患者さん体験談

岡村 咲さん

できないことではなく、
できることを数えるように

20代
(診断時年齢 25歳)

中学生の頃からゴルフ界で脚光を浴びてきた岡村咲さん。プロゴルファーを目指していた17歳のとき、感染症をきっかけに体の変調を来します。病名も治療法もわからず、病院を転々とする日々。精神的にもどん底を味わいますが、確定診断をきっかけに再び時間が動き出します。

プロゴルファーの夢と体調不良 ~全身性エリテマトーデス(SLE)の前兆?~

岡村 咲さん01

小さい頃、スポーツはあまり好きではありませんでしたが、両親の影響で10歳からゴルフを習い始めました。14歳の時に日本ジュニアゴルフ協会主催の全国大会で優勝、世界大会へも出場し、団体優勝を果たしました。その後も全国大会では3度の優勝を経験し、プロゴルファーとしての将来を疑いもしていませんでした。

17歳までは風邪もひいたことがなく自分の健康に自信をもっていましたが、同級生からうつされた百日咳(特有のけいれん性の咳発作を特徴とする急性気道感染症)をきっかけに、以来、繰り返し体調を崩すようになりました。看護科の友人が食事のアドバイスをしてくれたりしたのですが、調子はよくなりませんでした。
翌年も喘息のような咳が続きました。会話さえままならず、筆談やメールでのコミュニケーションが多くなりました。体の節々が痛み、髪の毛もごっそり抜けました。食も細くなって10kg以上痩せましたが、顔だけは何故かパンパンに腫れ上がり、鏡に映る自分の姿に違和感を覚えました。
学校は休みがちになり、ゴルフの練習もほとんど出来ませんでした。それでも、既に申し込んでいたプロテストへは体を引きずるように参加して、どうにかプロゴルファーへの転向を果たしました。

念願のプロ転向も、手放しでは喜べませんでした。プロで戦うには、明らかに練習不足・調整不足でした。上位ツアーは試合数も多く、一度コースに出れば連日10kmは歩かなければなりません。遠征ではホテルを転々として外食ばかり。成績を残さなければ収入は得られませんが、試合の参加費や遠征費などは選手の負担としてのしかかります。体力的にも精神的にも経済的にもタフさが必要で、今の自分の状態で「体力はもつのだろうか」「生活は成り立つのだろうか」と不安は募るばかりでした。

岡村 咲さん02

体がつらいのは
自分の努力が足りないから
~原因は食物アレルギー?~

それから1年間、体調は悪化する一方でした。どうにか30試合ほどのスケジュールはこなしたものの、いつも倦怠感がひどく立っているのもやっとです。クラブを握る手もパンパンに浮腫んでグリップできないほどでした。当然、成績は伸びません。腰も膝もだるくて、10分の移動時間すら横になっていたいという状態でした。ただ、症状が突然引いてスキップできるくらいに回復する時間帯もあり、自分の身体の中で何が起きているのかととても不思議でした。

オフにはあちこちの病院を受診しましたが、診察となると嘘のように症状が消えたりして、どこにも悪いところは見つかりませんでした。周囲からは詐病のように扱われ、自分でも病気とは思えず、ただただ自分を責める毎日でした。
「思うように体が動かないのも、以前のように練習できないのも、私の努力が足りないから」「他の人達も体がつらいのを我慢して練習している」一方で、病院回りは続けていました。そして、あるとき食物アレルギーの診断を受けました。アレルゲンは小麦や卵、乳製品など多岐にわたっていました。
毎日食べていたパンやうどんにアレルギーがあるなんて信じられませんでしたが、実際にこれらの食材を避けると、以前と比べて体調が良い気がしました。

そこから、「完全除去食をめざそう」とキッチン付きのキャンピングカーに乗り、自炊しながらツアーを回り始めました。すると血便やむくみ、熱っぽさはぴたりと止まりました。しかし、今度はどの食べ物にもアレルゲンが含まれている気がして、疑心暗鬼からひどい拒食症に陥りました。涙を流しながらおにぎりを1時間見つめ、結局食べられないこともありました。みるみる痩せ細り、気力も体力も萎え、ゴルフのスコアもどんどん悪化していきました。

岡村 咲さん03

言葉を失うほどの不安
~SLE疑い~

SLEの疑いが浮上したのは22歳の頃でした。ツアー先で関節の痛みに耐えられず、宿泊先の近くにあったリウマチクリニックに飛び込んだところ、抗核抗体が陽性になっていると告げられました。栄養失調の点滴を受けながら、「次にかかる病院で必ず伝えてください」と念を押されましたが、当時、私にはその意味が分かりませんでした。しばらくは騙し騙しゴルフを続けましたが、いよいよツアーへの帯同も難しくなり、1年間の休養をとることにしました。
その夏の初め、半袖のポロシャツにハーフパンツで練習していたところ、肌の露出部全体に蕁麻疹が出ました。さらに発熱と頭痛、むくみで1週間起き上がることができなくなりました。皮膚科を受診すると、日光アレルギーと指摘されました。
食物アレルギーに日光アレルギー、関節痛もあり、満身創痍なのに病名も治療法もわかりません。大好きなゴルフもできません。完全にお手上げ状態でした。『抗核抗体』のことを思い出したのはその頃です。皮膚科で話すと、膠原病科へ行くようにいわれました。

