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小規模な「会社」のスムーズな事業承継とは?

相続

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2010年7月 1日

小規模な「会社」のスムーズな事業承継とは?

親から子へ引き継ぐものの中に、「会社」が含まれているケースは少なくありません。中には株式を公開し多大な資産と従業員を抱える企業もあるでしょうが、多くは個人事業者が法人成りしたような小規模な会社でしょう。このような中小企業の場合、普段は区別しないで使っていることが多く、会社の資産と会社オーナーの資産が混在している場合がほとんどです。

こうした会社のオーナーが相続を迎えると、特段の対策を講じていなければ会社の持株(出資分)も相続財産に含まれることになります。そうすると個人名義の財産が少なくても、法人としての資産規模が大きければ、当然、持株の評価に反映され、相続財産がふくらみます。このような場合に考えがちなのが、会社の持株の評価を下げようと借り入れを増やしたりする相続税対策。しかし、これは会社の体力を弱めることでもありますから、慎重に考えないといけません。

また、会社を引き継ぐということは、個人財産の相続だけに頭を悩ませているわけにはいきません。後継者の育成や事業の維持など、税金対策以外にもやることは山積しています。こうした会社オーナーの相続対策、スムーズな事業承継について考えてみましょう。

◆事例◆ 鉄工所から不動産賃貸業へ。この会社をどう引き継ぐ?

商社勤務だったEさんが、祖父の時代から続く鉄工所を引き継いだのは十数年前。父親が体調を崩したため、Eさんが跡を継いだのです。Eさんは商社マン時代から市場環境の変化を読んでいたので、鉄工所の商売は縮小し、整理を進めました。現在では以前からの従業員は数名で、実質的には社有地を使った不動産賃貸業が中心になっています。株式については現在も社長の父親がその過半を所有しており、他は数名の親戚で分け合っています。

Eさんが将来の相続について会計士に相談したところ、便利な立地の不動産があることで会社の株式評価がかなりの額になりそうだと言われました。Eさんとしてはもともとの鉄工所は清算しても、主たる収入源である賃貸ビルなどの不動産は維持したいところ。できるだけ早く納税資金を準備したいと思っていますが、父親名義の資産は自宅周辺の土地以外は会社の株式がほとんどで、現金は乏しいのが実情です。ですから相続の際には、会社の不動産収入を納税資金に充てたいのです。しかし会社の利益の処分ですから父親はもちろんのこと、株主である親戚の了解も必要になります。現在、父親の病状も芳しくありません。Eさんは、自分が対策の主導権をとるために、もっと早く株式を集約し、自分への移転を進めるべきだったと焦り始めています。

◆課題◆ 必ず押さえておきたい「社有地」の問題

この場合、何よりも優先したいのは納税資金の確保です。また経営上、株式を大勢で分割して持ち合うことは望ましいことではありません。そうかといって、株を取得するために代償金が必要になれば、納税分と合わせ、かなりの現金を用意しなければなりません。

本来であれば、被相続人となるオーナーが、すぐに換金できる財産や多額の現金を持っていることが理想ですが、現実にはそんな恵まれたオーナーはほとんどいません。加えて、Eさんの場合は今や財産の中心は不動産と株。となると、このコラムで何度も触れているように、重要なのは「財産の見極め」となります。

会社の財産を評価する場合に問題となるのが、会社に使わせている土地と、自宅で使っている社有地の扱いです。土地の名義と建物の名義が一致しない場合、税務上、借地権の有無の問題が生じます。

会社オーナーの土地に法人名義の建物がある場合

建築をする際に何らかの取り決めがされたはずですが、おおむね以下のような取り扱いになります。通常、土地を借りる場合に必要な権利金は、税務署に「無償返還の届出」を出してあれば、不要です。届出がないと法人の場合、権利金相当の「認定課税」がされることになっていますからほとんど出しているはずです。

