土地・建物の評価
相続財産は原則「時価」で評価されます。しかし、土地に関しては、その利用状況によって評価が異なります。
例えば何も利用されていない遊休地よりも、自宅やアパートを建てた土地の方が評価は下がります。
つまり、土地を有効に活用することによって、相続財産の評価額が圧縮され、相続税対策に大きな効果をもたらすことになるのです。
では、土地・建物の評価方法について見ていきましょう。
まず、土地の評価方法には「路線価方式」と「倍率方式」の2つの方法があります。
「路線価方式」は、その土地が面している道路(路線)に対して決められている1㎡あたりの価額(=路線価)を基準として土地の評価額を決定します。
路線価は相続財産の評価額を算出する場合の基準となっており、国税庁が毎年1月1日時点の評価を7月に発表します。土地評価は、その土地が道路に面している状況や形状などによって加減されます。
基本となる計算式は次のとおりです。
土地評価額 =路線価 ×道路に面している状況や形状による加減(補正値) ×土地面積
例えば土地に極端な奥行きがあるとか、角地などの場合では、補正値(奥行価格補正率、側方路線影響加算率など)で加減され、同じ道路に面した同じ面積の土地であっても評価額が変わります。
(詳しくは国税庁のホームページで閲覧することができます。)
なお、「路線価」は国土交通省が発表する「公示価格」のおおむね80%になるように設定されています。
次に「倍率方式」は、市役所等で算定している固定資産税評価額に各地域ごとに定められている倍率を乗じてその土地の価額を決定します。計算式は次のとおりです。
土地評価額 =固定資産税評価額 ×倍率
路線価はおおむね市街地の道路に定められていますが、農村部などでは路線価が定められていません。そのような地域では「倍率方式」によって土地を評価します。
また、自宅や別荘などの建物は固定資産税評価額と同じ価額となります。
建物評価額 =固定資産税評価額
貸家建付地・貸家の評価
土地にアパートを建てた場合、その土地は「貸家建付地」評価となります。アパートには入居者が住んでいますので、その入居者の間接的な利用の権利分を差し引いて評価されるのです。
具体的には、借地権割合と借家権割合(30%)を乗じた割合が差し引かれます。
貸家建付地の評価額 =自用地の評価額 ×
(1-借地権割合 ×借家権割合 )
借地権割合は、路線価図で定められている地域ごとの数字で、借地の評価を計算する際にも使います。借家権割合は、全国共通で30%となっています。
アパートの建物は貸家として、借家権割合(30%)が差し引かれます。
貸家の評価額 =固定資産税評価額 × ( 1-借家権割合 )
アパート建築による節税効果
では、遊休地にアパートを建てた場合の節税効果をシミュレーションしてみます。
<アパートを建てる前の資産>
自用地(更地)1億円+現金 1億円
=2億円
[例]自用地評価額 1億円、借地権割合70%、
借家権割合30%の土地に、
1億円でアパートを建設
■アパートを借り入れ1億円で建てた場合
●土地:貸家建付地として土地の評価額は7,900万円に評価減!
貸家建付地の評価額=1億円×(1-70%×30%)=7,900万円
●建物:アパートの評価額は4,200万円に!
