和と洋のモダンが同居する家はなぜ心地良いのだろう。Think about DAD'S PLACE
ヘーベルハウス小金井府中展示場に建つFREXモデル。その1Fの主寝室と屋外デッキの間に設けた7.3帖のタイル敷きスペース。内と外を自然につなぐ緩衝地帯のように存在している。周囲からほどよく独立したダウンフロア仕様で、居心地抜群。光と風が流れ込むこの空間に「静寂なる椅子」を意味するフリッツ・ハンセンのロオチェア二脚とカフェテーブルをレイアウトしてみた。午後は読書をしながらカフェタイム、夜は好きなサウンドを鳴らしながらバータイムを愉しむのだ。
西洋のモダニズム建築と日本の伝統的建造物とのエンゲージは、百年以上前に遡る。1905年、アメリカを代表する建築家フランク・ロイド・ライトは、日本の神社建築様式のひとつである権現造りの平面図を、自らが任された教会の設計に応用した。ライトの弟子ルドルフ・シンドラーが1922年に建てたキングスロードの自邸は、障子など日本の建具を駆使して造られたもので、アメリカではオリエンタルモダンの先駆け的建造物として知られている。のちにイームズ夫妻が自邸の一角に提灯に似た照明を飾りつけ、リビングでお茶会を催すような生活スタイルを志向したのもその流れのなかにある。ブルーノ・タウトが桂離宮とその庭園を称賛したのは1933年だが、それ以前にバウハウス派の日本人建築家の何人かは「桂研究」に勤しんでいたし、ル・コルビュジエは、桂離宮よりむしろ先斗町の街並みや京都の庶民が暮らす家並みに興味を持ち、研究を重ねていた。またヴァルター・グロピウスは、軽量気泡コンクリートを使用した実験住宅に「ひけらかしのない、高貴で簡素な佇まいを象徴する欄間」からヒントを得た水平連続窓(採光窓)を起用した。かの天才たちは、シンプルな機能美を追求するモダニズム建築に和空間のディテールがフィットすることを、それぞれの視点で気づき、拝借していたのである。そのひとつひとつが線となり面となって「和モダン」はボーダーレスかつタイムレスに定着した。この写真に見られる内部空間と外部空間の連続性も、明らかに、日本の縁側文化の系譜を受け継ぎ、進化したものである。さらにこのモデルハウスは、一歩進んでいると想わせる、和と洋のモダンが高度にバランスよく同居する3F建て住宅であった。1Fは「アカデミックな和洋折衷空間」、2Fは「篭りたくなる畳の和室」、そして3Fは「プライベート感あふれる洋間」という別の顔を持ちながら、家全体に落ち着き払った統一感があり、各フロアとも居心地満点なのだ。今月は、和洋モダンが同居するこの空間をヘイルメリー流にアレンジしてみた。
1st Floor / HEBEL HAUS FREX KOGANEI-FUCHU MODEL
1Fのダウンフロアに配置したフリッツ・ハンセンのロオチェア。「ロオ」(Ro)とはデンマーク語で「静寂」を表す。スペイン人デザイナーのハイメ・アジョンが2年の歳月をかけて製作したラウンジチェアで、人体の曲線に沿ったフォルムが座り心地を高める。フレデリシアのトバゴ・カフェテーブル。映画『トム・ホーン』のポスター(以上Sonechika)
1Fに広がる22.4帖のLDK。そのリビングスペースは2Fまで吹き抜けになっていて、上部から注ぎ込む光によって心地よい明るさが保たれている。この贅沢なタテ空間は、建物外周部の柱だけで建ちあがるヘーベルハウスFREXの強靭な躯体構造によって生まれる「無柱空間」のなせる技。心地よさをもたらすだけでなく、吹き抜けを通して2Fで過ごす家族の気配を感じることもできるのでうれしい。
1Fのダイニング・キッチンからは、リビング、寝室、タイル床のダウンフロアまで見わたせる。ひとつながりなのに、セパレートしている感覚をもたらす秘密は、スペースごとに天井や床の高さを巧みに変え、心理的な境界線を作り出しているから。壁で区切らないことによりフロアがさらに広く感じられ、気分がいっそう開放的になる。和のエッセンスを感じる照明やウォールライトもアクセントとして効果的だ。
