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伝統と進化が同居する家【THE LIVING】ARRANGED BY HM MAG./PARTⅢ

HAUS

バウハウスの賢者たちが描いた理想の居住空間は、
サステナブルな時代が叫ばれるなかで進化している。

 1920年代半ばから後半にかけ、バウハウス初代校長ヴァルター・グロピウスが設計の責任を担い、ドイツのテルテン村に公営集合住宅「テルテン・ジードルング」が建設された。このプロジェクトの成功によって、産業革命以来試行錯誤を繰り返してきたモダニズム建築の合理性と機能性が、一般大衆レベルの住宅開発に適していることが証明された。

 テルテン・ジードルングは、プレハブ工法の原型といわれる「トロッケン・モンタージュ・バウ」(乾式組立構造)によって建てられている。それまで主流だった鋳物式構造の家(壁体をつくるために作業現場で型枠を組み、コンクリートを流し込むような工程を要する家)にとって代わり、工場であらかじめ作られたパネル板を貼り付ける「組立式」によって効率よく優れた性能の住宅を一律に建てるという、マニュファクチュアリングの発想によって生まれた建築構造である。その実現のためにグロピウスが注目した建材が、ALC(軽量気泡コンクリート)の原型になったガスコンクリートだった。バウハウスの資料によると、「テルテン・ジードリングの一部で使用したガスコンクリートは、一般のコンクリートの4分の1の重さながら10倍の断熱性を持つ堅牢な素材」だったという。炭素が結晶化すると硬いダイヤモンドになるように、コンクリートの細胞が気泡を含むと規則正しく並んだ結晶体となり、コンクリート自体の強度が増す。その強度を知り、グロピウスは理想が現実になると確信したのだ。1940年代に入ると同じドイツ人であるヨゼフ・へーベルの手によってALCのパネル化が成功し、そのパネル材を使用した鉄骨造住宅はヨーロッパ各地に普及、ロングライフ住宅の礎を築いた。

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1928年にヴァルター・グロピウスらの手によって建てられたドイツの集合住宅「テルテン・ジードリング」の一戸。改装工事を重ね、100年近く経ったいまでも住み継がれている。

 ヘーベルハウスには、そのような先駆者たちのDNAが宿っている。だからなのだろう、全国各地に建つモデルハウスを訪ねるたびに、その外観にはバウハウスのマイスターたちが設計したモダン住宅の偉容が重なって見えてくる。また、それぞれの室内空間には、イームズやエメコのような華美でないデザインの家具がばっちりハマる。工芸というよりは工業、アーティスティックよりインダストリアルなものが似合う家だ。

 また同時に感心させられるのが、ヘーベルハウスのもつ堅牢な躯体と空間設計能力の高さである。FREXの重鉄・システムラーメン構造の家に代表されるヘーベルハウスの躯体は、持続可能な社会が叫ばれるなかで一層リアリティを増している。その躯体によって生み出された室内空間は、テルテン・ジードルング建設からおよそ1世紀の時を経て、これほどまで自由度が増したのかと感心させられる空間設計能力をもつ。だからモデルハウスを訪れるたびにアレンジ魂に火がつくのだ。

 今回訪ねたのは、東京・江戸川展示場に建つ3F建てFREXモデル。その空間は、1Fが親世帯の住居、2Fと3Fが子世帯の住居として設計されていて、それぞれ高天井による心地よいリビングを生かしながら、住まう者の生活様式やフロア特性に合わせ、さまざまな演出が施されている。たとえば1Fには、エントランス部に応接用のソファを配したラウンジスペースがあったり、リビングから一段上がった場所に畳敷きの和空間がレイアウトされていたりする。3Fに上がると、広いLDKを一層開放的にしてくれるアウトドアリビングが設えてあるかと思えば、奥の隠れたエリアには逆に4帖半に満たない狭小ワークルームが付設されていたりする。このような空間をヘイルメリー流にアレンジしながら、サステナブルなモダニズム建築の魅力を写し出してみたい。

