心地よく健やかに住まうこととは?

大切なのは適度な暑さ寒さの変化。あたりまえの刺激が健やかなくらしにつながる。

うつ病、躁うつ病の総患者数
うつ病、躁うつ病の男女年齢別の総患者数

サーカディアンリズムが乱れている現代人

環境問題や環境によい住まいというと、とかく省エネという視点でのみ語られがちですが、同等かそれ以上に大事なのが、身体の中の環境です。
現代社会に暮らす私たちは、高度に発展した都市生活の中でさまざまなストレスにさらされ、生活習慣病や精神疾患、アレルギーの増加などの健康問題に直面しています。たとえば、低体温傾向の子どもが少なくないこと、うつ病や躁うつ病患者数の増加などは、具体的なデータとして現れています。
こうした健康上の問題の背景には、夜型の生活や睡眠不足、運動不足、不規則な食事、ストレスといった基本的生活習慣の乱れと、一年、一日を通してほぼ均質に制御された明るさ・温度の室内や、何でもワンプッシュで済む便利な生活など、刺激が少ない住環境の2つの要因が考えられます。
基本的生活習慣が乱れると、ひとの健康を司る生体リズムが乱れやすくなります。なかでも重要なのは24時間の生体リズム、サーカディアンリズムと呼ばれるもの。
サーカディアンリズムが正常であれば、ひとは本来夜暗くなると眠くなり、朝になると目覚めます。体温は早朝の睡眠中最も低く、少しずつ上昇して夕方最も高くなります。血圧は朝上昇して日中に高くなり、夜から夜中にかけて低くなります。
また、心身の健康を司る各種ホルモン(セロトニン、メラトニンなど)の分泌も、サーカディアンリズムでコントロールされているため、これらの分泌が正常に行なわれないと、心身の健康にさまざまな問題を引き起こします。

睡眠覚醒のリズム

サーカディアンリズムの例

【睡眠・覚醒リズム】
・夜暗くなると眠くなり、朝になると目が覚める。

【体温】
・早朝の睡眠中最も低く、少しずつ上昇し、夕方最も高くなる。

【血圧】
・朝上昇して日中に高くなり、夜から夜中にかけて低くなる。

【性ホルモンや成長ホルモンの分泌】
・夜の睡眠中に高まる。

【自律神経の働き】
・日中は交感神経(心身を活動的にする)の働きが高まる。
・夜間は副交感神経(心身をリラックスさせる)の働きが高まる。

刺激が少ない住環境に慣れるとどうなる?

ひとは本来、暑さや寒さなどの刺激を感じると自律神経(副交感神経、交感神経)が血圧を変動させ、血管を収縮させて体温を逃がさないようにしたり、血管を拡張させて汗をかくことで体温を調節したりしています。
こうした暑さ寒さなどの刺激を感じることで、自律神経が健全に発達し、正常に働きます。
しかし、刺激の少ない室内環境に慣れてしまうと、この自律神経の発達が妨げられてしまう可能性もあります。
汗腺の分泌能力の発達には胎児期から生後2年半の間が重要と言われており、極端に冷房の効いた部屋で幼い子どもを育てると汗腺が増えず、汗をかけない(体温調節ができない)身体になる危険性が高まるそうです。
快適な住環境を叶える技術進歩の裏で、こうした極端に刺激の少ない住環境や、基本的生活習慣の乱れは、ひとの健康を司る生体リズムや体温調節機能などを乱し、私たちの健康を脅かしている可能性があるのです。

体温調節の仕組み

サーカディアンリズムをリセットするのは太陽の光

生活リズムとメラトニン代謝の関係 : 睡液中メラトニン分泌量の推移

サーカディアンリズムが乱れると、ひとの眠りを誘引するメラトニンの分泌も乱れ、深夜でもメラトニン量が足りず(眠りたくても眠れない)、逆に明け方に分泌のピークを迎えてしまいます(眠くて起きられない)。
正常なサーカディアンリズム下では夜8時頃からメラトニンが増加し、自然に眠りが誘引されます。メラトニン量は深夜2時頃のピーク(熟睡)を挟み徐々に減少(目覚めを誘引)、明け方には血液中からほとんど消えます(すっきりと覚醒)。
このサーカディアンリズムを統制する体内時計は脳の視床下部にあり、1日約25時間になっています。この1時間のずれを毎日調整し、24時間の昼夜のリズムと同調させているのが太陽の光です。
ひとの体内時計は太陽の光を受けることで昼夜の周期に適応できるようにセットされています。だから寝る時間が数時間ずれたり、時間の異なる海外に出かけても適応できるのです。
太陽の光を浴びて規則正しい生活をすると、夜も眠りやすいことが、旭化成ホームズの調査でもわかっています。
約1ヵ月キャンプ生活を送った子どもたちの唾液中のメラトニン量を測定したところ、キャンプ中の規則正しい生活では就寝時のメラトニン量が最も多く、朝や夕方は低いという正しい増減を表したのに対し、キャンプ前と後では朝メラトニン量が最も高いという乱れが測定されています。

体温調節機能を呼び覚ますのは適度な暑さ・寒さの刺激

そして、太陽の光の他にも大切な刺激は、春夏秋冬で感じる適度な「暑さ」と「寒さ」です。
ひとが本来持っている体温調節機能を呼び覚ますには、生活の現代化が進んでいない時代や地域の生活環境がヒントになると言われています。
生活の現代化が進んでいない時代(50年前の日本)や地域(中国の山岳地帯)、早寝や早起きが誘発されるような生活環境において、子どもの自律神経系を発達させる条件が存在する可能性が示唆されています。
このような生活環境においては、自然環境を取り入れる(自然環境に左右される)機会が多く、暑い・寒いの刺激も多いと考えられます。

私たちはもちろん、医学的な見解から常にくらしを研究しているわけではありません。
それでもやはり、住まいやくらしを考える上で、夏は涼しく冬は暖かく快適に生活することと同時に、自律神経の発達を促すこの刺激の大切さにも着目し、真に健康なくらしのための、光と風の取り入れ方を検討することも大切ではないでしょうか。からだとこころが健康でいられる場所であることが、よい住まいの条件だと考えます。

  • 次へ
ページのトップへ戻る