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生前贈与。効果も大きいが、副作用にも注意

相続

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2010年11月 1日

生前贈与。効果も大きいが、副作用にも注意

子がマイホームを購入する場合、親から資金を援助してもらうことはよくある話です。親からの贈与によって、可処分所得の少ない若年世帯の支出増につながる景気対策の意味があるので、国としても税制の特例を設けて進めているところです。この住宅取得資金贈与の特例は、「相続時精算課税選択の特例」の中でも取り上げられています。住宅取得資金の贈与は、相続対策とも密接な関係があるのです。これは婚姻期間20年以上の配偶者への居住用財産の贈与の特例についても同じです。贈与を上手に活用して、財産を早めに相続人へ引き継ぐことは、確実な相続対策ですが、もちろん注意点もあります。どのような点に注意して贈与を行えばよいのか考えてみましょう。

◆事例◆ 生前贈与が、兄弟姉妹間の不満のタネに

Iさんは都心通勤に便利な駅の近くに自宅を構えています。母親の葬儀を終えて半年が経ち、長男のIさんが相続税申告を準備しようと姉妹に話し合いを求めたのですが、思わぬ難題にぶつかりました。相続人は長男のIさんの他、姉・妹2人の計4人です。姉妹たちは結婚して家を出ているのですが、彼女たちの言い分は相続を機に土地を売って金で分けろと言うのです。Iさんの自宅は、もともと父親が購入していた土地・建物をIさんの代に両親との同居用に建て替えたもの。父親は亡くなるまで相続対策と称し、毎年母親と子どもたちに土地の持ち分を贈与し続け、土地は家族の名義になっていました。そのおかげで父親の相続では、母親が引き継いだ株や預金で税金をまかなうことができたのです。

今回は母親の持ち分だけが対象ですから、母親と同居していたIさんが引き継げば、小規模宅地の評価の減額が受けられるため、税金の心配はないはずでした。ところが、母親の存命中は何も言わなかった姉妹たちから、いきなり財産分けの強い要求です。Iさんもいずれは土地の持ち分を姉妹から譲ってもらいたいと考えていました。父親が贈与したのはあくまでも相続税対策であり、この土地は一緒に住む長男のIさんに引き継がせると言われてきたからです。土地の持ち分を姉妹たちの要求通り時価で買うことは、資金的にも無理な話です。姉妹たちは土地の持ち分を買い取ってもらえないのなら、全体を売って換金しろと言います。自宅を手放すしか方法はないのでしょうか?

◆課題◆ やり直しのきかない生前贈与

生前贈与は手堅い相続税対策だといわれています。時間をかけて親の財産を子や孫に移転しておけば、贈与税の負担も少なく、確実に相続税の課税対象財産を減らすことになります。また子世代の財産形成を進めるため、居住用財産の取得については大きな贈与税の特例も用意されています。

●住宅取得等資金の贈与に係る贈与税の特例措置

適用対象者はその贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下の者に限られます。非課税限度額は以下の通りです。

イ 2012年中・・・1000万円(通常住宅)、1500万円(省エネ住宅・耐震住宅)
ロ 2013年中・・・700万円(通常住宅)、1200万円(省エネ住宅・耐震住宅)
ハ 2014年中・・・500万円(通常住宅)、1000万円(省エネ住宅・耐震住宅)

なお、基礎控除額110万円もそのまま適用できます。

また、相続時には再度、相続財産に戻されて相続税を計算することになりますが、用途を問わず、贈与税の負担がかからず親から子へ財産を移転できる相続時精算課税制度もあります。

●相続時精算課税制度

65歳以上の親(※)から20歳以上の子が贈与を受けるときに選択でき、この特例は贈与を受けた子ごとに、さらに父または母ごとに選択できます。適用対象財産について贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はありません。贈与税申告時に選択した旨の届出書を添付すると、それ以降相続時まで継続適用されます。複数年にわたる父または母からの贈与財産合計額が2,500万円までは贈与税がかかりません。ただし2,500万円を超えると上回る金額に対し一律20%の贈与税がかかります。相続時には相続財産に贈与財産(贈与時の時価)を戻し相続税額を計算し、すでに納めた贈与税があれば相続税から控除されます。

(※住宅資金について相続時精算課税制度を受ける場合は、2014年12月31日までは贈与者(親)の年齢制限がありません)

