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不良資産の継承は頭痛の種。どうする?「老朽化したアパート」

相続

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2010年6月 1日

不良資産の継承は頭痛の種。どうする?「老朽化したアパート」

相続とは、被相続人の権利や義務の一切を引き受けることです。高額な資産を引き継ぐこともあれば、「こんなもの残さないでほしい」というものもあります。不動産を引き継ぐ場合、貸宅地や老朽化したアパート、さらには商売の傾いた店舗など、価値ある財産ばかりではなく、明らかに「不良資産」としか言えないものが多くあるのです。

それから相続人が異議を申し立てないで財産を引き継いだ場合、被相続人の借金や保証債務なども付いてくることを忘れてはいけません。しかも債務の承継は通常の財産分割と違って、相続人の話し合いだけでは決まりません。債権者との交渉が必要となります。例えば、一番多くの財産を長男が引き継ぐ場合、債権者(金融機関)が同意しなければ債務が長男にいくわけではなく、借金の債務は相続人全体、つまり残された兄弟の連帯債務のままとなってしまいます。こうした“負の遺産”の内容を知らないと、思わぬトラブルになりかねません。今回は負の遺産となりがちな、老朽化したアパートの相続について考えてみましょう。

◆事例◆ 引き継いだのは築20年以上のアパート

サラリーマンのDさんは東京郊外の旧家の出身。ただし次男のため親戚づきあいはあまりせず、気ままに都心でマンション生活を送っていました。そんなある日、父が急逝。父は多くの不動産を所有していました。父の死から半年ほど経ち、兄から「相続税申告しなければならないが、いろいろ面倒なことがあるので自分に任せてほしい」と連絡がありました。実家と距離を置いていたDさんに異論はありません。しばらくして兄から遺産分割協議書が届き、実印を押したDさん。父が昔に建てたアパートを土地付きでもらえることになりました。他の不動産と併せて当該アパートの所有権移転の手続きがされ、Dさんは図面や家賃の出納帳などの資料を受け取りました。そして実際のアパートを検分し、オーナーの変更を入居者に伝え、経営は亡父からDさんへ引き継がれました。

しかし、ここである不安がよぎりました。アパートは築20年以上。借金は残っていませんが、かなり老朽化しており空室もあります。入居者に賃料不払いなどはなかったようですが、古いため家賃を相場並みに上げることはできそうにありません。設備の古さや、地震、火事の心配を考えたら、建て替えるべきでしょうか? そもそも引き継ぐにあたって、どのようなことに注意すればよかったのでしょうか?

◆課題◆ 「建物の状態」と「賃貸借契約」の2本柱で考える

老朽化したアパートの承継は、よほど維持管理がしっかりした物件を除いて、問題を含んでいるケースが多いのが実態です。引き継いだ賃貸不動産の収益性を上げるには、様々な問題を解決しなければなりません。中でも問題となるのが、建物の構造や設備に絡む問題、そして入居者との賃貸借契約の問題です。

(1)賃貸不動産はメンテナンスが物を言う

賃貸不動産を引き継いだ場合、まず建物の現状を自分の目で確認しましょう。最近は入居者とのやりとりや共用部の清掃などを業者に依頼しているオーナーが多いようです。そのためオーナーは、建物の痛み具合や汚れなどの状況が分からず、必要最低限度のメンテナンスにとどまっているケースが多くあります。今後、長期にわたって賃貸不動産から賃貸収入を得ようとするなら、最低限度のメンテナンスでは不十分であり、さらに一歩進んで、同じ地域内の他の物件と比較しても遜色のない設備、仕様を備えた競争力のある賃貸不動産を目指すべきではないでしょうか。

