HOME > アパート経営・土地活用の知恵袋 > マンスリーレポート > 相続 > 超高齢社会の遺産分割協議で注意することは?
アパート経営・土地活用の知恵袋
マンスリーレポート 最新情報をレポートします

超高齢社会の遺産分割協議で注意することは?

相続

タグ :

2010年8月 1日

超高齢社会の遺産分割協議で注意することは?

多くの人が頭を悩ます相続税。相続税に限らず税金の申告と納税の期間は、思っている以上に短いものです。相続税の場合、申告は被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内と定められています。葬儀を終えて親戚や関係先への挨拶があり、墓の手配から納骨までで一段落。ようやく故人の家財の整理に手がついて、財産分けについて相続人の間で話し合いをする頃には半年近く経っているでしょう。遺産が現金、預金など、分けやすいものであれば良いのですが、不動産が多いと現状の把握だけでも手間がかかります。その上で配分について相続人の合意ができれば、遺産分割協議をまとめることができます。

ある程度資産をお持ちのご家族の場合、事前の準備がないと10カ月の間にここまでたどり着くことは大変です。ここで問題となるのが、相続税の申告に際して様々な軽減特例を使う必要がある場合です。ほとんどの特例は遺産分割により、特定の財産が誰のものになるかを決めないと使えないのです。申告期限までに遺産分割協議がまとまらなければ、軽減特例が使えないので高額の納税が避けられません。それでは困るということで、「取りあえず法定相続分で共有にしておこう」となりがちです。共有でも遺産分割にはなりますが、不動産についていえば、問題の先送りになりかねません。

例えば共有の不動産は、利用・処分にあたっては共有者の合意が必要です。また、共有物はいつでも分割請求ができることも問題になります。相続人の間で意見がまとまらなければ、結局売却して現金で分割するしかない場合がほとんどなのです。そうしたことを避けるためにも、なるべく申告期限内に家族間でスムーズに遺産分割協議を行っておきたいのですが、それが円滑に行いにくいケースもあります。

このように難しい問題のある遺産分割協議ですが、もし家族が認知症などによって意思能力が乏しいとみられる場合、どのように進めればよいのでしょうか?

◆事例◆ 高齢の母が認知症に。相続の相談はどうするの?

Fさんは閑静な住宅街で両親と一緒に暮らしています。両親の自宅の隣の土地を使う、いわゆる隣居です。Fさんは長女。下に弟がいます。その弟が最近になって転勤先から戻り、Fさんと同じように両親の土地に隣居を始めました。ある程度広い土地でしたが、3棟の家が建ち、庭もほとんどありません。しかし家族がそろって生活できることに、年老いた両親は喜んでいました。

そんなある日、思わぬ事態が発生しました。母親が倒れ寝たきりになり、しかも認知症が認められたのです。不幸なことに母親は医師から回復不能と宣告され、自宅に戻ることもできず、病院での暮らしを送ることになってしまいました。父親も高齢のため一人暮らしは難しく、長女のFさんが面倒を見ることに。そこで心配なのが相続です。父親名義の財産は土地建物がほとんどですが、税金がどれぐらいかかるか分かりません。また、この状態で父親の相続を迎えたら、母親に任せようとしていた遺産分割の差配がどうにもなりません。現在、母親はまともに話せない状態のため、相続の相談はできません。弟夫婦も相続についてどう考えているのか分からず、家族間でどのように近い将来の相続について対策を進めればよいのか分からず困っています。

◆課題◆  「成年後見制度」を利用する

Fさんの母親のように、不幸にして身の回りについて判断能力をなくしてしまった場合、「成年後見制度」を利用する方法があります。不動産や預貯金などの財産を管理したり、施設への入所に関する契約などを本人の代わりに結んでもらうことなどもできます。判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれています。

1.後見…判断能力が常に欠けている人が対象となり、後見人の財産に関する全ての法律行為を本人に代わって行う権限が与えられます。

2.保佐…判断能力が著しく不十分な人が対象となり、民法で定められた行為(借金、訴訟、新築など)について保佐人の同意が必要です。保佐人には、裁判所が認めた特定の法律行為についてのみ、本人に代わって行う権限が与えられます。