それから膠原病科をずいぶん回りましたが、SLEは疑われるものの確定診断には至りませんでした。少しでも楽になりたくて受診しているのに、「問題ありませんよ」「まだSLEではありません」と簡単に片付けられ、腹が立って通院しない時期もありました。誰かと会うのも嫌になり、自宅で泣いてばかりいました。もともと人と会うのが好きで、おしゃべりも大好きなのに、言葉が口から出てこなくなりました。精神的にまさにどん底でした。

そんな私にとって唯一救いだったのは、当時、籍を入れたばかりの夫の存在でした。ラグビー選手の彼とは、24歳で結婚。新婚生活といっても、ビーチに行くこともできなければ、おしゃれなレストランに行くこともできませんでしたが、いつも寄り添い励ましてくれました。結婚当初、食事は別々に作って違うものを食べていましたが、「僕も同じものを食べるよ」と言ってくれて、それからはふたりで食卓を囲むようになりました。一緒に食べる人がいると、味気ないアレルゲン除去食もおいしく感じられました。彼といることで、少しずつ前向きに考えられるようになっていきました。
「今はジャンプする前のしゃがんでいる状態なのだ、希望はある」

乗り越え方POINT
  • 大切な人のおかげで、前向きに考えられるように

治らないけど、歩き出せる希望 ~確定診断~

休養から2年、ようやくSLEの確定診断が下りました。SNSで知り合った患者さんが病院を紹介してくれて、「もう引きこもりたくない」と思い切って受診した結果でした。

心境は複雑でした。「難病で治らない」と宣告されたショックと、「ようやく原因がわかった」「よし、これからだ」という希望が入り混じっていました。ただ、主治医に聞いたり自分でもSLEのことを調べると病識も深まって、また、実際に知り合いの患者さんに会ってみると本当に元気いっぱいだったりして、次第に「そんなに怖がらなくても大丈夫かな」と思えるようになりました。

何の病気かわからず途方に暮れていた頃と違い、診断されてからは、むしろいろいろな夢や希望を持てるようになりました。「やりたいことがあれば、全部リストにして持ってきてね。そのかわり、約束事項もいっぱい作るから」という主治医に「ディズニーランドに行きたい」「海外旅行に行きたい」とオーダーできるようになりました。最近は、夫とも「あのレストランの料理なら食べられそうだから、今度行きたいね」「将来は海外に移住したいね」などと、あれこれ計画を話し合えるようになりました。
最大の心配事だったゴルフのことも、「すぐに復帰できなくても、プレイヤーとしてクラブを振り続けたい」と相談すると、いろいろと調べてくれて、日射しを避けて遅い時間からスタートする薄暮プレーなどを提案してくれました。
「できないことではなく、できることを数えよう。食べられないものがあると嘆くのではなく、食べられるものの美味しさを味わおう」

SLEという状態を冷静に受け止められるようになって、体調管理も徹底できるようになりました。以前は、症状が落ち着くと調子に乗ってノースリーブ、ハーフパンツで外出していましたが、今は、「自分は日光アレルギーが人より強くでやすい」と理解しているので、しっかり日焼け止めを塗って、サングラスとマスクで顔を覆い、肌の露出を極限まで避けるようにしています。装いとしては目立つので、無遠慮にジロジロ見られたり心ない言葉を浴びせられたりしますが、自分の体を守るために妥協はしません。何かリスクになりそうなことを判断する場合は「はたして代償を払ってまでするべきことか」と自問するようにもしています。

SLEは生命にかかわることもある重大な病気だと思いますが、バリバリ仕事をされている方がいれば、出産や子育てに奮闘されている方もいて、何よりいきいきと生活されている患者さんが多くいらっしゃいます。私自身も、「家族をもつこと」「再びゴルフツアーに参戦すること」「海外に移住すること」、どの未来もあきらめていません。無理はしないけど、希望も捨てない。ひとつひとつ自分で納得しながら、一日一日と向き合っていこうと思っています。

乗り越え方POINT
  • 診断されてから、むしろ夢や希望を持てるように

  • できないことではなく、できることにフォーカス

  • 無理はしないけど、希望も捨てない

取材日:2018年7月現在

※すべてのSLE患者さんが同様の経過をたどるわけではありません。ご自身の症状で気になることや治療に関することは、お近くの医療機関または、かかりつけ医にご相談ください。