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遺言は本当に万能か? 優先すべきは円滑な遺産分割協議

相続

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2010年10月 1日

遺言は本当に万能か? 優先すべきは円滑な遺産分割協議

遺言書に関するハウツー本が本屋にあふれています。実際に遺言を書く人も増えたようですが、気を付けていただきたいのは、遺言書が必ずしも遺産分割をスムーズに進めるものではないということ。配慮のない財産分割の指示は、残された相続人のもめ事の種にもなるかもしれません。とりわけ不動産に関しては、価値が変動するため、より複雑な状況になりかねません。親の気持ちとしては兄弟に遺産を平等に分け与えたくても、不動産は簡単には平等に分けられません。優先すべきは被相続人の意志の押し付けよりも、相続人の円満な資産の引き継ぎではないでしょうか。そのためには、遺言書を書いておくだけでは不十分です。財産分けをめぐってもめそうならば、遺言執行人という法律の「用心棒」も必要になる場合もあります。子どものいない夫婦、複雑な家族関係など、多様なライフスタイルがある現在。今回は遺言書だけに頼らず、資産をスムーズに承継するための方法を考えてみましょう。

◆事例◆ 遺言書があるのに、裁判に!?

Hさんは都心の商業地で、親から引き継いだ小売店を営んでいます。実質的にはかなり前からHさんが店を切り盛りしていましたが、土地建物の名義は亡くなるまで父親のままでした。それが原因で、思わぬ裁判沙汰になってしまいました。義弟から遺産分割をめぐって訴えを起こされたのです。実はHさんは養子で、母親が亡くなり父親が後妻を迎えるまでは、何の問題もありませんでした。しかし年の離れた義弟が生まれてから事情は変わりました。父親に店と家を譲ってもらい、Hさんは独立。離れて暮らすことも手伝って義弟とは疎遠になっていきました。Hさんは父親から後でもめないように遺言書を書いたと言われおり、自宅兼店舗をHさんに、別宅を義母と義弟にという内容を見せてもらっていました。

Hさんは、その遺言通りに分割をまとめられるものと楽観視していましたが、そうではありませんでした。義弟は兄弟で平等に分けるように言われたと主張し、都心の高い地価の店舗敷地についても持ち分を要求してきました。また、そもそも父親の直筆のみの遺言書は有効なものではないと主張し始めました。相続税の申告期限はすでに過ぎており、高額の税金もHさんが立て替えざるを得ませんでした。ここまでこじれては、Hさんは意地でも店を譲るわけにはいきません。義母には父親をみとってもらった恩義もあり、報いたいと思うのですが、義弟の主張を受け入れる気にはなりません。しかし商売をかかえての裁判の長期化も頭の痛いことです。どうすれば良かったのでしょうか?

◆課題◆ 間違いの起こらない遺言書をつくるには

少子化の今、兄弟間のトラブルは減りそうなものですが、相続や遺産分割をめぐる家庭裁判所の相談件数は増加しています。Hさんのように、被相続人の遺言があっても、その正当性について争うことも頻繁です。遺言書一つで全て解決というわけにはいかないのです。

遺言書作成のハウツー本では、主に以下のような注意点が示されています。

1. 全文を自筆で書かないといけない
2. 日付は正確に、署名は戸籍上の氏名を書く
3. 遺言書に書いて法的効力があるものは限られる
4. 相続人ごとに財産を特定し、遺留分を侵さない
5. 第三者に財産を分ける場合は「遺贈する」と書く
6. 封書に入れて封印する

しかしもっと大切なのは、自筆の遺言書を有効とするために、家庭裁判所で「検認」を受けなければいけないことです。相続人が勝手に開封してはいけません。また相続人に、中身は秘密にしても、遺言書の存在を間違いなく知らせておかなければいけません。正しい遺言書がすぐに見つかり、相続人によって検認手続きをすることは、当たり前のようで実は難しいことです。初めから間違いの起こらない方法をとるには、公正証書による遺言が必要です。

