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暮らしのコツ

楽園写真家が語る「楽園のあかり2」vol.6写真家:三好和義

リゾートホテルでは心身ともにリラックスできて、ぐっすりと眠ることができた。そんな経験をした方は多いのでは。それは、リゾートホテルの「夜のあかり」と関係があるのかもしれません。世界のリゾートを写真に収めてきた「楽園写真家」の三好和義さんに、「楽園」の印象深い「夜のあかり」を語っていただく「楽園のあかり」の第二弾。美しい写真と三好さんの言葉から、快適な暮らしの照明のヒントを見つけてください。第6回は創業140周年の日本を代表するクラシックホテル「日光金谷ホテル」の灯りのお話です。

日光金谷ホテル

意匠を楽しむ古い照明器具と装飾を損なわない演出照明。日光金谷ホテル(日光/栃木県)四季の変化に富んだ自然が美しい日本。私は、新緑の華厳の滝や霧降の日光ツツジ、紅葉、雪景色など、四季折々の自然を撮影するため、たびたび日光を訪れます。この折に滞在するのが「日光金谷ホテル」です。「日光金谷ホテル」の前身は1873年に、日光東照宮の笙奏者、金谷善一郎が自宅に設けた外国人向けの宿泊施設「金谷カッテージ・イン」です。その後、1893年に開業した「金谷ホテル本館」と「金谷カッテージ・イン」は、経産省の近代化産業遺産に認定されています。建物の一部は国指定登録有形文化財で、名実ともに日本を代表する老舗ホテルと誰もが認めるお宿といえるでしょう。

老舗ホテルゆえの趣

長い歴史を経てようやく醸しだすことができる叙情豊かな雰囲気。この無二の情調と、窓の外に広がる日光の四季の光景を存分に楽しむことができる。それが「日光金谷ホテル」の魅力です。細部にまで装飾が施された凝った建築意匠や、東照宮を連想させる装飾彫刻は、クラシックホテルの趣を深め、場所と時代を忘れるような不思議な感覚を覚えるかもしれません。古い型ガラスを通して眺めるわずかに歪んだ景色。自分の「フレーム」を探して窓辺に椅子を運び、佳景の光を待つ時間は、日常生活では味わえない贅沢でしょう。秋のつるべ落としの陽が沈み、薄暮の時間を迎えた頃に、室内のスタンド照明を点け、室内の小さな灯りが反射する窓ガラス越しに、窓の外に広がる紅葉を眺める。早朝の紅葉もきれいですが、室内の暗さと光色とのバランスが整う、夕方の秋の日光は特に美しいと思います。とりわけ別館122号室は、ニ方向に開口部が設けられているので、贅沢な紅葉を楽しむことができます。

新旧を織り交ぜた照明技法

クラシックな趣を味わうには、ロビーや階段回り、ダイニングがお勧めです。エントランスの回転扉の上には、社の虹梁のような彫刻が、柱の頂部にも細かな柱頭彫刻が施され、階段まわりには赤い宝珠が掲げられています。歴史を感じさせるこうした意匠は照明で際立たせられ、古く暗い感じはなく、老練ながら明朗な明るい空気を生み出しています。こうした演出や機能のための照明器具は、クラシックな意匠を壊さないように、目立たないよう巧みに仕込まれ、これに対し、昭和初期を思わせる、古くからの照明器具は重厚なインテリアの一部としても活かされています。この新旧の灯りの使い方は見事で、ホテルを訪れるたびに、室内の光が洗練されている様子が窺えます。ダイニングでは、老舗ホテルらしい真っ白なテーブルクロスが天井からの光を柔らかく照り返し、また、卓上に並ぶ磨きこまれたシルバーのカトラリーにはきらめくような光が反射して、美しい装飾と相まって華やいだ雰囲気を味わうことができるでしょう。

「楽園のあかり」が、みなさんの暮らしの灯りを考え直すきっかけになりますように。

Kazuyoshi Miyoshi
Kazuyoshi Miyoshi

三好和義

みよし・かずよし ● 1958年徳島生まれ。85年初めての写真集「RAKUEN」で木村伊兵衛賞を受賞。以降「楽園」をテーマにタヒチ、モルディブ、ハワイをはじめ世界各地で撮影。その後も南国だけでなくサハラ、ヒマラヤ、チベットなどにも「楽園」を求めて撮影。その多くは写真集として発表。近年は伊勢神宮、屋久島、仏像など日本での撮影も多い。近著は『死ぬまでに絶対行きたい楽園リゾート』(PHP)。日本の世界遺産を撮った作品は国際交流基金により世界中を巡回中。

ご紹介頂いた宿 : 日光金谷ホテル

栃木県日光市上鉢石町1300 tel. 0288-54-0001 http://www.kanayahotel.co.jp/

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