3F/LDK

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 3Fの大空間を構成するのは16帖のリビングと18.7帖のダイニングキッチン。合わせて約35帖になるこのLDKは、贅沢この上ない開放的空間だ。リビングのデザインも新しい。床上げしてアウトドア空間と床レベルを合わせたうえで、同調のタイルを敷くことで、室内でありながら外と一体感のある別空間の印象を与えている。また、壁面に使用した天然石が、重厚な表情を見せながらリビングに品格を加えている。LDKの天井はハイルーフユニットを採用。約3mの天井高を実現し、縦への広がりをもたらす。リビング脇のパーティションの裏には長机を備え付けた5.4帖のスペースも付帯している。

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ハイルーフユニットを採用したリビング空間にマークニューソンのオルゴンチェアをはじめモダンな家具類を持ち込み、大人っぽいアレンジを施した。

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3Fのリビングに接続するダイニングキッチン。リビングより一段低いフロアレベルになっており、フローリングにはウォールナットの無垢材を使用している。高級感溢れるキッチンも美しく映える。3面の採光窓を確保し、たっぷり光が射し込むので居心地の良さが倍増する。

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照明スタンドはペンタ製の「Kelly Floor Lamp」、レコードプレーヤーはガラードの名品「401」、W型のマガジンラック、サーフィン大会の木製トロフィーは参考商品。(Sonechika)

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三点の脚で自立するマークニューソンのオルゴンチェア。座り心地の良さを与える流線形のスタイルが秀逸。参考アイテム(Sonechika)

3F/WORK SPACE & OUTDOOR LIVING

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3Fにレイアウトされた4.4帖の書斎。リモートワークを行うには十分な空間で、心地よい篭り感も得られる。屋上へ続く階段下の空間を活用しているので、どこか秘密基地のようなイメージがあり、ワクワク感を刺激するのだ。入口の引き戸にはすりガラスをはめ込んでいるため、隣接するアウトドアリビングから、ほどよく室内に光が届く。すりガラスゆえ、目隠しも兼ねている。また、戸を開ければアウトドアリビングを通して屋外空間へ視野が広がり、最高の気分転換をはかることができる。だからここには仕事道具だけでなく、趣味の道具も持ち込みたい。誰にも邪魔されずギターの練習をするのにも最適な空間だ。

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3FのLDKに隣接するアウトドアリビング。室内リビングの床材と同じ大判サイズのタイルを使いフロアレベルを揃えた、シームレスな設計が特長。大人数のパーティーを催すとき、仮に室内リビングとの境界線をまたいで長いテーブルをセットしたとしても、まったく違和感をおぼえない。個人的にはこの空間にソロテントを張って、夜通し星空観察を楽しみたい。

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ハーマンミラーの「Eames Aluminum Group Chair」、オーク材のワインテーブル、チーク材のウォールシェルフ、1977年ムンク展のポスター。(以上Sonechika)ヤイリの「YOE28/N」は参考アイテム。(クロサワ楽器日本総本店)

1F/ENTRANCE LOUNGE

1Fのエントランス部に広がるラウンジスペース。室内と屋外の緩衝地帯ともいえる「家づくり」に刺激をもたらす新しいタイプの「土間」で、開放的な吹き抜け空間も備えている。靴を履いたまま、もしくは下履きで過ごす空間だが、この広さがあれば応接にも十分使える。セットされていた3シーターのソファはそのまま残し、一人掛けのチェスターフィールドをプラスしてアレンジを施したが、それでもなお空間には余裕がある。だからしっかり距離を取ったうえで心置きなく会話が楽しめる。このご時世、ゲストをもてなす場所は必ずしも靴を脱いだ室内である必要はないのだ。壁に貼られたグレージュ系のブリックタイルも上品な空間演出に役立っている。

