注文住宅の
お役立ち情報まとめ
人口の減少が進む中、75歳以上の高齢者の数は増加しています。国立社会保障・人口問題研究所の人口推計データによれば、75~79歳の人口は5年間で136万人増加する予測となっています。これは団塊の世代(1947-49年生)がこの年代に突入する影響です。当社の二世帯住宅においても、親世帯75歳以上、子世帯50歳以上の組合せの二世帯住宅の比率が増しています。
2020年は総務省統計局『令和2年国勢調査 参考表:不詳補完結果』1-2表による
2025年は国立社会保障・人口問題研究所「2023年人口推計」第1-9A表による
前回の記事でご紹介した子世帯が50代以上の同居の理由のTOP3は「親世代の老後を考えて」「親の老齢化・病弱化」「親世代だけでは何かと心配」といった高齢者関連の理由で占められていました。この世代の同居は、高齢の親との同居がテーマとなります。当然ながら、親世帯が60代、子世帯が30代といったこれまで多かった二世帯住宅とは家づくりのポイントが変わってきます。では、どういう家づくりをすればいいのか、考えていきましょう。
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最初に行き当たるのはこの疑問ではないでしょうか。親世帯の家が建った年代別にその年代の家が一般的に抱えている問題を整理してみましょう。それは言い換えれば「建替えると良くなること」でもあります。
1)耐震性
2)断熱性
3)バリアフリー仕様
の順でお話ししていきます。
1)耐震性
まず1980年以前に建ったお宅の場合、耐震性の不足が考えられます。日本の耐震基準は過去何回か強化されており、そのたびに基準が引き上げられています。1980年以前の基準は「旧耐震」と呼ばれ、1995年の阪神大震災ではこの旧耐震世代の建物の倒壊率が高かったことがわかっています。2000年には阪神大震災の被害を反映して壁の配置偏り防止や接合部分の金物等が強化されましたが、壁の量は1981年の「新耐震」基準で充分であったとして据え置かれました。木造住宅の筋交い(2つ割:揺れに抵抗して斜めに突っ張る木材が概ね45×90㎜の断面のもの)の必要な量を年代別に比較してみると1959年までは現在の0.28倍、1980年までは現在の0.48倍の壁の量しか必要としない基準となっていました。つまり、当時の基準が守られていても現在の耐震基準の半分以下の耐震性しかないことになります。この世代の建物は耐震補強をしたり、建て替えによって耐震性を向上させることが安全上望まれます。
2)断熱性
より新しいお宅の場合でも断熱性は劣っていることが多いです。省エネルギー基準が最初にできたのは1980年でそれ以前は断熱材が入っていない住宅も多数あります。以降1992年、1999年と基準が改正され、その後ZEH(ゼロエネルギーハウス:太陽光発電等で生み出すエネルギ―よりも熱損失が少ない住宅)の断熱性の基準、更にはより高断熱の基準が提案され、2022年に住宅性能評価の断熱評価の等級は5~7が追加されました。省エネルギー基準は法的な義務ではなく推奨基準なので、これまでは実際に普及するには数年かかっていましたが、2025年からは新築では等級4以上とすることが義務化される方針です。
現実的レベルの高断熱住宅と言える等級6の基準値を1とすると、1992年の基準(等級3)では2.9倍、1980年の基準(等級2)では3.6倍の熱損失があります。1999年以前に建てた家はこのどちらか、あるいはもっと低い性能のものがほとんどです。1999年基準も普及までかなりの時間を要したため2000年以降に建った住宅でもこの基準を満たしていないものが珍しくはありません。健康に暮らせる家の要件として、上で述べた断熱性の高い暖かい家にする、数値目標としては18℃以下の部屋がないようにしてヒートショックをなくす、ということが大切です。
3)バリアフリー仕様
高齢期に向けたバリアフリーの仕様も、親世帯が家を建てた世代ではあまり考えられていません。バリアフリー、例えば浴室やトイレの建具が段差なし仕様が当たり前となったのは、2000年以降だと思います。バリアフリーを考えた家づくりについては、次の項で詳しく解説していきます。
親世帯の家が、1980~90年代の新耐震基準を満たした建築であっても、断熱性の不足から寒い家になっていたり、バリアフリーでない高齢期の安全性が劣る家であることが一般的だということです。親の家を含めて二世帯住宅に建て替えることができれば、こうした課題が一気に解決することになります。
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高齢になっていく親世帯は今度どのような身体状況になっていくのか、なかなか想定は難しいことです。一般論としては、男性と女性で身体が弱っていくパターンが異なり、男性が60代でも脳血管障害や癌などで急速に身体状況が悪化することが女性より多いのですが、1割くらいはずっと健康なまま体力を保つなど個人差が大きいです。これに対し、女性は関節障害等で次第に身体能力が下がっていくことが多いようです。