●公正証書遺言とは

公正証書による遺言は、検認が不要で、原本が公証役場に保管されているため、紛失や変造の心配がありません。公証人が文書を作成してくれるため、形式上の間違いも起こりません。費用はかかりますが、確実な遺言作成方法です。作成にあたっては戸籍謄本などの必要書類を準備し、証人になってもらえる人を2名頼み、公証人役場で遺言内容を伝えます。それを公証人が文面にします。本人が病気で動けない場合は、手数料はかかりますが出張もしてくれます。

この方法をとれば、被相続人の意志を間違いなく文書化して相続人に残すことはできます。ただし、その内容が遺産分割を円満にまとめる上で、適切であるかどうかは、また別の問題です。Hさんのケースのように、親の立場で良かれと思って示した相続内容が、兄弟間の争いの種になることもあります。この連載で何度も取り上げているように、不動産については、承継すべきものかどうか客観的な土地の評価が不可欠です。土地利用に制約が多い、あるいは問題含みの不動産の場合は不良資産と考えるべきかもしれません。不良な資産は残すよりも処分しておいた方が相続人のためでもあります。

◆対策◆ 優先すべきは遺産分割協議をまとめること

相続対策を考える上で重要なことは、相続人が納得できる遺産分割。繰り返しますが、親の意志の押し付けでは、うまくまとまらない場合があります。遺言をするとしたら、むしろ、財産に絡まない親の考えや家族への思いなどを、言葉にして残すべきでしょう。財産には、現金のように分けることが簡単なものもあれば、不動産のように分割に向いていないものもあります。財産を円満に引き継ぐことがテーマですから、遺言に頼るだけでは不十分なのです。

●事前に相続税の申告書を作っておく

小規模宅地の評価減の特例や配偶者控除の特例など、相続税に関わる税金の軽減特例は、遺産分割協議がまとまっていることが前提だと、前回お伝えしました。遺産分割をめぐるトラブルは、相続税の負担をめぐるトラブルでもあります。財産を多くもらっても、特例によって税金の負担が少なくなるケースもあります。財産を平等に分けようとしても、評価の違いによって税金の負担に大きく差がつきます。そこで、相続税の心配があり、遺産分割でもめそうな家族の場合には、税負担の実態を確認するために、被相続人の考える分割案に基づいて、事前に相続税の申告書を作っておくことをお勧めします。申告書とその書き方は国税庁のホームページからでも簡単に入手できます。特例の適用やその他で面倒な点もありますから、税理士などの専門家に頼むと便利でしょう。いずれにせよ財産分割を前提にして、特例の適用による相続税の負担の違いを、目に見える形にすることは説得力のある検討方法です。逆に分割について合意できないと、どれだけ税負担が増えるのかということも明らかになります。

遺言書は被相続人である親からの大切なメッセージであり、財産の引き継ぎについての指針になります。親の気持ちを相続人である子どもがしっかり汲み取っているのなら、どんな文面であれ、遺産分割はまとまるものでしょう。そのときは形式的な法律上の有効、無効は問題になりません。問題が起きるのは、親の意志が伝わらないか、そもそも財産承継について何の意向も示されていない場合です。これまでも強調してきたように、事前に家族間で意見交換や話し合いがなされていないことが問題を引き起こします。家族と顔を合わせて、話し合うことが大切です。話し合いを避けて、遺言書の文面一つで貴重な財産の承継を差配することはできません。それは文書の問題でなく、親子のコミュニケーションの良し悪しが、問われているようなものです。

株式会社 旭リサーチセンター 住宅・不動産企画室室長
川口 満(かわぐち みつる)
旭化成のシンクタンク「旭リサーチセンター」で住宅・不動産に関わる専門的なアドバイスを提供している。著書「サラリーマン地主のための戦略的相続対策」(明日香出版社)。ファイナンシャルプランナー。

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