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チェスターフィールドの一人掛けソファは、室内リビングだけでなく、エントランスの土間やガレージの一角に置いても存在感抜群。

1F/LDK

親世帯の住居を想定した1FのLDKは29帖。ウッドを基調にした落ち着きのあるインテリアはシニア世代の居住空間にふさわしい。一部の壁にエントランス部のラウンジと同じブリックタイルを使用することで、1F全体のデザインに統一性をもたせている。グレージュ色の無垢床も調和している。LDKの天井には折り上げ天井を採用し、ほどよい縦空間の広がりを実現。開放的な印象がワンランクアップする。また、折り上げ天井には間接照明を配し、室内を優しく明るく照らしている。ダイニングの横にはテラスに続く大開口があるため、自然光もたっぷり入ってくる。撮影時には雪が舞ってきたが、和モダンな室内から眺める雪景色はとても情緒的だった。

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1FのLDKに連なる、小上がりになった和空間。2~3帖ほどの畳敷きだが、身を置くと思わずゴロンと昼寝したくなる。床下は収納になっていて便利。さらにこの畳スペースからリビングをまたぐように壁沿いにデスクが作りつけてあり、ゆったり気分で書きものや読書を楽しめるのもうれしい。ちょっとした工夫で憩いの間を演出できるという好例だ。

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1Fには収納と勝手口を兼ねた「スマートクローク・ゲートウェイ」を配備。宅配などの荷物を屋外ドアからそのままここに収納できる。クローク内に置き配指定をすれば、宅配便も受け取れる。勝手口のほかに、室内(キッチンやバスルーム)へつながるドアも施錠できるので、便利かつ安全な「住居内大型宅配ロッカー」だ。

1F/OUTDOOR LIVING

日本で進化したモダニズムは四季折々の情緒も眩く写し出す。

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1Fにある約10帖ほどのテラス。全開すれば室内LDKとひと続きの大空間に。お気に入りのチェアを用意するだけで、最高のリラックスタイムが過ごせる。テラスには半分ほど屋根がかかっているため、小雨や小雪の日でも問題ない。アレンジしたソファはドリアデの「Ryalton Arm Chair」(フィリップスタルクデザイン)、右手の赤い木製チェアはアンドリューワールドの「Smile Chair」(いずれもSonechika)

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東京の江戸川展示場に建つヘーベルハウスのFREX(3F建てモデル)。2021年9月にオープンしたばかりで、最新のインテリアやエクステリアを存分に堪能できる。1F床面積116.86m2、2F床面積117.29m2、3F床面積96.30m2の二世帯住宅。1Fは親世帯、2Fと3Fが子世帯を想定したレイアウトになっている。家族それぞれが自分時間を楽しめるよう工夫された空間プランニングや、それぞれの空間に品格を与えてくれるインテリアにも注目したい。玄関を入るとまず、ニューノーマルの暮らし方を見据えた広いラウンジに驚かされる。室外と室内を兼ねた大胆で自由度の高いスペースからは新たな刺激を受けるだろう。柱と梁だけで建ち上がる重鉄・システムラーメン構造の強靭な躯体構造によって生まれた開放的なLDK、そして思いがけない場所に配置された狭小空間も体感すべきポイント。家づくりはもっと自由でワガママでいいことを教えてくれるモデルである。

ヘーベルハウス江戸川展示場FREXモデル
住所:東京都江戸川区中央4-21 総合住宅展示場ハウジングギャラリー江戸川内
tel. 03-3651-9828(10:00-17:00 火・水定休)
※写真の設えと実物は一部異なります

取材協力:
Sonechika
ACTUS
GT CAMERA
クロサワ楽器日本総本店

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HailMaryこちらのコラムはHailMary3月号に掲載されています。

※屋上で火気使用する際は、屋上防水シートへの飛び火対策のため耐炎性のある焚火シートなどを敷いてご利用ください。

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