患者さん体験談

夏目 亜季さん

辛いこと、出来ないことを
理解してもらえる環境を

20代
(診断時年齢 25歳)

アイドルとして活躍する夏目亜季さんが全身性エリテマトーデス(SLE)の確定診断を受けたのは25歳のとき。高校生の頃から難病を患い、たびたび襲いかかる病魔に心が折れることもありました。それでも、いつも応援してくれるファンに励まされ、いつしか病気を受け入れるようになりました。

初めての入院と上京
~全身性エリテマトーデス(SLE)の疑い~

とにかく歌が好きで、いつも気づくと歌を口ずさんでいるような子どもでした。幼いながらに、歌で人の心を動かすことができる歌手に憧れをもっていました。体はお世辞にも丈夫とは言えませんでした。高校に入学してからは頭痛や耳鳴り、ふらつき、動悸、息切れなどに悩まされ、鉄欠乏性貧血(体内の鉄分が不足することで発症する貧血)と診断されました。造血剤による治療を受けていましたが、体がとてもだるかったり、ものすごい疲労感があったりして、朝なかなか起きられない、体育の授業にも出られない日々が続きました。見た目は元気そうなので、周囲から「サボっている人」と思われているような気がして、つらかったことを覚えています。

高校3年生のある日、立ち上がれないくらいの耳鳴りと倦怠感に襲われました。夜になると高熱も出て、かかりつけの血液内科に駆け込みました。診察の結果、「脾臓が腫れている」と言われ、大きな病院を受診するよう指示されました。転院先で告げられた病名は「自己免疫性溶血性貧血(AIHA)」。体内の免疫機能が自分の赤血球を破壊してしまうことで貧血を引き起こす難病で、全身性エリテマトーデス(SLE)との関連が指摘されています。私の場合も「SLEが原因かもしれない」と疑われていました。このときの私はAIHAやSLEがどのような病気かもわからず、「少し入院すれば治るだろう」と、あまり深刻にとらえていませんでした。しかし、入院生活は1か月に及び、ステロイドによる治療はその後も已むことなく続きました。

夏目 亜季さん01

高校卒業後は、地元で歯科助手として働きはじめましたが、当時、人気が急上昇していたアイドルグループのAKB48に憧れを抱くようになりました。そして次第に、これまでのアイドルとは違う「劇場型アイドル」の存在が、私が歌手に向かって一歩踏み出すためのハードルを下げていきました。怠けていると誤解されてしまう自分に対するコンプレックスを克服したいという気持ちと、「人生は一度きり」「アイドルになって、歌で人の心を動かしたい」という思いが日に日に強まっていきました。

「20歳までに田舎を出なければ、たぶん私はずっと変われない」
両親からは病気を理由に引き止められましたが、「誰にも迷惑はかけないから」と反対を押し切って、ひとり東京に旅立ちました。いま振り返ると、病気のことを何も知らなかったからこそできた決断でした。

乗り越え方POINT
  • 自分に対するコンプレックスを克服したいという気持ち

夏目 亜季さん02

アイドル活動とAIHAの再燃
~SLEの確定診断~

アイドルを目指して上京して2年、22歳になった私は、ダンスボーカルユニットを組んでライブ活動をしたり、テレビドラマ「GTO完結編」(フジテレビ系)に出演したりと、着実に活動の幅を広げていました。相変わらずステロイドの服用は続いていましたが、深夜、クラブで歌うなどのハードなスケジュールもこなしていました。がむしゃらに夢を追いかけて、自分が病気であることさえ忘れかけていました。まさにそんなとき、AIHAが再燃しました。
「あれから何年も経っているのに、再発するんだ…」
再燃したことそれ自体のショックに加え、治療を強化した影響で体重がみるみる増加したことがダブルパンチで私を襲いました。アイドルとして活動を続けていけるのか不安になりました。そんな私を救ったのは、ファンの存在でした。「ありのままの自分を知ってもらいたい」と、公式ブログには闘病生活のことを包み隠さず投稿していましたが、ファンの方から数えきれないほどの励ましのメッセージをもらいました。

回復していくにつれステロイドの量も減っていきましたが、貧血だけは改善されませんでした。たとえ気になる症状があっても、「本当のことを言ったら怖い検査をされる」と思い込んでいたので、主治医にはなかなか相談することができずにいました。

1度目の再燃から3年後の25歳のときに再び症状が悪化。SLEと確定診断されました。23歳で子宮頸がんを発症し、つらい治療を克服した矢先の出来事でした。入院を余儀なくされ、アイドル活動も再び休止しなくてはなりませんでした。体中の関節がひどく痛み、はみがきチューブのキャップすら開けることができませんでした。寝るときは布団を掛けることも苦痛で、日常生活であたりまえの動作さえできなくなりました。倦怠感も強くて、まるで人間を一人おぶっているかのような体の重さでした。治療のため顔はまんまるく膨れ上がり、体重も一気に10kg以上増えて、心は完全に折れてしまいました。何をする気にもならず、髪を切りに美容院へ行く気力すらなく、ひたすら自宅にこもる日々が続きました。

