感じることもあります。
「……そして室内へは、庭からの反射が障子を透してほの明るく忍び込むようにする。われわれの座敷の美の要素は、この間接の鈍い光線に外ならない。われわれは、この力のない、わびしい、果敢ない光線が、しんみり落ち着いて座敷の壁へ沁み込むように、わざと調子の弱い色の砂壁を塗る。土蔵とか、厨とか、廊下のよう なところへ塗るには照りをつけるが、座敷の壁は殆ど砂壁で、めったに光らせない。もし光らせたら、その乏しい光線の、柔かい弱い味が消える。」(「陰影礼賛」より)。
私たちは、この文章にある「力のない、わびしい、果敢ない光線」を、実際にそうした空間で暮らしていないにも関わらず、遠い記憶の中で、日本家屋の心地良いほの暗さとして感じることができます。80年前に谷崎の目を通して描かれた光景を、自分のものとして受け入れることができるのです。

2009年に山森芳郎氏が著した「夢の住まい、夢に出てくる住まい」(芙蓉書房出版)には、「陰影礼賛」についての興味深い論文が収められています。山森氏が教授を務める大学の研究所が発行する「文學藝術」(32号、2009年)に最初に掲載された「『陰影礼賛』は虚構か」と題する論文です。この中で日本文学者のドナルド・キーン氏が、谷崎の口述筆記などを手がけてきた秘書の矢吹和子さんの著書「われよりほかに 谷崎潤一郎最後の十二年」(講談社、1994年)で語られていたエピソードを紹介しています。孫引きになりますが引用します。
「谷崎先生が湯河原で新しい家を建てるときに、建築家が「わかっています。先生の趣味はよくわかっています」と言ったのを聞いて、『陰影礼賛』のような家ができたらどうしようと、谷崎先生は大変心配されたそうです。あれは本の中だけの話だったんですね」。
ええ、そんな……。「陰影礼賛」はフィクションだったのでしょうか。仮に虚構であったとしても、谷崎が日本人の心に潜む空間やあかりの美意識を、言葉で浮き彫りにした光景や、高潔な語りが損なわれることはないでしょう。あかりと暗さの心地良さを追体験できる名著です。暮らしのあかりを考える時、さまざまな背景を踏まえて、改めて読んでみたい随筆です。

D'E-Light/FLOS

D'E-Light/FLOS

ヘッド部分にiPadやiPhoneをチャージできるUSBポートを備えたLEDタスクライト。ベッドサイドでは就寝中の充電やiPhoneを目覚まし時計代わりに、また、デスク用にiPadスタンドを兼ねて使うことができるので、『陰影礼賛』を電子書籍で読むことも。照明は二段階調光タッチ式スイッチ。なお、Apple製品を接続するコネクタ部分は「30ピン」です。

高さ31.7×幅21.6cm。ベース12cm角。重量1.0kg。
光源はLEDフラットパネル5W(色温度2700K)。
カラーはクロムとマットブラックの2色。
¥42,000 hhstyle.com

Pictures of iPhone and iPad are used with the only purpose of describing the functionality of D’E-light. All rights on trademarks and products iPhone and iPad are of exclusive property of the manufacturer, and are not referable to Flos or its affiliates.

D'E-Light/FLOS

「朝のひかり 夜のあかり」に掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
 No reproduction or republication without written permission.

Latest Column