従来はこの身体状況の段階を健康か要介護か、という2つに分けていたのですが、近年はその中間にあるフレイル期が重要視されるようになってきました。
フレイル期と要介護期の違いは、端的に言えば身体状況が改善する可能性の有無です。フレイルは邦訳すれば「虚弱」ですが、生活改善やリハビリ次第では健康になっていくことができる状況を指します。この時期に大切なのが転倒を防ぐことで、安全に家の中を動き回れることが大切です。暖かい家は家の中の運動量が多いという研究結果がありますが、それが転倒事故につながらないように段差をなくしたり、手すりを設置したりといったバリアフリーの配慮が重要になります。
要介護期になると回復は望めず、衰えていく能力をサポートすることが主眼となります。要介護期の長さは様々ですが、平均寿命と健康寿命の差を平均的な介護期間と考えると、男性で8.7年、女性では12.1年に達しています。最も重度のケースとして介護用の車いすを想定しておくことが最期まで家で過ごせる大切な要件となります。また、室内を移動するスピードも極端に落ちてくるためトイレの近さがポイントになります。デイサービスなどに行く機会も出てくるので、車いすで外出できるようにあらかじめ検討しておくと良いでしょう。
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1)ワンフロア・フラットアクセス
2)バリアフリーの基本となる配慮
3)コンパクトにバリアフリーを実現する「4つのルート」
の3つのポイントが重要です。
1)ワンフロア・フラットアクセス
家づくりの際、まず最初に考えるべきことは、高齢化していく親世帯の住まいを「どの階にするか」ということです。その際、最も大切なのは「ワンフロア」で基本的な生活が完結できる、すなわち寝室とLDK、浴室などの水回りが同じ階にあること、次に外出時に階段を使わずに外出できる「フラットアクセス」であることです。
一般的な2階建ての住宅では1階がLDKと水回り、2階が寝室という階の構成となるのですが、これだと日常生活をする上で階段の昇降がどうしても必要となります。平屋にすればその問題は解消しますが、都市では敷地の有効利用を考えると難しい場合が多いでしょう。二世帯住宅の場合は、階で世帯を分けるのが基本です。一般的には親世帯を1階、子世帯を2階以上とすることで、親世帯をワンフロアで設計することが多いのですが、エレベーターを使えば、日照などの条件がよい2階、3階を親世帯とすることもできます。特に賃貸併用住宅の場合、オーナー宅となる親世帯は最上階に設計することが多くあります。
2)バリアフリーの基本となる配慮
バリアフリーの基本は①段差なし②通路巾確保③手すりの取り付けの3つの仕様です。
段差をなくすことの目的は、歩行時のつまづき防止と車いすでのスムーズな移動のためです。意識されにくい細かい段差はなくすことが必要です。逆にはっきりした段差で見落とされることがなければ、手すりなどを付けることで安全に乗り越えることが出来ます。
通路巾の確保は、車いすでの走行を可能とするためです。車いすは巾は意外に狭く、65㎝あれば十分に通過できますが、曲がる部分はより広い巾が必要になります。通るのにぎりぎりの寸法ではストレスが大きいので、頻度が高いところでは余裕を持たせることも大事です。
手すりは、立ち座りや段差の乗り越え時に、身体を支える役割があります。階段は近年の法律改正で手すりが必須となっていますが、トイレの立ち座り、浴槽へのまたぎ越しや浴槽からの立ち上がり、玄関の段差部分などは身体状況に関わらず手すりを付けておいた方がいい部分です。実際に手すりが必要な身体状況となった場合、どこにつけるのが良いかは状況によって異なります。施設の浴槽ではその都度自由に手すりの位置が動かせるような製品を使っていますが、住宅の場合は下地のみ準備しておき、必要な時に付けるのが現実的です。
3)コンパクトにバリアフリーを実現する「4つのルート」
バリアフリーの仕様を家中に付ける必要はありません。高齢期の生活がどのようになるのか、優先すべき動線は「4つのルート」に整理できます。まず、要介護期に使うベッドの位置を決めます。これはそれまでの寝室と同じである必要はなく、できれば夫妻別寝室とできるような部屋があると、24時間介護でヘルパーさんが夜間入ってくるような場合にもストレスが少ないです。次に介護用寝室から①トイレ②お出かけ③リビング④アウトドアの4つのスペースへ移動するためのルートを優先的に考えていきます。
①トイレルート:最も短くしたいのがトイレへのルートです。介護用寝室から直接入れて、ベッドから数歩で行けるのが理想です。
