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暮らしのコツ

ベルリンの「朝のひかり」

ボイラー修理が朝7時に来た!

 夏と冬の日照時間、日の出の時刻と日没の時刻の差が極端に大きいドイツで、1年の中で本当に「朝のひかり」を堪能できるのは夏時間の間です。3月末から10月末までがそれに当たるのですが、この時期のピーク、6月の夏至の頃はベルリンで日の出が朝の4時半頃、日没は夜の9時半頃です。逆に12月の冬至の頃は外がようやく明るくなるのが8時過ぎ、夕方の4時過ぎには真っ暗になってしまいます。
 ゆえにこの国では、人々は夏の間に集中して「朝のひかり」を浴び、冬の間「夜のあかり」を楽しむのだとも言えます。朝と夜の境界線が、季節によって大きく異なる中で、人々はどのような暮らしを営んでいるのでしょうか?
 ドイツ人の朝は全体的に始まりが早いです。中でもとりわけ早起きなのが、職人さんたち。朝の6時からお店を開けるところも多いパン屋さんは、パン職人さんたちが1時に起きて仕込みを始めるのだそうです。代表的な早起きの職種でもあるパン職人さんは午前中にパンを仕込んで焼き、午後は昼食後に帰宅して昼寝、夜は家族と夕食を取り、1時まで再び休むというのが典型的な生活パターンだそうです。それほど極端に早起きじゃない場合でも、ボイラーの調子が悪くて修理の職人さんを頼んだら、朝の7時前に来たというような話もざらにあります。

今のうちだよ、日光をためておかなくちゃ

今のうちだよ、日光をためておかなくちゃ

 学校の授業が始まるのはベルリンではだいたい8時からですが、子どもたちの起床時間は6時~6時半くらい。会社勤めをしている大人たちは、その時間くらいにはもう家を出る場合が多いです。しかしこの出勤や登校の時間帯、夏時間の間はいいのですが、冬時間のまっただ中など外はまだ真っ暗なのです。冬の間も、ドイツ人の日常のタイムスケジュールが大きく変化することはありません。ゆえに「真っ暗な中を学校に出かけて行って、帰ってくる頃にはもう日が暮れかかっている」など、冬の間は1日中太陽を見ない日も本当にあるんですね。
 だからこそ夏の間、人々はとにかく外に出て日光を浴びることに貪欲です。天気のいい日の川べりの緑地などは、平日であっても日光浴する人たちでいっぱいになります。オープンカフェのテラスも同様。この時期、レストランのテラス席の有無は客の入りに大きく影響するとも言われています。しかもドイツ人が積極的に座ろうとするのは居心地のいい日陰ではなく、さんさんと降りそそぐ直射日光を浴びられる日なたなのです。
 しかしこれも、やがてやってくる、1日中ほとんど陽の射さない曇天の多い冬の季節に備えてのこと。「今のうちだよ、日光をためておかなくちゃ」という常套句を、ドイツ人は真剣な眼差しで口にします。ちなみに私は、ある初夏の晴れた日の週末に部屋の掃除をしていたら、「君の感覚が理解できない」と若いドイツ人の男の子に真顔で言われたこともあります。
 ドイツに住み始めた当初、私はこういった話を聞くたびに「あなたたちは、人間ソーラーシステムですか」とおかしく思っていたのですが、冬になり日光を浴びないで過ごす日が続くと、次第に後悔の念がじわじわと押し寄せてくるのです。「夏の間に、もっと日光を浴びておくんだった…」というふうに。太陽の光の恵みがいかに大きいか。それは日照時間の少ない冬の時期に抑うつ症を患う人が多かったり、自殺者の数が増えたりという統計にも反映されています。
 ドイツで春の訪れを告げる光景のひとつは、「朝の公園でジョギングする人が急に増えること」があげられます。これは春になると皆がにわかジョガーになるというわけでもなくて、暗くて寒い冬の間は、スポーツジムのベルトの上で走っている人が多いのです。それから、車の屋根を外してオープンカーで走る人がいきなり増える、というのもよく見る光景です。
 日光を貪欲に浴びようとする姿勢が、非常にわかりやすい人たちではあります。

金曜日は仕事が早く終る?

ドイツ人の労働時間は先進国の中でもっとも少ないことで知られています。日本の週の平均労働時間が約45時間に対して、ドイツは40時間以内*2。金属産業では「週35時間労働」が導入されていました。そのため金曜日は午後早い時間に仕事が終わる例が多く、まだ高い太陽の下で、夕暮れまでの時間をのんびり過ごす姿を見かけます。現在は残業した労働時間を「貯蓄」して休暇などに当てる「労働時間貯蓄精度」も普及し始め、金融業界では約85%で導入されています。

*1:1963年に米J.F.ケネディ大統領が、バルコニーから「Ich bin ein Berliner!(私はベルリン市民である)」と演説した市庁舎です。Berlinerは「ベルリン市民」だけでなく、ジェリードーナツ(ベルリーナー・プファンクーヘン)も指す言葉で、ケネディのドイツ語の演説は「私はジェリードーナツである」と翻訳されたというジョークも。

*2:「働く人のワーク・ライフ・バランスを実現するための企業・職場の課題」(武石 惠美子/経済産業研究所、2011年3月)の「日本の就業実態や就業意識等の現状:国際比較による分析」より。

ドイツ連邦共和国

人口

約8175万人(2010年1月)

面積

35.7万㎢(日本の約94%)

首都

ベルリン

宗教

キリスト教(カトリックと
プロテスタントは約半々)、ユダヤ教

時間帯〈ベルリン〉

UTC +1(夏時間は+2)

1990年の東西ドイツ統一を期に、首都に返り咲いたドイツ最大の都市。40年間の東西分断時代には、東ドイツエリアの中に西ベルリンが飛び地のように存在する形でベルリンの街も分断されていたという数奇な歴史を経験しています。地方分権が根強いドイツにあって、国政の中心地はベルリンですが、経済はフランクフルト、出版・メディア関係はハンブルク、ITはミュンヘンと分散しています。ベルリンには157のミュージアムと56の劇場があって文化事業が充実しており、世界各国からの若手アーティストを引きつける文化都市である一方、ドイツの中でも高失業率で、自治体としての債務総額が突出しているのもベルリンの特徴。そんなこの街を称してヴォーヴェライト・ベルリン市長が言った有名な言葉が「ベルリンは貧乏だがセクシーな街」。

プロフィール

みいち・とも●フリーライター。東京都出身。1990年に渡独。再統一直後の東ベルリンに住んだのをきっかけに、現在もドイツ在住。今はベルリンの西側に住んでいる。著書に『ベルリン 東ドイツをたどる旅』(産業編集センター)、『ドイツ クリスマスマーケットめぐり』(同)http://www.tram-magazin.de

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