2nd Floor / HEBEL HAUS FREX KOGANEI-FUCHU MODEL
2Fにある5.5帖の和室。砂利敷の中に沓脱石を配置し、小上がりになった縁側を踏んで畳敷きの間へ入っていくという凝った設計。この和室に、天童木工の座卓と2種の椅子、さらにヴィンテージの丸ランプやオケージョナルテーブルを持ち込み、昭和の文豪が愛したような旅籠の一室をイメージしながら演出した。現代のモダニズム建築が生み出す、落ち着き払った空間美。「和モダン」の一例としてぜひご参照ください。
3rd Floor / HEBEL HAUS FREX KOGANEI-FUCHU MODEL
3Fには、LDKと「そらのま」が広がる。写真は、ダイニングキッチン(23.2帖)側から見た、ダウンフロアリビング(10.1帖)と「そらのま」。リビングは床を低くしているだけでなく、天井を通常よりも高く上げる「ハイルーフユニット」を取り入れているため、タテ空間の広さも得られる。外周部を壁で閉じ、「そらのま」を開いてプライベート感を大切にした空間であり、その室内の壁面をプロジェクターによる巨大スクリーンとして活用するアイデアが生かされている。グリーンをたっぷりと飾った「そらのま」が借景となり、プラスアルファの視覚的・心理的開放感も味わえる。遊び、寛ぎ、語らう居場所の理想形だ。
3Fのキッチンサイドからダイニング、リビング、「そらのま」を見た。リビング側はハイルーフ仕様を採用。高さや明暗などメリハリが効いた、変化のある空間だ。
3Fのダイニングテーブルの奥にある引き戸を開けると、2.9帖の秘密基地めいたワークスペースが現れる。もちろん篭り感は抜群だが、タテ空間に余裕があり窮屈な印象がない。秘密はスカイライト(天窓採光)。天井がくり抜かれていて、気分転換しようと座ったまま天井を見上げれば、そこに空があり、ほどよい自然光も得られるのだ。集中しながら気持ちよくリモートワークできる、とっておきのベース基地。
そしてもうひとつの居場所へ。
都市の住環境では近隣までの距離が近いため、ベランダやテラスで寛ごうと思うと外部の視線をシャットアウトしたくなる。「そらのま」には外部視線を遮る壁があるものの、ご覧のように閉塞感がまったくない。
天空のアウトドアリビングであり、自然の恵みを生かしてプランツを育てられるガーデンでもある。篭れる和室とは真逆のベース基地なのだ。
2021年4月にグランドオープンした最新モデルのFREX(3F建て)。バウハウスの進化系と思わせるファサードが圧倒的。
二世帯住宅を想定した設計で、1F(床面積:112.52㎡)は親世帯の居住空間、3Fは子世帯(床面積:95.21㎡)の居住空間、そして中間層にあたる2F(床面積:110.53㎡)は両世帯が集い寛ぐクロススペースの役目を果たしてる。モダンデザインをベースにしながら、随所に和のエッセンスを取り入れた空間が見どころ。洋室、和室といった単純な仕切りではなく、和洋折衷の高度な空間演出によって合わせる家具もボーダーレスに選ぶことができ、どんなものでも受け入れてくれる包容力がある。ロングライフな住まいの好例としてもぜひ見学してほしいモデルハウスだ。
ヘーベルハウス 小金井府中展示場
住所:東京都小金井市前原町5丁目7
tel.042-401-2270(10:00-17:00火・水定休)
※写真の設えと実物は一部異なります
取材協力:
Sonechika
天童木工
クロサワ楽器日本総本店
※屋上で火気使用する際は、屋上防水シートへの飛び火対策のため耐炎性のある焚火シートなどを敷いてご利用ください。