②お出かけルート:デイサービスや病院に行く機会は身体状況が悪くなると増えます。道路に迎えの車が来ることを想定して、そこまでどう移動するかをイメージします。室内から道路までは当然段差はあるので、それをどう乗り越えていくかがポイントとなります。社会とつながるための重要なルートです。
③リビングルート:社会と同様に、家族とのつながりが重要です。二世帯の場合は子世帯家族が親世帯に来ることもできるので、リビングに移動しやすければ家族との会話の機会も増えます。
④ガーデンルート:アウトドア空間は外の空気と触れる重要な刺激の場です。介護用寝室から直接出られるデッキなど、段差なく移動しやすい空間をアウトドアで作れるのが理想です。
この4つのルートが実現できていれば、高齢期に移動能力が落ちたとしても多くの場合に対応ができます。特に①トイレ②お出かけの2つが重要で、広さが限られていても、この2つが確保できているとコンパクトに優先度の高いバリアフリーの家を実現できます。
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1)開き戸より引き戸に
2)廊下を拡げるより建具巾を拡げる
3)スロープではなくワイドステップに
の3つのアイデアを紹介します。
1)開き戸より引き戸に
開き戸と引き戸では、高齢期の使い勝手に大きな差があります。開き戸は開け放しておくためにはストッパーを操作する必要がありますが、引戸は開けたい巾で開けたままにしておくことができます。断熱性の高い新しい住宅ではできるだけ建具は開放し、家の中の温度差を少なくした方がヒートショックがなく健康にはよいのです。また、開き戸は開く軌跡から身体をよける動作が必要ですが引戸にはそれがありません。身体が弱ってくると開く時に一歩下がる動作がストレスになってきますし、車いすの場合は自力で開けることが難しくなります。
図は車いすに乗った方が操作する場合のドアの軌跡との干渉を描きましたが、歩行器や杖の使用時も同じような干渉が起きます。また、介助者が車いすを押す場合は、あらかじめ介助者が建具を開けておくことで対応できますが、車いすの脇を通過できる巾が必要になります。
2)廊下を拡げるより建具巾を拡げる
車いすを想定した場合、廊下の幅が広いのに越したことはありません。しかし車椅子を利用して暮らすには家具と家具の間の通路の幅も確保したく、部屋の広さにも余裕が必要です。最小限の廊下の巾で車いすが曲がれるスペースをどうやったら確保できるでしょうか。
そのためには廊下を拡げるより建具巾を拡げるのが効果的です。廊下を拡げるにはその分の面積が余計に必要ですが、建具巾を拡げるだけなら床面積は同じです。通常の廊下巾で建具を取り付けると有効巾が75㎝程度になることが多いのですが、これを5㎝広げて80㎝とすることで、車いすを曲げるストレスは大きく低減されます。
この動画は通常の約80㎝の巾の廊下から、左側が一般的な建具巾を想定した有効74.5㎝、右側が巾を有効80㎝まで広げて車いすを介助者が押して曲がりながら通過する実験動画です。一般的な巾では車いすが曲がり切れずにずらしたりする動作が見られますが、巾広の方ではスムーズに通過できています。たった5㎝でも大きく使い勝手が変わるのが判るかと思います。
3)スロープではなくワイドステップに
2000年以降、室内のバリアフリー化は進んでいますが室内から道路までのバリアフリー配慮はあまり進んでいないことが課題です。水害の多い日本では敷地は道路よりできるだけ高くし、1階の床も高い方が好まれますので必然的に1階床と道路の間には段差ができます。この段差を乗り越えていくためには、一般的にはスロープを使うのですが、スロープはスペースをとる上に、デザイン上も玄関アプローチと別に設ける必要があります。スロープの勾配は最も急でも1/12、できれば1/15より緩くしたいところで、それぞれ30cm上るために360cm、450cmの距離が必要になります。そうなると実際の外構設計ではカーポートが狭くなり1台分減ってしまう、ということが起こります。
こうした課題を解決するのがワイドステップというアイデアです。10㎝ずつ高低差を上り下りする階段で、水平部分が車いすがのせられるように広くしてあるのがポイントです。車いすの車輪は自転車のタイヤとほぼ同じものなので、自転車が乗り越えられる段差なら介助者が押している車いすであれば乗り越えられる、という性質を利用しています。車いすの前を上げ、重さがかかっている後ろは自転車のように段差を超える、というそのやり方は動画をご覧ください。下りの場合はこの逆回しで後ろ向きに下りてくる形になります。これだと30cmを180cmの距離で登り切れてしまいます。
以上のように、高齢期に親と同居する二世帯住宅のポイントを解説してきました。親世帯の健康を考えた時、新しく高性能の家であることが大事であり、二世帯住宅ならワンフロア・フラットアクセスの親世帯の住まいを実現できることがお分かりいただけたかと思います。さらに1つの建物に親世帯子世帯という2つの住戸をつくるためには、コンパクトにバリアフリーを実現するアイデアが大切です。