一方で生前贈与には注意すべきこともあります。遺言書と違って、一度贈与するとやり直しができないことです。贈与は与える側ともらう側の契約。親子といえども、一方的に財産を取り返すことはできません。例えば、生前に子に多くの財産を贈与できれば、確かに相続税の負担は減らせます。しかし不幸なことに子が先に亡くなることもあります。そのような場合、子に家族があれば配偶者や孫に財産が渡ります。子ども夫婦が離婚して財産分与することもあります。いったん贈与されれば財産は子のもの。親の意向と違っても取り返すことはできないのです。

さらに親の気持ちが大きく働く贈与は、兄弟姉妹間で不満を生じさせる可能性も持っています。公平にしようと不動産の持ち分などを均等に兄弟姉妹に贈与する人もいますが、以前にも述べたように不動産の共有は問題を先送りするばかりです。Iさんの事例のように、共有不動産は一度もめるとその利用、処分にあたっての了解が得られないのです。財産の承継について、しっかりした方針を持たないままで実施される生前贈与は、後々家族に不和の種を残すことになりかねません。

◆対策◆ 相続対策の切り札は不動産の活用

相続税対策のための生前贈与には前提条件があります。これまでにも何度も強調してきましたが、資産承継についての家族の話し合いです。特に不動産については、中途半端な共有になりやすいので、誰が引き継ぐのか特定しておくことが大切です。いわば資産承継についてマスタープラン(基本計画)を持つことが必要でしょう。マスタープランがあれば、その方針に従って生前贈与を活用することは大変有効な手段となります。例えば親から子、子から孫への直系の家族間での共有は問題が起きにくく、逆に兄弟姉妹間、配偶者の親族などとの共有は避けるべきでしょう。また、不動産は利用単位ごとに承継者を特定することが望ましく、財産のバランスが取れなければ、換金して現金で分けることも視野に入れる割り切りも必要です。

スムーズな資産承継には現状の資産価値の把握が大前提です。不動産については時価の把握が難しいことは以前にも紹介しましたが、特に収益性を重視した不動産の評価が主流になる時代では、対象の不動産の活用の見込み次第で大きく評価が変わります。地形や履歴、立地の市場性、活用にあたっての様々な建築法規上の制限など土地の属性を見極めなければなりません。不動産鑑定士などの専門家の力も頼るべきでしょう。

相続対策としての順序は1に納税、2に分割、3、4がなくて5に節税です。納税や分割をめぐっての様々な問題を取り上げてきましたが、その後に続くテーマは土地活用で、決して節税ではありません。ただし賢い土地活用によって、結果として相続税の節税につながることはあります。

●賃貸経営の承継は、旅客機の「自動操縦システム」を目標に

賃貸マンションなどの収益不動産について、スムーズな資産承継のための一つの考え方を紹介します。賃貸経営の「自動操縦システム」というものです。もちろんこれから土地活用を考える場合は、相続対策とは別に、副収入を得たい、あるいは親から引き継いだ土地建物を利用したいなど、様々な事情があるでしょう。しかしすでに収益不動産を保有する方にとって、資産承継のために考えておくべきことはいったい何でしょうか? 土地建物の時価をいくらで考え、どのように分割するかではありません。正解は、安定した賃貸経営をどう維持するかです。そのヒントが旅客機の「自動操縦システム」という考え方なのです。

賃貸不動産は建設段階で多くの意思決定が必要ですが、テナントが入り、経営が始まってしまうと、建物の維持管理とテナントとの賃貸借契約管理が主な業務で、難しい経営判断は不要となります。外部の専門業者へ委託すれば手間なしで経営ができます。賃貸市場の動向も住宅については極めて安定的に推移しているため、環境変化の対応に追われることも少ないはずです。そうなると経営者として意思決定がほとんど不要となり、不動産所得申告時の計数チェックぐらいで済むことになります。

すなわち、旅客機の「自動操縦システム」のように、安定高度に至ればパイロットは目的地を入力して操縦桿を手放すことができるのです。賃貸経営も収益が安定する「高度」に至れば、「自動操縦」は可能です。こうした状態が実現できれば、経営の引き継ぎはとてもスムーズで容易となります。

相続対策としての土地活用は、決して節税のためではありません。土地の収益性を見極めることで、場合によっては売却したり、他の資産に組み替えたりします。自宅のように維持すべき不動産は、将来の土地利用に支障がないことが大切です。そして収益を上げるべき不動産については、「自動操縦システム」のような長期安定経営を目指すべきでしょう。

株式会社 旭リサーチセンター 住宅・不動産企画室室長
川口 満(かわぐち みつる)
旭化成のシンクタンク「旭リサーチセンター」で住宅・不動産に関わる専門的なアドバイスを提供している。著書「サラリーマン地主のための戦略的相続対策」(明日香出版社)。ファイナンシャルプランナー。

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