乗り越え方POINT
  • ファンの存在が私を救ってくれた

夏目 亜季さん03

3つのマイルール
~SLEとつきあうために~

心身ともにボロボロだった私を支えてくれたのは、やはりファンの存在でした。人目を避けた生活をしていても、ブログやTwitterなどには近況を投稿し続けていました。私を受け入れてくれるファンの皆さんへは、どんな状態であっても嘘をつかないようにしていました。

症状が最悪期を脱すると、少しずつ気持ちを切り替えてSLEと向きあえるようになっていきました。その中で自分なりに決めたルールが3つあります。

1つめは、疲れたら無理をせず休むこと。調子が悪いときは寝ているしかありません。特に私はライブでくたくたに疲れた後や、スケジュールが立て込んでストレスが溜まっているとき、雨で湿度が高い日などは体がいうことをききません。そんなときは無理して起き上がらずに、1日中ベッドの上で過ごして、とにかく体を休めてやりすごすようにしています。

2つめは、つらいことやできないことを隠さないこと。残念ですが、SLEはあまり世の中に認知されていません。私は見た目も健康そうに見えるので、つらいことやできないことを黙っていても誰にも気づいてもらえません。こちらから積極的に「つらいアピール」「できないアピール」をしないと、自分も大変ですし、いつか誰かに迷惑をかけてしまいます。だから、たとえばダンスの練習中に関節が痛いときは、「手を真っすぐに伸ばせないけど大丈夫かな?」と自ら申告するようにしています。
また、良いことも悪いことも日々ブログやTwitterに書き綴り、なるべくストレスを溜め込まないようにしています。病気もまた私の一部。難病を受け入れ、明るく生きていこうとしている私をみんなに理解してもらいたいと思っています。

3つめは、主治医には体調や症状について率直に話すことです。以前は検査されることが怖くて詳しく伝えていませんでしたが、今は、どんなに些細でも気になる症状があれば全て伝えるようにしています。再燃のサインが出ているのに見逃してしまうのは怖いですし、逆に、取るに足らない症状でも、不安なままだとストレスで体調が悪化するかもしれません。また、病気に関して悩みや不安があるときは、もちろん自分でも調べますが、主治医にも質問できるように、診察前にあらかじめ聞きたいことをまとめるようにしています。

乗り越え方POINT
  • 疲れたら無理をせず、とにかく休む

  • つらいことやできないことを隠さず、理解してもらえる状況を自ら作る

  • 主治医には体調や気になる症状は全て伝える

自分のペースで生きられる環境づくり
~SLEでも心地よくいられるように~

私は子宮頸がんも経験していますが、「一生つきあっていかなければならない」、「いつ再燃するかわからない」という意味では、SLEの方が大変な病気かもしれないと思うことがあります。だからこそ、自分のペースで生きられる環境作りが不可欠だと考えて、2017年にセルフプロデュースチーム「プロジェクトnap」を結成しました。それ以前は、お仕事を「いただく」立場で、ついつい無理をして自分の限界を超えてしまうことがありました。短期的には良いかもしれませんが、病気が再燃しては元も子もありません。それなら、自分が働きやすい、つまり、好きな仕事を信頼できるスタッフと自分たちのペースで進めていける環境を自ら作ろうと思ったのです。病気を理解し受け入れてくれる人たちに囲まれていたほうが、気が楽です。プライベートも同じです。自然に接してくれる仲間、家族が身近にいれば、それだけで元気になれると思います。

今後もライブ活動を中心に、歌うことで自分の思いをみんなに届けていきたいです。誰かとコラボレーションしたり、大好きな銭湯でイベントをするのも良いかもしれない、などと夢を膨らませています。また、AIHAやSLE、子宮頸がんなど、まだまだ社会から認知されていない疾患の啓発講演も続けていきたいです。
アイドル活動を通じて一番大切にしているメッセージは、「負けない」です。何事も結局は自分次第。つらくても自分に負けない気持ちを持つことが、結局自分を助けてくれると信じています。これからも、いつでも前を向いている自分でありたいです。

乗り越え方POINT
  • 自分のペースで、好きな仕事を進めていける環境を作る

  • つらくても自分に負けない気持ちを持つ

取材日:2018年6月現在

※すべてのSLE患者さんが同様の経過をたどるわけではありません。ご自身の症状で気になることや治療に関することは、お近くの医療機関または、かかりつけ医にご相談ください。