(2)耐震性、耐火性の構造上の問題

大きく注目したいのが建物の構造。防火地域にあれば、新築にあたって耐火仕様が求められるのは当然ですが、共同住宅の場合、防火地域に限らず建物の不燃化を進める必要があります。既存のアパートを引き継ぐ場合は、この防災面で不十分なものが多く、将来の経営の安定を考えれば大規模な改装、建て替えなどを考えざるを得ないものもあるでしょう。また中高層の建物の場合、現行では、耐震性能については確認申請時にとても厳しいチェックを受けるようになりました。現行の基準からすると、老朽化した賃貸建物の耐震性能はほとんどの場合が不十分。耐震性能を補強する工事はかなり大掛かりになり、コストを考えると建て替えてしまった方が安価で済むケースもあります。耐震性、耐火性などは居住者の安全に関わるため、後回しにはできません。内装、設備だけでなく、基本的な構造に不安を残さないことが求められます。

(3)賃貸借契約見直しのタイミング

かつてアパートの入居時に交わす賃貸借契約書は、簡単なもので済まされ、入居者も内容を詳しく承知していない場合がほとんどでした。しかし時代は変わり、現在はしっかりした契約内容に基づいた対応が求められます。だからといって代替わりに伴い、オーナー側から一方的に契約内容を見直そうとしても法律では認められません。入居者とのトラブルをめぐる最近の裁判では、契約更新料は不要と判断されるなど、入居者に有利な判例が増えています。そもそも借地借家法によって入居者は手厚く守られており、賃料不払いなどの明らかな契約違反行為がなければ、契約解除もできません。建物が老朽化したからといって、倒壊の危険が明らかに認められるほどの状態でない限り、建て替えについて正当な事由があるとは認められません。

そこで賃貸借契約を見直すためには、入居者の入れ替えの際に新たな契約として更新のない賃貸借契約である定期借家契約に切り替える方法があります。時間はかかりますが、ある程度の期間を経て個々に契約を終了させ、スムーズな明け渡しや建て替えができます。ただしその場合でも専門家による契約の管理が必要でしょう。

◆対策◆ アパート経営は会社経営と同じ

古いアパートを引き継ぐからといって、全てが不良資産というわけではありません。借金がなく、入居者が確保され、確実に収入が上がるのであれば悪い話ではないのです。肝心なのはアパート経営のリスクについて、的確な見通しを持つことができるかどうかです。上記のような問題が生じるリスクがどの程度あるのかを、プロの視点で判断する必要があるでしょう。

プロといっても特別な職種があるわけではありません。アパート経営も会社経営と同じく「経営、マネジメント」。経営目的を明確にした上で市場環境や経営資源を把握し、リスクを踏まえた上で具体的目標のための計画を立て、実行しなければなりません。オーナーはつまり社長。税理士や弁護士、建築士、不動産鑑定士などの専門家を社長の視点で有効に活用し、彼らのアドバイスを受けながら意思決定することがオーナーの仕事です。

今回のケースで肝に銘じておきたいのは、親の財産を相続することは、資産をもらえるだけではないということ。アパートのような賃貸不動産であれば、引き継ぐものは土地建物だけではなく、アパート経営そのものになります。うまくいけば収益をあげられる資産となりますが、失敗すれば頭痛の種になるばかり。アパート経営を引き継ぐ自信がなければ、不動産として売却処分することを考えた方が賢明かもしれません。

しかし、せっかく親から譲り受けた不動産ですから、可能な限り活用したいものです。そこで後々苦労をしないためにも、遺産分割にあたっては、財産の状況を慎重に見極めることが必要でしょう。例えば賃貸不動産であれば、その収益性、売却可能な市場価値を調べ、経営の難易度を踏まえて誰が引き継ぐかを検討すべきです。

株式会社 旭リサーチセンター 住宅・不動産企画室室長
川口 満(かわぐち みつる)
旭化成のシンクタンク「旭リサーチセンター」で住宅・不動産に関わる専門的なアドバイスを提供している。著書「サラリーマン地主のための戦略的相続対策」(明日香出版社)。ファイナンシャルプランナー。

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