
天然素材に包まれる
「ソネバフシ」で過ごす時間は、近代社会以降の科学技術や工業と一体化した暮らしをひととき忘れ、地球本来の自然へと還る時間と言えるでしょう。この島に入る人は老若男女、社会的地位や肩書に関係なく、すべての人が靴を脱ぎ、預けた靴は帰路の水上飛行場に向かうまで返されることはありません。ヴィラの中も外も、レストランでも素足で過ごすことになります。足の感触だけではなく、目に入るものもすべて自然か天然素材の造作だけ。石油製品のプラスチックやイミテーション素材は一切使われていません。木、布、土、石、鉄……素朴な材料による素朴な仕上げは、都市生活の残像を消して、心身が自然と一体になるための設えなのです。だからと言ってキャンプのような生活を強いられるのではなく、オーディオや冷蔵庫などの設備はすべて「自然」の中や間に巧みに隠され、滞在客のリゾートライフを背後で支えています。もちろん、灯火だけではなく、電気照明も使われています。
自然と一体化する照明
こうしたネイチャーリゾートには、どんな照明器具がふさわしいのでしょうか。自然との心休まる穏やかな関係を損なわない照明とは。「ソネバフシ」では、光源を天然素材の造作や仕上げの中に隠す間接照明のほかに、灯火のような温かみのある控えめなタスクライトも備えられています。そのランプシェードに使われているのは、革を薄くなめした素材でした。おそらく、北アフリカでよく見かけるゴートスキンの造作ではないかと思います。革のシェードを透ける光は目に柔らかく、オレンジ色の光がライトの周囲に広がっていました。「ソネバフシ」はエコリゾートとしても世界的に有名で、実際、地球温暖化ガスによる海面水位の上昇は、海抜が低いモルディブにとっては深刻な問題なのです。モルディブのリゾートでは、消費電力の小さな半導体の光LEDの採用が進んでいることと思います。その場合も、最新技術やエコ装備を誇らしげに見せるのではなく、ゴートスキンのような古来から使われてきたシェード素材に包み込んで、あたかも灯火のように、自然の光景の一部になっているはずです。
「楽園のあかり」が、みなさんの暮らしの灯りを考え直すきっかけになりますように。


三好和義
みよし・かずよし ● 1958年徳島生まれ。85年初めての写真集「RAKUEN」で木村伊兵衛賞を受賞。以降「楽園」をテーマにタヒチ、モルディブ、ハワイをはじめ世界各地で撮影。その後も南国だけでなくサハラ、ヒマラヤ、チベットなどにも「楽園」を求めて撮影。その多くは写真集として発表。近年は伊勢神宮、屋久島、仏像など日本での撮影も多い。近著は『死ぬまでに絶対行きたい楽園リゾート』(PHP)。日本の世界遺産を撮った作品は国際交流基金により世界中を巡回中。
ご紹介頂いた宿 : ソネバフシ
「朝のひかり 夜のあかり」に掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
No reproduction or republication without written permission.