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暮らしのコツ

眠りの本棚 第十二話

睡眠文化を学ぶ人のために

眠くならない本:睡眠文化を学ぶ人のために((高田公理/堀忠雄/重田眞義 編))

人文科学、社会科学、自然科学といったこれまでの学問領域を越えて、文字どおり睡眠を文化として研究することにめざめた人のための入門書。
「睡眠文化研究がめざすのは、眠りに関して私たちが共有している考え方(価値観といってよいだろう)の共通性と多様性を、時代や地域を越えて追求していくことにある。そうすることによって、それぞれの「よりよい眠り」のありようがみえてくるのではないだろうか。」(P215、12章「睡眠文化を学ぶ人のために 重田眞義」より)

「睡眠文化を学ぶ人のために」

2008年 世界思想社 刊

高田公理/堀忠雄/重田眞義 編

定価:2000円+税

目次

序 章  睡眠文化とは何か

第Ⅰ部  中世の人々の生活

1章フロイトの夢分析と脳科学
2章夢の民族誌
3章眠りの〈プレイ〉モデルと寝室地図
4章相互浸透する眠りと覚醒

第Ⅱ部  眠りの時空間

5章眠りの時間と寝る空間――歴史的考察
6章眠りを誘う音・光・香り
7章眠具――眠りにまつわるモノの世界

第Ⅲ部  睡眠文化学の未来へ

8章人類学からのアプローチ
9章社会学からのアプローチ
10章心理学・行動科学からのアプローチ
11章睡眠諸科学の基礎づけ――哲学的考察
12章睡眠文化を学ぶ人へ

終 章  人はなぜ眠るのか

profile
豊田由貴夫

豊田由貴夫(とよだ・ゆきお) ● 文化人類学者、立教大学観光学部交流文化学科教授。1955年埼玉県生まれ。東京大学教養学部教養学科卒業、同大学院社会学研究科文化人類学専攻修士課程修了。シドニー大学留学、亜細亜大学経済学部国際関係学科助教授などを経て現職。パプアニューギニアを中心とする南太平洋地域を研究対象としている。これまでこの地域において、近代化が現地にもたらす影響、開発と文化の問題、新興国家におけるナショナル・アイデンティティ形成の問題、ネイション・ビルディングなどを研究課題としてきた。この他に民族植物学、観光と文化の問題、太平洋戦争の記憶なども研究課題としている。近年は、睡眠と文化の研究、東京ディズニーリゾート研究も行っている。主な著書、論文に「The Pacific War in Papua New Guinea:Memories and Realities」(編著、2006年)、「オセアニア美術にみる「知流」を超えるもの」(共著、2005年里文刊)「展示の政治学」(共著、2009年水声社刊)「夢と幻視の宗教史」(共著、2012年教文館刊)ほか、翻訳に「オセアニア神話」(1993年青土社刊)。

鍛治恵

鍛治恵(かじ・めぐみ) ● NPO睡眠文化研究会事務局長・睡眠文化研究家・睡眠改善インストラクター。寝具メーカー、ロフテーの「快眠スタジオ」での睡眠文化の調査研究業務を経て、睡眠文化研究所の設立にともない研究所に異動。睡眠文化調査研究や睡眠文化研究企画立案、調査研究やシンポジウムのコーディネーションを行う。2009年ロフテーを退社しフリーに。2010年NPO睡眠文化研究会を立ち上げる。立教大学兼任講師。京都大学非常勤講師。立教大学ほかでNPOのメンバーとともに「睡眠文化」について講義を行う。
http://sleepculture.net/

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夢は出るもの?入るもの?

── 立教大学の新座キャンパス。本当に大学らしい素敵なキャンパスですね。今回は立教大学観光学部交流文化学科教授の豊田由貴夫先生の研究室にお邪魔しました。

鍛治恵さん(以下、鍛治さん) よろしくお願いします。今日は夢についてのお話です。豊田さんも執筆されている本、「睡眠文化を学ぶ人のために」の中の「夢」関連の項目についてお話をうかがおうと思っています。私も著者の一人なんですが……。

豊田由貴夫さん(以下、豊田さん) 実は私はもともと夢の研究をしていたわけではないんですよね。睡眠文化研究会の前身の研究所が毎年、「睡眠文化フォーラム」を開催していて、私がシンポジウムに参加した年(2003年、第10回睡眠文化フォーラム「眠りを楽しむ──夢学ことはじめ」)の関連書籍として「夢うつつまぼろし──眠りで読み解く心象風景」が出版されて、それからですからね。

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鍛治さん 当時は、外部の研究者の方々との研究会のテーマや切り口を決めて、一年かけて調査研究したり研究会活動を行っていて、その成果を「睡眠文化フォーラム」のシンポジウムで発表するというスタイルでした。さらにこのシンポジウムを中心に一年間の研究成果をまとめた書籍を発行することが締めだったんですよ。

豊田さん この年は「夢」をテーマにシンポジウムを行うことになり、生理学や医学の分野から広島大学教授の堀忠雄さん、精神科学で夢の仕組みを研究されているリヨン在住のフランス国立科学研究所神経科学部門主任研究員の北浜邦夫さん、それに、文化人類学の立場から、夢は文化によってどう違うのかについて、私が発表を担当しました。もう10年以上前ですかね。当時はシンポジウムのために慌てて資料や文献を読んで話をまとめたのですが、それからは個人的に「夢」と「睡眠文化」に興味を持つようになり、夢に関する論文や書籍を読むようになりました。実は、研究者は多くないので、英語の論文や書籍を数冊読むとそれなりに専門家のような顔ができるんですよね(笑)

── 本当ですか?

