column

暮らしのコツ

上海の「朝のひかり」

エネルギーの源はヤンチー

 上海の朝は暗いうちからトクトクとエネルギーがわき始めます。肉饅や饅頭を売る店が5時過ぎから開店し、7時を過ぎると通学する中高生で街が賑やかになってきます。その後の通勤タイムは地下鉄も道路も大混雑。
 朝のパワーをもっともよく感じられるのは公園です。人民公園、復興公園、静安公園と、市内に点在する大きな公園には、早朝から人々が集まります。ランニングに勤しむ若い人もいますが、大部分は通勤のない中年やお年寄りたち。体操や太極拳をしたり、社交ダンスをしたり、あるいはのんびりおしゃべりをしたり。暑くても寒くても、たとえ雨が降っても、屋根のあるところを見つけては朝のひとときを楽しむ人が大勢います。
 なぜ、朝から外で時間を過ごすのでしょう?問いかけると、年配の男性が答えてくれました。
「ヤンチーだよ! 朝の太陽を浴びながら体を動かすと、体のヤンチーが活性化するんだ」。
ヤンチーとは「陽気」と書きます。
 中国の伝統的な医学(中医学)の考えでは、太陽が昇り始めるときに体内にも陽気が発生し、この陽気が体を適切に満たすことで心身の機能を健やかに保つとされています。つまりは新陳代謝のこと。朝のひかりを浴びながら体をゆっくり動かすのが、陽気を活性化させるポイントだそう。最近は大気汚染の問題で屋外の運動を避ける人が増えたといわれますが、実際、上海の朝の公園は変わることなく賑わっています。
 なお、共働きの家庭が一般的な上海では、多くの場合、実家の両親やお手伝いさんが小さな子どもの世話をします。朝の太陽は子どもの成長に大切だと考えられていますので、朝に孫を連れて公園デビューさせるお年寄りたちの姿も、上海らしい光景です。

朝日を浴びながら、音楽に合わせて体操。 朝からにぎわう公園。上海らしい光景。

朝食は欠かさない

 中医学の観点では、太陽が出て暖かくなってきた頃に食事をとると、消化吸収がよく、「ヤンチー」も活性化されて良質なエネルギーになるそうです。いずれにしても食べることが好きな上海の人にとって、朝食を抜くという選択肢はあまりありません。
 上海の昔ながらの朝ごはんといえば、「油条」という揚げパンや「大餅」という小麦粉のお焼き。お店で買うのが一般的です。油条には油がたっぷり使われていますが、揚げたてを温かい豆乳と一緒に頬張るとなんともいえないおいしさがあります。お粥も定番です。百合根やナツメ、蓮の実入りなど種類が豊富。専門店もありますし、家で作る人もいます。
 最近は若い人たちの食生活が変化し、朝食にパンを食べる人が急増しています。不規則な生活をする人が増えているようですが、それでも多くの若い人が飲食と健康に高い関心をもっています。私自身、友人たちから「フルーツを食べるなら朝。夜に食べると体を冷やすよ」、「朝一番の空きっ腹の胃に緑茶はダメ。白湯にしたら」といったアドバイスをよく受けます。
 都市として急速に発展し、生活が変化しつつも、健康に関する昔ながらの知恵も日常に溶け込んでいるのが、上海のパワーの源のように思います。

肉饅店は早朝がピーク。ナズナの饅頭が上海名物。 油条(右)と大餅。ひとつ1~2元と格安の朝食。
DATA
中華人民共和国 People's Republic of China

人口

13億5404万人(世界1位、2012年)

面積

約960万㎢

首都

北京

時間帯

UTC +8

言語

中国語(主に北京語が標準語とされる)

上海市は人口約2380万人(2012年)。アヘン戦争後の1843年の開港をきっかけに国際都市として発展。イギリスやフランス、アメリカなどが租界をつくり、繁栄を極めた1920~30年代には「東洋のパリ」や「魔都」の異名もとった。観光地として有名な外灘だけでなく、街なかの至るところに租界時代の洋風建築が残っている。孫文や魯迅、杜月笙ほか、中国近現代史の重要人物の活動の舞台となった街でもある。現在、中国随一の経済都市として発展を続けている。日本人の長期滞在者は約5万6000人と世界最大。

プロフィール

もり・まいか ● 神奈川県横浜市出身。ライフスタイル誌「TOKIO STYLE」や機内誌「SKYWARD」などの編集者を経て、2010年上海へ渡る。中国語を学び、2011年よりフリーランスの編集者、ライターとして日中両方のメディアで活動。

Latest Column