(1)無償返還の届出を提出し、地代授受がない場合

法人に借地権はないものとみなされます。固定資産税相当程度の地代を受け取っていても同様です。

(2)無償返還の届出を提出しており、相当の地代を授受し、3年に一度の地代改定をしている場合

法人に借地権はないものとみなされます。

(3)無償返還の届出を提出しておらず、相当の地代を授受し、地代が据え置かれている場合

法人に「自然発生借地権」が生じているとみなされます。

(4)無償返還の届出の提出の記録がなく、地代の授受もしていない場合

かなり古い借地権の設定であれば稀にこうしたケースも想定され、個別の事情により判断されます。

法人の所有地に会社オーナー名義の建物がある場合

法人である以上、所有地を無償で貸し付けることはあり得ません。もし無償で経営者や役員に貸し付けてしまえば、以下のような「認定課税」になってしまいます。

(1)法人については、権利金相当の法人税「認定課税」となります。

ただし、以下に該当する場合を除きます。

・その土地の価額からみて相当の地代を収受している場合
・契約書において将来借地人がその土地を無償で返還することが定められており、かつ「無償返還の届出」を借地人と連名で税務署に提出している場合。

この場合は実際に収受している地代が相当の地代より少ないときは、その差額は借地人への贈与となる。

(2)経営者については、権利金相当の受贈益が所得税「認定課税」(役員賞与)となります。

このようなことがあるので、社有地に経営者が自宅を持とうとする場合は、法人名義の建物とし、役員社宅として経営者が借り受けることが多いようです。

なお、会社に借地権がある場合は、土地売却のために借地権を解消しようとしても、権利金相当の立退き料の支払いが必要です。このように、土地の処分にあたっては、とても面倒で煩雑な手続きや話し合いが生じることもあります。面倒な事態を招かないためにも、会社オーナーと会社の土地の貸し借りは、事前に解消することが望ましいのです。土地の交換、買換えなどで税務の特例が使えれば、負担を減らして土地名義の整理、活用を図ることも可能です。

◆対策◆  事前に経営内容の確認をすることが必須

しっかりと事業を引き継ぐのであれば、ふさわしい後継者を育てることが必要。これは相続問題とは別に重要なテーマとして考えなければなりません。しかし、実業の部分が乏しく、不動産を中心とした財産管理会社とみなせる場合は主に資産承継の問題として、相続時の税負担の軽減、遺産分割への備え、納税資金の確保が最大のテーマとなります。これらの課題は、いくつかの不動産を所有する地主と大きく変わるものではありません。

まずは会社の株を含めた財産の区分けが必要です。自宅など生活の根拠地として維持するもの。収益が上がり、資産価値の高い保有すべき事業、あるいは土地。収益性は低いが活用の余地がある土地。収益が今後とも見込めない、あるいは維持管理が困難な事業や土地。収益性に関わらず換金性が高いものなどです。

財産として引き継ぐべきでない、あるいは困難と判断される場合は、積極的に売却による財産の組み替えを積極的に検討すべきでしょう。経営を引き継ぐことができない会社も、そのような財産の一つと考えられます。一定の規模以上の財産を持つ会社オーナーの場合は、納税資金の確保のため、換金性の高い財産を持つことは極めて重要なのです。

会社が持つ不動産を売却する場合、不動産そのものではなく、株式の売却により会社そのものを売ることも想定されます。法人による不動産売却に対してかかる法人税と、株主個人の株式譲渡に対してかかる所得税との比較でいえば、条件にもよりますが、株式譲渡が有利になる場合が多いのです。ただし会社の売却については、単なる税金の多寡では済まされない、配慮すべき事情も多いようです。事前に会社の経営内容の確認を含め、会計士などの専門家の意見を聞くべきでしょう。

株式会社 旭リサーチセンター 住宅・不動産企画室室長
川口 満(かわぐち みつる)
旭化成のシンクタンク「旭リサーチセンター」で住宅・不動産に関わる専門的なアドバイスを提供している。著書「サラリーマン地主のための戦略的相続対策」(明日香出版社)。ファイナンシャルプランナー。

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