今年もコロナの感染状況に翻弄される一年でした。まだまだ予断を許さない状況ですが、賃貸市場は、他の市場と比べても影響は限定的で、業界としては、新しい動きも出ています。コロナの影響を中心に、賃貸市場や土地オーナーに関係する10のトピックスを振り返りたいと思います。
2021年賃貸市場10大トピックス
1-<コロナ関連1>家賃相場は安定して推移
2-<コロナ関連2>続く郊外エリア人気
3-<コロナ関連3>設備ニーズに変化
4-<コロナ関連4>地価、住宅地は回復傾向
5-<コロナ関連5>分譲マンション価格は上昇
6-『賃貸住宅管理業適正化法』:令和3年6月15日全面施行
7-賃貸不動産経営管理士、国家資格へ
8-温室効果ガス濃度が過去最高、ZEH-Mに期待
9-相続登記が義務化
10-事故物件告知義務にガイドライン
今年一年を振り返ると、8月にコロナの第5波が深刻化し、感染者数も過去最大となりました。しかし、昨年もそうでしたが、家賃相場への影響は少なく、安定して推移しています。
特に郊外人気から、東京都下や神奈川県、埼玉県、千葉県の70㎡を超える大型ファミリー向けの家賃上昇が見られます。その他、ファミリー、カップルも安定的に推移しています。
その他の三大都市圏で見ると東京23区は横ばい、名古屋市も横ばい、大阪市はやや上昇の傾向が見られます。
また、アットホームの「地場の不動産仲介業における景況感調査(2021年7~9月期)」によると、10~12月見通しについては、首都圏、近畿圏共に上昇が見込まれています。
家賃相場については、賃貸市場の繁忙期(1月〜3月)と10月時点のものを取り上げました。
「コロナ禍で2回目の春。家賃相場はどう動いたか?」
「最新家賃相場動向! コロナ禍でも家賃相場は安定」
前述の家賃相場でも触れましたが、郊外エリアのファミリー向けの家賃上昇に見られるように、首都圏の郊外人気は依然続いています。これは人口移動にも表れていて、2020年度の東京都の転入超過は大きく減少し、神奈川県、埼玉県、千葉県よりも少ない結果となりました。
様々な住みたい街ランキングでも、郊外の街が上位にランクインしています。コロナ禍での新しいライフスタイルが、定着しつつあります。
コロナ禍での郊外人気で賃貸住宅経営の適正エリアが広がり、郊外でも土地活用による賃貸住宅経営が十分可能になったことが伺えます。
バックナンバーでも郊外人気について取り上げています。
「住みたい街ランキングの比較で見る郊外の人気エリア」
コロナ禍の影響は、住むエリアだけではなく、設備についても変化がありました。特にニーズが高まったのが、従来の「インターネット無料(Wi-Fi)」に加えて、「高速インターネット」です。オンライン会議といった仕事利用だけではなく、映像配信サービスやオンラインゲームを楽しむためにも、インターネットの速度が安定していなければなりません。
この他、ネットショッピングや食事宅配が増えたこともあり、来訪対応のための「テレビモニター付きインターホン」「宅配ボックス」もニーズが高まりました。
バックナンバーでも設備ニーズについて取り上げています。
「繁忙期に備えたい、コロナ禍での設備投資」
「コロナ禍での人気設備ランキングに変化!」
地価については、商業地と住宅地で傾向が分かれました。三大都市圏の商業地は、下落傾向が続くものの、住宅地については回復傾向が見て取れます。
直近の7月1日時点の基準地価を見ると、三大都市圏の住宅地は、大阪圏を除き東京圏、名古屋圏はプラスに転じています。
徐々に経済の回復が見込まれる中、住宅ニーズは旺盛で地価を押し上げています。郊外人気は地価にも表れていて、東京圏の住宅地変動率上位10地点のうち、6地点が千葉県、4地点が神奈川県です。上昇率1位は、市川駅から徒歩10分ほどの住宅地で5.3%上昇です。東京駅まで約20分、テレワークにも通勤にもほどよい距離が人気のようです。
地価動向については、公示地価、路線価、基準地価について取り上げました。
「2021年「公示地価」コロナ禍で6年ぶり下落」
「2021年「路線価」、6年ぶりに下落」
「2021年「基準地価」、2年連続下落も下げ止まり!?」
ファミリー向けの家賃が上昇していると、冒頭に触れましたが、その理由の一つが分譲マンション価格の上昇です。特に東京23区では、2021年10月の平均価格は8,455万円で前年同月比11.8%の上昇です(不動産経済研究所調べ)。
理由は、地価がコロナ禍でいったん下がったとはいえ、この数年で見れば上昇していること、建築費が高騰していること、低金利、そして都心は富裕層のニーズが高いことです。都心部のいわゆる億ションに引っ張られ、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の平均価格(6,750万円)も高止まりしています。
