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暮らしのコツ

楽園写真家が語る「楽園のあかり2」vol.2写真家:三好和義

リゾートホテルでは心身ともにリラックスできて、ぐっすりと眠ることができた。そんな経験をした方は多いのでは。それは、リゾートホテルの「夜のあかり」と関係があるのかもしれません。世界のリゾートを写真に収めてきた「楽園写真家」の三好和義さんに、「楽園」の印象深い「夜のあかり」を語っていただくコラム「楽園のあかり」の第2弾がスタートしました。美しい写真と三好さんの言葉から、快適な暮らしの照明のヒントを見つけてください。第2回は加賀山代温泉薬師山の高台に建つ「べにや無何有(むかゆう)」の灯りのお話です。

べにや無何有(むかゆう)

素朴な質感を贅沢さに変える最小限で厳選された光。べにや無何有(加賀/石川県) 前回は力強い太陽光に照り返される南の島の魅力的なリゾートを採り上げましたが、今回は趣を替えて、北陸の柔らかな日差しに包まれたお宿「べにや無何有」を紹介します。この太陽光の強さの違いは、人の心はもちろん、空間の仕上げ方法やサイズ感、灯りにもさまざまな影響を与えているようです。「べにや無何有」では、太陽が高い時間でも、室内の奥に進めば気持ちのよいほの暗さがあり、それを際立てるように小さな灯りが佇んでいました。落ち着いた光はインテリアの質感を繊細に照らし出して、目でも心地よい手触りが感じられるような、味わい深いインテリアをつくりだしていました。

必要最小限の照明

空間の豊かさは何で決まるのでしょう。大きさでしょうか。先日、箱根の旅館が、以前お宿として使っていた古い建物を移築改装したので見学に行きました。古い建物ですから天井も鴨居も低く、広い空間ではないのですが、なぜかゆったりとした落ち着いた気持ちになれたのです。「べにや無何有」で感じた心地よいスケール感も、それに近いものでした。しかも「べにや無何有」は、客室内には必要最小限のものしかありません。ただし、最小限のものからは、「厳選」された厳しい眼差しが伝わってきます。仕上げにも豪華な素材や凝った仕上げはなく、柿渋和紙や珪藻土、丸竹などの素朴な素材でシンプルに仕上げられています。しかし、とても趣き深く、この空間を楽しむ心に、自然と大人の安らぎが宿ります。室内の灯りも同様に、豪華な光やがんばりすぎた灯りではなく、本当にさりげなく必要最小限の照明が置かれていました。あれは岐阜提灯の職人が手がける、イサムノグチのAKARIシリーズのスタンドでしょうか。ご存知だと思いますが、AKARIシリーズはけっして高額な照明器具ではありません。

光が空間を引き立てる

和紙のスタンドのほかには、室内の照明は、洋室であればベッドの下に間接照明が仕込まれている程度。天井に照明はなくて、目線の低い位置に光が漂うように、灯りが配されています。「べにや無何有」にある奥深いシンプルさを引き立てる、絶妙な照明手法と言えるでしょう。外の自然と室内が連続しているように感じられる、窓の穿ち方も、考え抜かれたものであることが窺えます。豪華な照明器具で照らされる、豪華な素材でつくられた大空間だけが豊かなのではなく、ごく普通の光と質感の高い素材で、こんなに豊かな空間をつくることができる。北陸の太陽と呼応する、落ち着いた雰囲気を、最小限の「厳選」された光が見事に際立てていました。

「楽園のあかり」が、みなさんの暮らしの灯りを考え直すきっかけになりますように。

Kazuyoshi Miyoshi
Kazuyoshi Miyoshi

三好和義

みよし・かずよし ● 1958年徳島生まれ。85年初めての写真集「RAKUEN」で木村伊兵衛賞を受賞。以降「楽園」をテーマにタヒチ、モルディブ、ハワイをはじめ世界各地で撮影。その後も南国だけでなくサハラ、ヒマラヤ、チベットなどにも「楽園」を求めて撮影。その多くは写真集として発表。近年は伊勢神宮、屋久島、仏像など日本での撮影も多い。近著は『死ぬまでに絶対行きたい楽園リゾート』(PHP)。日本の世界遺産を撮った作品は国際交流基金により世界中を巡回中。

ご紹介頂いた宿 : べにや無何有

石川県加賀市山代温泉55-1-3 tel. 0761-77-1340 http://www.mukayu.com/

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