3.補助…判断能力が不十分な人が対象となり、裁判所が認めた特定の法律行為について補助人の同意が必要です。補助人には、保佐人と同様に裁判所が認めた特定の法律行為についてのみ、本人に代わって行う権限が与えられます。

この制度を利用し、Fさんが申し立てをすれば、Fさん、あるいは父親を成年後見人にすることができます。ただし、注意すべき点があります。相続にあたって遺産分割を決めることは、本人も法定後見人も相続人となり、利害関係者となることです。このままでは本人に代わり遺産分割協議をまとめることはできません。この事例では相続人以外の代理人を立てる必要があります。

さらに、法定後見人を決める手続きが決して簡単ではありません。なにしろ本人の法律行為能力に制限を加えてしまうことですから、医師の診断はもちろん、関係者の同意について細かく調べられます。Fさんの場合、弟夫婦の同意をとりつけるのに時間がかかる可能性も捨てきれません。また裁判所の手続きが半年以上かかってしまうことも往々にしてあります。

このように、いざ相続が起きてから、これらの手続きを踏むことには、申告期限の10カ月の期間ではほとんど不可能といってよいでしょう。また、最初に述べたように、遺産分割がまとまらなければ、相続税を軽減できる特例の多くが利用できなくなってしまうのです。

遺産分割をスムーズに進めるためには、事前の準備がいかに大切かということです。被相続人の意志を相続人で共有し、意見があれば納得するまで話し合う姿勢も必要でしょう。そして相続人全員の合意が得られる遺産分割の基本方針を早い時期に立てておくことが何よりの対策です。

◆対策◆ 「任意後見制度」も含め、早め早めの遺産分割方針を立てる

以前、アパートの事業承継の課題をご紹介しましたが、賃貸不動産の場合、単純な名義の引き継きでは済みません。遺産分割協議にかかるまえに、アパート経営として承継するのに十分な資産となっている必要があります。建物の維持修繕や入居者の契約管理を踏まえて、賃料収入が不動産の価値に見合ってなければなりません。これらを考えると、賃貸不動産は、相続以前に経営状態の改善が図られなければなりません。

経営者であるオーナーの判断能力に問題が生じることは、こうした意味でも大変な事態となります。上記のような法定後見制度では、アパート経営をスムーズに引き継ぐことには間に合いません。その場合に検討できる方法として、「任意後見制度」があります。

これは本人が十分な判断能力があるうちに、あらかじめ自らが選んだ代理人に財産管理に関する事務などで代理権を与える契約を公正証書で結んでおくというものです。本人の判断能力が低下した後に、任意後見人が裁判所に申し立て、契約で決めた事務について代理人になることができます。裁判所は「任意後見監督人」を選定し、任意後見人を監督することになります。

他にも、貸宅地での借地人との契約内容で、書面に現れない約束事項がある場合、私道をめぐって隣地と過去に話し合ったことがある場合など、不動産をめぐる様々な事情は、相続人にしっかり伝わるものではありません。当事者である親の代で、整理できることは整理し、引き継ぐべきことは確実に引き継がせるという事前の準備が大切なのです。遺産分割を話し合うときには、不動産のこうした事情が分かっていることが望ましいのです。

いずれにせよ相続を控えて、遺産分割を実際に想定してみると、一筋縄ではいかないケースが多いようです。税金を安くすることよりもスムーズに資産が承継されることこそが大切です。そのためにも、家族が元気なうちから、遺産分割についてしっかりと話し合っておくことが重要なのです。

株式会社 旭リサーチセンター 住宅・不動産企画室室長
川口 満(かわぐち みつる)
旭化成のシンクタンク「旭リサーチセンター」で住宅・不動産に関わる専門的なアドバイスを提供している。著書「サラリーマン地主のための戦略的相続対策」(明日香出版社)。ファイナンシャルプランナー。

土地活用・アパート経営の資料プレゼント

セミナー・イベント情報を見る

窓口・WEB・電話で相談する

▲ページトップへ

マンスリーレポートトップへ