全身性エリテマトーデスの治療 薬物療法

全身性エリテマトーデス(SLE)の治療の基本は薬物療法です。薬物療法には、内服薬のほかに、注射・点滴薬や、症状のある皮膚の部分に対して用いる塗り薬などの外用薬があり、病気の勢い(疾患活動性)、症状や臓器障害などをふまえて選択します。

ここでは、SLEに対する主な治療薬の働きと使い方などの特徴をご紹介します。

非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)(エヌセイズ)

NSAIDsは、解熱、鎮痛、抗炎症作用を持つ治療薬です。炎症を抑える力は弱いですが、痛みを素早く和らげることができるため、主に鎮痛を目的に使用されます。

疾患活動性が低く軽症のSLE、とくに症状が発熱、関節痛などに限られている場合には、NSAIDsの内服薬が用いられます。発熱などの全身症状が弱く、関節痛や関節炎などの局所の症状が強い場合は、貼り薬や塗り薬などNSAIDsの外用薬を用いることもあります。

NSAIDsのよくみられる副作用として、消化管潰瘍などの胃腸障害があげられます。必要に応じて消化管を保護する薬剤も併せて処方されます。

ステロイド

ステロイドは、グルココルチコイドや副腎皮質ホルモン剤とも呼ばれ、もともと体内の副腎という臓器から分泌されているホルモン(副腎皮質ホルモン)の働きに似せて合成された治療薬です。体内の副腎皮質ホルモンと同様に、炎症や免疫反応を強力に抑える働きを持っています。軽症から重症まで幅広く用いられ、SLE治療の中心となる薬剤です。

軽症のSLEでは、NSAIDsが効かなかった場合に、ステロイド外用薬や少量の内服薬から始めることがあります。
中等症や重症のSLEでは、ステロイドは高用量(1日あたり体重1kgに対して0.5~1mg※1の飲み薬)から開始して、症状や臓器障害をできるだけ早く改善することを目指します。症状や臓器障害が落ち着き、検査の結果で疾患活動性が抑えられていることが確認されれば、ステロイドを少しずつ減量していきます。
とくに重症のループス腎炎や精神・神経症状などを伴う一部のSLEでは、最初に短期間(3日間)で大量のステロイドを点滴投与(ステロイドパルス療法)することもあります。

ステロイドによる治療では、様々な副作用がみられますが、比較的よくみられるのは体重増加・ムーンフェイス(顔が丸くふくれる)、感染症、糖尿病、骨粗鬆症、高血圧、脂質異常症、不安・抑うつ・不眠といった精神症状などです。まれに白内障や緑内障を引き起こすこともあります。ステロイドの服用が長期間に及ぶ場合、副作用を予防したり軽減する薬剤を併用することがあります。

ステロイドは、症状や臓器障害が改善すれば徐々に減量します。

しかし、ステロイドを急にやめると、症状や臓器障害が悪化(再燃)して、再び使用量を増やして治療をやり直すことになるかもしれません。また、ステロイドの服用中は体内の副腎皮質ホルモンがほとんど分泌されない状態になっているため、ステロイドを急にやめることで体内の副腎皮質ホルモンが不足し、めまいや吐き気、ショック状態などが起こることもあります(ステロイド離脱症状)。

ステロイドの減量は、個々の患者さんの状態を確認しながら医師が慎重に行う必要があります。病状が良くなったと感じても、自己判断でステロイドをやめたり減らしたりすることは絶対にやめましょう。

*1 プレドニゾロン換算量

免疫抑制薬

免疫抑制薬は、免疫に関係する細胞の働きを抑えることによってSLEの進行を抑えます。ただし、炎症を抑える働きは強くないため、基本的にはステロイドと併用します。

重い臓器障害などで治療を強化したいが、副作用の心配からステロイドを増量できない場合などに、免疫抑制薬を追加することで治療を強化することがあります。また、ステロイドを減量したいにもかかわらず、なかなか疾患活動性が落ち着かず減量できない場合などに、免疫抑制薬を追加することによってステロイドの減量を進めることもあります。

免疫抑制薬は正常な細胞の働きも抑えてしまいます。それが血液細胞に及んだ場合は、副作用として貧血などの骨髄抑制や感染症を引き起こすことがあります。

免疫調整薬(抗マラリア薬)

免疫調整薬は、マラリアの予防と治療を目的に開発された経緯から、抗マラリア薬とも称されます。開発からほどなく、炎症を抑え、免疫を調節する働きを持っていることが明らかになり、SLEなどの様々な病気の治療薬として広く用いられてきました。欧米では50年以上前から使用され、今ではSLEと皮膚エリテマトーデス(CLE)の標準的な治療薬と位置づけられています。

免疫調整薬は、SLEに対しては主に皮膚症状や倦怠感などの全身症状や筋肉痛や関節痛などの筋骨格系の症状などがある場合に用いられます。CLEに対しては、ステロイドの外用薬で十分な効果が得られない場合に使います。

長期に服用することで、まれに網膜症が現れることがあるため、眼科医による定期的な検査が必要です。

免疫調整薬は、正常な免疫機能にはほとんど影響せず、異常な免疫機能を正常な状態へと調整する働きを持つ薬剤です。一方、免疫抑制薬は、正常な免疫も含めて免疫機能を強力に抑える薬剤であるという点で異なります。

生物学的製剤

生物学的製剤は、もともと生物の体内にあるタンパク質の作用を利用して、特定の物質や細胞の働きを阻害する治療薬です。タンパク質を含む薬剤のため、点滴や注射によって投与します。

SLEでは免疫細胞が過剰に活性化して自己抗体をつくるため症状・臓器障害が現れると考えられています。SLEに対する生物学的製剤は、抗体を作る免疫細胞(B細胞)の活性化を阻害することで治療効果を発揮します。主に、ステロイドや免疫抑制薬による治療で効果が不十分だった場合に用いられます。

免疫の機能を強力に抑えるため、副作用として感染症が起こりやすくなります。