合わせて中古マンション価格も値上がりが続いています。首都圏の2021年10月の広さ70㎡の価格は4,360万円と6カ月連続して上昇、近畿圏2,685万円で12カ月連続の上昇です(東京カンテイ調べ)。
住まいは賃貸にしろ、持ち家にしろ、生活の基本です。コロナ禍での不況の影響は限定的なようです。
賃貸住宅管理業は、かつて入居者斡旋業者のサービスとして行われていました。しかし、管理内容が専門化する中で、ビジネスとして確立し、今では所有と管理を分離する一括借上げ、サブリースが賃貸経営の主流となりました。賃貸住宅管理業は、法制度に基づいたビジネスとして、新たな一歩を踏み出すことになります。
主な内容は、「サブリース業者への規制」、「オーナーへの重要事項説明」、「管理業者の登録」、「賃貸不動産経営管理士等の専門家の設置」などが義務化されたことです。
賃貸管理適正化法については、バックナンバーでも解説しています。
「賃貸住宅経営は「所有と経営の分離」へ」
上記の『賃貸住宅管理業適正化法』の中で、「賃貸不動産経営管理士等の専門家の設置」が義務付けられていましたが、その賃貸不動産経営管理士が「賃貸住宅における、賃貸住宅管理業の実務経験や専門知識を有する専門家」として、国家資格の認定資格となりました。
今や賃貸管理は、プロに任せる時代です。入居者の募集から、入居者管理、建物管理まで、賃貸住宅の様々なトラブルを未然に防ぐリスク管理の上でも、大切なことです。言い換えれば、賃貸住宅経営は未経験でも、その後の管理はプロに任せておけば安心して運営できるということです。
世界気象機関(WMO)は2021年10月25日、2020年の温室効果ガスである二酸化炭素やメタンなどの大気中濃度が413.2ppmとなり、過去最高を更新したと発表しました。地球温暖化対策は地球規模で取り組まなければならない喫緊の課題です。
日本でも「2050年までに脱炭素社会の実現を目指す」との目標が掲げられ、法制度を含めた議論が行われています。
住宅業界でも脱炭素化に関する議論が進み、今後は住宅の省エネ化の動きが、より本格化していくことが予想されます。具体的には、高断熱・省エネ・創エネによって、1年間で消費する住宅のエネルギー量が正味(ネット)でおおむねゼロ以下となる住宅、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、またそのZEH基準を満たした集合住宅ZEH-M(ゼッチ・マンション)の普及に向けての動きが加速しそうです。
ZEH-Mについては、バックナンバーでも解説しています。
「注目の環境共生賃貸住宅"ZEH-M"とは?」
「賃貸住宅を社会貢献の視点で考える」
「環境貢献と防災力強化を実現する賃貸住宅とは?」
相続の際に土地の名義を変更する「相続登記」申請を義務化する法案が、2021年4月に成立し、2024年をめどに施行されることになりました。
主な内容は、「相続登記の申請は3年以内、違反すると10万円以下の過料」「相続人申告登記(仮称)の創設(遺産分割協議が3年以内にまとまらない場合の仮申請)」「住所・氏名・名称変更登記も2年以内、違反すると5万円以下の過料」などです。
かねて問題になっていた「所有者不明土地」問題。土地所有者が分からなければ、地震や豪雨からの災害対策工事が必要な場合でも話が進められないなど、様々な問題を抱えていました。土地白書によると、その面積は2016年時点で約410万ha、九州本土を上回る面積です。この法案で、今後は所有者不明土地問題が改善されることが望まれます。
これまで、事故物件についての告知範囲や期間に関する明確なルールはなく、取引現場の判断に任せられていました。そこで国土交通省は、2021年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました。今回のガイドラインでは、特に「告知しなくてもよい範囲」が示され、今後の適正な取引の推進が期待されています。特に賃貸住宅では、高齢者向け賃貸住宅への受け入れが促進されると期待されています。
■告知義務なしの範囲
・老衰や持病による病死といった自然死
・自宅の階段から転落、入浴中の溺死や転倒事故、食事中の誤嚥など日常生活で生じた不慮の事故
(ただし、自然死や不慮の死でも、死後の発見が遅れ、特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合はおおむね3年間、告知義務が発生する)
・隣接住戸や通常使用しない集合住宅の共用部での死亡(自殺や他殺も含む)