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暮らしのコツ

バルセロナの「朝のひかり」
街の中心、カタルーニャ広場の時計。皆が見る時計ですが、サマータイムに切り替わった後、数日間は前の時間のままだったりするので注意。

「サマータイム」の長所と短所

 秋分を迎えるバルセロナの朝は、日の出が7時半から8時の間と遅いので、まだ暗いうちに起きるような感じになってきています。この傾向はが10月末にやってくるサマータイムの終了まで続き、例えばその直前の10月27日の日の出時刻はなんと8時17分!つまり日の出前に出勤、通学ということも珍しくありません。
 サマータイムはそもそも「夏の長い午後を有効に活用する」ために考案された制度なのですが、逆に冬時間(スタンダード・タイム)に戻ることによって、相対的に朝の日の光を有効活用できるようになるというわけです。とはいえ一年で最も日の短い冬至の日の出時刻はまた8時17分。この国の冬の朝は総じて暗い、という事ができるかもしれません。
 このサマータイムの制度、実際に体験してみると、良い面も悪い面もありますが、実に様々なことを考えさせられます。まずこの制度はデータにもよりますが光熱費的には7%ほどの節約効果があると言われています。この数値には国によってもデータによっても様々な違いがあるので「実際には光熱費の節約効果は薄い」という主張もあるそうですが、スペインに限って言えば、光熱費が減少するのは、外が遅くまで明るいので部屋にいる時に明かりをつけなくても済むからではなく、夏の夜多くの人が様々な理由で屋外で過ごすので「部屋にいない」から光熱費が減少する、ということになるだろうと思います。大人なら仕事の後、通りやデッキなど屋外にテーブルを設置してあるバーでビールを飲んでみたり、夕方から夜にかけてジョギングや水泳などのスポーツを楽しんだり、子供たちも学校が終わってから、校庭や公園で友達とボールや自転車で泥だらけになるまで遊んでから、家に帰ります。春から秋にかけて何ヶ月もの間楽しめる屋外で過ごす気持ちのよい時間は、こちらの生活で最もかけがえのないもののひとつです。
 そして最も大きな欠点は、おそらくラテン気質とも関係しているかもしれませんが、何年この制度を導入していても、サマータイムの開始時に、時間に対して少なからぬ混乱が起こることです。サマータイムの開始によって皆「一時間損」をするので、最初の数日は朝早起きを強いられて大変です。時間の変化はもっとも社会的に混乱を起こしにくい、日曜日の朝2時と3時の間で調整されますが、開始直後の日曜と次の日の月曜くらいまでは、友人同士の約束に必ず遅れる人が居て、学校にも遅刻する子供たちが何人も現れるのです。町で見られる時計も、正確なものと、冬時間のままのものが混在するので、しばらくの間まったく当てに出来ません。うっかりしていて、とサマータイムを言い訳にすることは簡単ですが、待たされる方はやはりいい気はしません。けれどみなさんも簡単に予想がつくと思いますが、サマータイムの終了時にはこの現象はあまり起こらないのです。そして「一時間得」することによる心の余裕が、家庭にも学校にも職場にもつかの間の平和をもたらします。  

夏至と冬至を伝える行事

夏至と冬至を伝える行事

 もうひとつ日の長さの変化を慈しむ行事として、例えば日本では昼と夜の長さが同じになる春分と秋分を祝日として祝いますが、こちらでは夏至、つまり一年で最も昼の長い、夜の短い日を楽しむサン・ジョアンの日があります。このお祭りはバルセロナを州都とするカタルーニャ地方の最も大きなフィエスタの一つで、6月23日の夜に街中で盛大に花火や爆竹を打ち上げるのです。
 一方、全然関係ないように思われますが、クリスマスが何故12月25日なのかというヒントが実はこのサンジョアンのお祭りに隠されています。イエスキリストが12月25日に生まれたという記述は実は聖書そのものにはないのだそうです。一年で最も昼の短い、夜の長い日、つまり「これから少しづつ昼が長くなっていく、一年が誕生していく日」という意味で、12月23日に至極近いこの日が、キリスト誕生の日とされたのだと言われています。
 この話をこちらで初めて聞いて以来、クリスマスという行事が宗教的なお祭りというよりも、むしろ季節を楽しむ行事の一つのように思えてきました。季節というと寒暖や植物の変化に目を奪われがちな気がしますが、日の長さ、という絶対的かつ科学的な尺度がこんな風に昔から自然な形で大事にされてきたのですね。

スペイン王国
人口
約4702万人(2010年1月)
面積
約50.6万㎢(日本の約1.3倍)
首都
マドリード
宗教
キリスト教(約75%がカトリック教徒)
時間帯(バルセロナ)
UTC +1(夏時間は+2)

バルセロナ(人口約170万人)は、地中海貿易の拠点として栄えた、スペイン第二の都市。カタルーニャ州の州都です。19世紀後半から目覚しい経済発展を遂げ、今日ではスペイン一の商工業地域となっています。カタルーニャでは、「スペイン人である前にカタルーニャ人である」と言われるほど地方色が強く、地元同士の会話はカタルーニャ語も用いられ、表示や看板の多くはカタルーニャ語とスペイン語(カステヤーノ)で併記されています。1992年のオリンピック開催や強豪サッカークラブで日本でもお馴染みの街。古くから芸術活動が盛んで、ガウディに代表されるモデルニスム芸術誕生の地としても知られています。

プロフィール

坂本知子●スペイン在住14年目。早稲田大学工学部で建築を学び同大学院の修士課程を修了。文化庁派遣芸術家在外研修員として渡西し、2年間、建築家エンリック・ミラージェスの建築設計事務所EMBTに勤務。その後、出版社Actar Publishersで建築とデザインの書籍の編集、展覧会の企画製作などを手がける。2012年にグラフィックデザイナーの夫(David Lorente)と、ブックデザインとその周辺の業務を行う会社SPREADを設立。さらに活動の領域を広げている。「遊んであげない。一緒に遊ぼう!」をモットーに二人の男の子(6歳と3歳)を育児中。
http://www.chocolatmag.com/column/do-it-in-barcelona/
http://www.spread.eu.com/ja

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