豊田さん 日本はもちろん、海外でも研究者はあまりいませんからね。論文集を数冊読むと、これまでの研究の足跡や傾向がわかりますよ。生理学や精神医学の研究者は多いと思いますが。

鍛治さん 研究対象としての夢は、夢をみている間は大脳生理学や心理学などの研究対象ですが、その夢をみるために何か工夫をするとか、その夢をどう解釈するかは人文科学の領域なので、自然科学と人文科学の両面から研究対象にできる面白いテーマであると思っていました。

豊田さん シンポジウムにはかなり人が集まりましたよね。科学未来館で開催した時ですね。北浜先生は睡眠学会の開催に合わせてフランスから来日した際に、このシンポジウムに参加していただいたので、睡眠学会の関係者も多かったですね。特別基調講演は荒俣宏さんでした。

── 豊田先生は大学ではどんなことを研究されているんでしょうか。

豊田さん 私は文化人類学が専門です。研究対象の地域はパプアニューギニアです。当時のフォーラムでも、パプアニューギニアでの夢について、それに関連するデータを集めて発表しました。この本でもそれについて触れていますね。

── 「睡眠文化を学ぶ人のために」や「夢うつつまぼろし」を拝読すると、ここに紹介されているパプアニューギニアでの夢の捉え方や付き合い方は本当にユニークで、読んだだけでは実感するのは難しいくらい、私たちの感覚とは違っていました。

豊田さん でしょうね。パプアニューギニアの高地民族の間では夜、睡眠中は自分の魂が体を離れて外へ出ていくのだと考えられていました。その魂が経験したことが夢なんですね。魂は自分で完全にコントロールできるわけではないので、何をするかはわからない。隣の家に行っていたずらするかもしれない。でも、それは魂が勝手にしでかしたことで、それを事実と捉えて、翌朝「昨夜は申し訳なかった」と隣人に謝ったりするわけです。相手もそれを理解していますから、不自然なことはない。夢の出来事が現実で対応されるわけですね。 人はとてもリアルな夢をみることがありますよね。なぜ睡眠中にそんなことが起こるのか。それを説明しようとするとき、自分を離れた魂が実際に体験したことが夢なのだと考えたのは、自然と言えば自然です。夢のリアリティを説明するとき、こういう解釈もありうるのではないかと思いますよ。

鍛治さん 私はこのフォーラムでパプアニューギニアの夢についてはじめて知ったんです。夢と現実の区分けがないことに驚きましたね。今話しているのは夢の話なのか現実の話なのか、わからないわけですからね。

豊田さん でも、よくよく聞いてみると、それは夢でみた話であることがわかる。話すときには夢でみたとは言わないですが、自分の霊魂がしたことなのだと説明しています。夢は自分の霊魂が外に出て体験したことという考え方もありますし、他の人の霊魂が眠っている自分に入ってきて、そこで見せるものが夢なのだと考える地域もあります。出て体験するほうが多いようですけどね。東南アジアや太平洋地域でも同じような考え方は多いですよ。

鍛治さん 眠っている人の顔に落書きやお化粧してはいけないのは、顔が違うと、寝ている時に出ていった魂が戻る場所を見失うからだと、エチオピアでは言われているそうですよ。

── エチオピアも「出ていく」派なんですね。

睡眠中は霊魂が身体を離れ、この霊魂が体験するのが夢と考える社会がある。このような考え方は広い範囲に分布している。このことに関連して、一度身体を離れた霊魂が無事に身体に戻ってこられるように、という内容のさまざまな言い伝えがある。
 フレイザー*の『金枝集』によればミナンカバウ人(編集注:インドネシア・西スマトラ州の高地に住んでいる民族集団)は、眠っている人の顔に何かを塗ったり、汚したりしてはいけないと信じている。なぜならば、抜け出した霊魂が戻ろうとする際に、自分の身体がわからなくなってしまうからである。同様に、ボンベイ(現在のムンバイ)では、女性に髭をつけるなど眠っている人の顔を変えることは、殺人と同程度の罪と考えられている。霊魂が戻ってきたときに自分が入るべき身体がわからず、そのためその人は死んでしまうからである
(『睡眠文化を学ぶ人のために』P.153、第8章「人類学からのアプローチ 豊田由貴夫」より)

豊田さん フィジーでは寝ている人を起こす時はゆっくり起こさなければならない。突然起こすと、遠く離れている霊魂は急に戻ることができないので、戻るための時間を与える必要があって、それでゆっくりと起こすわけです。これも同じ考え方ですね。

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