固定資産税評価額=1億円×60%=6,000万円
アパートの評価額=6,000万円×(1-30%)
=4,200万円
●建築費:1億円(全額ローン)
建築後の資産=
7,900万円 (土地)+ 4,200万円 (建物)- 1億円(当初の借入元本)+ 1億円(現金は元のまま)
=1億2,100万円
自用地(更地)のときと比べて、資産の評価額が7,900万円も下がっています。
※ただし借入金の元本は返済が進めば減り、負債控除の効果も減ります。また借入金の負債も相続人に引き継ぐからには、返済が確実に進められるような賃貸事業でなければなりません。
また、現金1億円でアパートを建築した場合も、同じ効果を得ることができます。先ほどと同じ土地でシミュレーションしてみましょう。
■アパートを現金1億円で建てた場合
建築後の資産=
7,900万円(土地) + 4,200万円 (建物) + 0円(現金を建築に使ったため)
=1億2,100万円
ローンを利用した場合と同じく、評価額が7,900万円下がります。
「相続対策=ローン」と思われている方も多いのですが、対策効果は実は変わりません。
ご年齢やご資産の状況に応じて、資金内容を検討するのが良いでしょう。
小規模宅地等の評価減の特例の注意点
小規模宅地等の特例とは、事業継承・居住の確保の観点から設けられた特例です。小規模宅地等の特例についてはこちらで解説しています。
具体的には、自宅を相続した場合は330㎡まで、その宅地の評価を80%減額するというものです。
1億円の土地ならば、8,000万円も評価が減額され評価額は2,000万円になるということです。
また、事業用の土地の場合は400㎡まで80%減額。アパートなど不動産貸付用の土地は200㎡まで50%減額されます。
ただし、以下の要件がありますので、注意してください。
(1)相続した実家に住む同居親族がいなければ、減額適用はなし
この特例は、一般的には自宅に対して活用するケースが多かったのですが、相続人が居住を継続しなければ減額の適用は一切ありません。
例えば母親一人が実家に住み、子どもは独立して持ち家を持っている場合です。
昨今では核家族化が進んでいますので、よくみられるケースですが、このようなケースで相続が発生した場合には、同居親族がいないことになり、この特例は適用できません。
ただし、独立した子どもが自宅を相続した場合でも、以下の場合を除いては適用となります。
①相続開始前3年以内に、次のものが所有する家屋に住んでいたことがある場合
・自己または自己の配偶者、3親等内の親族、特別の関係のある法人
②相続開始時に住んでいた家屋を過去に所有していたことがある場合
(2)共有相続しても一緒に住まなければ減額適用はなし
共有相続した場合は、実際に同居している親族しか特例の適用はありません。
(3)二世帯住宅の場合は?
居住スペースがつながっていない二世帯住宅の場合は、同居親族としては認められませんでした。しかし平成25(2013)年度税制改正により、2014年1月1日以降の相続については、認められることになりました。
(4)自宅併用アパートは土地の自宅部分に該当する部分のみ適用
自宅併用アパートの場合は、建物の自宅部分と賃貸部分の面積比で敷地を按分し、自宅部分のみが80%減額、残りは適用する部分のみ不動産貸付地として50%減額となります。
例えば敷地面積240㎡の4階建て1〜3階を賃貸、4階を自宅とした場合、居住用80%減額の適用となるのは敷地面積の4分の1までです。残りの部分は、 不動産貸付地として50%減額となります。
さらに、この場合の不動産貸付地に関しては、上限面積の調整が行われます。居住用地が上限240㎡の4分の1を適用したことになりますので、残りの適用分は4分の3です。その4分の3を不動産貸付地の上限200㎡に適用し、150㎡までが50%減額となります。
また、不動産貸付地に関しては、事業的規模で賃貸経営をしていた場合を除き、2018年4月1日以後に経営を開始した土地で、経営開始3年以内に相続が発生した場合は、特例は適用できません。
■自宅併用アパートの場合の計算
建物の自宅と賃貸の面積比で敷地を按分し、それぞれに適用させる。
自宅の敷地・・・・240㎡×4分の1=60㎡→80%減額
不動産貸付地の敷地・・・・240㎡-60㎡= 180㎡
50%減額できるのは
200㎡×4分の3=150㎡→50%減額
残り 240㎡-(60㎡+150㎡)=30㎡→適用なし
60㎡(自宅の敷地):80%減額
150㎡(不動産貸付地の敷地):50%減額
30㎡:減額の適用なし
■最も有利な条件を適用させる
この特例は、自宅併用アパートのように用途の異なる小規模宅地が混在していたり、複数の土地を持っていたりする場合は、どの土地に特例を適用させるかを上限面積の範囲内で自由に選択することができます。
相続税の負担を減らすことが最大の目的の場合、活用のポイントは、最も有利になるように適用地を選択するということです。
例えば、自宅が適用されないのなら、他の不動産貸付地で適用するとか、事業用地が2つある場合は、評価額の高い方に適用するのが有利です。一方が限度面積に満たない場合は、上記で紹介したように、残りの限度面積分をもう一方に適用させることもできます。