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強さの理由。

STUDY

ALC

軽量気泡コンクリートが住の革命をもたらした

 20世紀に入り、われわれの住環境は劇的に向上した。グローバルな視野でみると、住宅市場における最大のターニングポイントは、プレハブ工法によって建てられる「工業化住宅」が第二次世界大戦後のヨーロッパを中心に普及した1940年代半ばから50年代前半にかけての時代ではなかったかと思われる。そのデザイン思想は、フランク・ロイド・ライト、ヴァルター・グロピウス、ミース・ファン・デル・ローエ、ル・コルビュジエをはじめとしたモダニズム建築の旗手たちによって、1920年代にはすでに確立されていた。バウハウスの初代校長を務めたグロピウスが抱いた理想は、「市井の人々が平穏かつ永続的に暮らせる、安価で強靭な躯体をもつ住宅」の建設だった。彼は、その理想を実現するためにもっとも肝心なのは「工場での大量生産と現場への大量輸送さらには現場での組み立て作業を可能にする、強くて軽いコンクリートの開発」と明言していた。

 1889年にチェコのホフマンという人が二酸化炭素によってコンクリートを気泡化する実験に成功して以来、住宅建材としての軽量コンクリートの可能性が芽を吹いた。1920年にはスウェーデン人のヨハン・アクセル・エリクソンが、石灰石とスレート粉砕物を混合して気泡を発生させる「石灰配合」に成功、23年には、オートクレーブと呼ばれる高温高圧蒸気窯を使用した養生によって軽量かつ強度の高い気泡コンクリートが生成できることを発見した。この発見は商業的関心を集め、29年にはエリクソンの地元スウェーデンで最初の大型工場が立ち上がった。「ALC」(Autoclaved Lightweight aerated Concrete)と呼ばれる軽量気泡コンクリートの誕生である。

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ALC(軽量気泡コンクリート)の原料となるのは珪石、セメント、生石灰、アルミ粉末、そして水の5種。これら自然由来の原料がオートクレーブという高温高圧蒸気窯のなかでじっくり時間をかけて養生される。生成されたALCは、「長持ちする」「調質性を有する」「水に浮くほど軽い」「火にも熱にも強い」「呼吸する」といった機能を同時に身につけている。

BAUHAUS to HEBEL HAUS

第二次大戦後の復興を早めた「ヘーベル」

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 1926年、グロピウスは「市井の人々が永続的に暮らせる住宅」の供給を目指し、デッサウのバウハウス校舎からほど近いテルテン村に実験住宅を計画した。この計画で最重要ポイントになる建材として、彼は気泡コンクリート(当時は「ガスコンクリート」と呼ばれていた)を起用した。それまで主流だった鋳物式構造にとって代わり、工場であらかじめ作られた建材部材を現場で組み立てる「トロッケン・モンタージュ・バウ」(乾式組立構造)によって優れた性能の集合住宅を効率よく建てたい、その実現のために注目した建材が軽量気泡コンクリートだったのだ。ただ、当時の写真で確認できるように、この実験住宅で使用したコンクリートはパネル材でなく、ブロック材を積み重ねて使用するタイプだったので、劇的な工期短縮は図れなかったに違いない。

 軽量気泡コンクリートとして「ALC」の能力が真に発揮されはじめるのは1940年代に入ってからのことだ。43年、ドイツ人のヨゼフ・ヘーベルがALCのパネル材を鋼鉄で補強することに成功し、新たに建てた工場で製造をスタートした。彼は、強度と安定性が大幅に増したこの特許製品「ヘーベル」を規格化し、壁、屋根、床のパネル材のプレハブ化にも成功する。「工場で作った建材部材一式を建設現場ではめ込むだけ」というグロピウスが描いた理想的な作業が実現したことで大幅に工期が短縮でき、第二次世界大戦でダメージを受けたドイツの各都市の復興に大きく貢献したのである。この貢献が世界中に知れ渡り、「ヘーベル」はALCの代名詞になった。

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1927年、テルテン・ジードルンク建設現場の写真。積み重なったALC(軽量気泡コンクリート)が確認できる。

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バウハウスの初代校長ヴァルター・グロピウスの構想によって1926年から28年にかけて建てられた「テルテン・ジードルンク」。リノベーションを繰り返し、現在でも住み継がれている/© Yvonne Tenschert, 2012, Stiftung Bauhaus Dessau

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ドイツのヘーベル社が開発した「ヘーベル」を使用して完成した1950年代の映画館の外観/ © 2024 Josef Hebel GmbH & Co. KG Bauunternehmung

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最高のマテリアルがロングライフな住まいを生む

 第二次世界大戦によって、ヨーロッパ同様、日本の各都市も大きなダメージを受けた。デフレによって後退していた経済は1950年にはじまった朝鮮戦争を契機によみがえり、特需景気がおこった。55年前後には国民所得が戦前を上回る水準に達し、三種の神器に代表される大量消費の時代が幕を開けた。企業の急成長がはじまったこの時代に、のちに旭化成の社長に就任する宮崎輝かがやきは、復興したヨーロッパに倣い日本にも近代的な住宅を建て、国民に真に豊かな暮らしを供給したいというビジョンを描いた。そして1966年にドイツのヘーベル社と手を組んで「ヘーベル」(ALC)の国内生産に着手、72年には住宅メーカーの旭化成ホームズを立ち上げ、ヘーベルハウスの販売を開始した。

 静岡県富士市にある旭化成ホームズの住宅総合技術研究所を取材してわかったことは、化学メーカーとしての旭化成の研究開発力をベースに、きわめて精度の高い「ヘーベル」を生み出していることだった。軽量気泡コンクリートを構成するトバモライト結晶を顕微鏡でみると、薄い板が一枚ずつきれいに絡み合っているようなカードハウス構造をしている。旭化成の「ヘーベル」が優れているのは、このトバモライト結晶構造体の精度がきわめて高いためだ。養生窯の中でいったいどんな化学反応が起きているのか、ずっと謎だった生成メカニズムを旭化成グループの研究者たちがX線解析技術を用いて解き明かし、高品質で安定したトバモライト結晶を生成することに成功したのである。98年に世界で初めて科学的に裏付けられたトバモライト結晶の構造理論も構築し、「60年耐久」の明示を実現したうえでヘーベルハウスは「ロングライフ住宅宣言」を行った。いまの時代にグロピウスが生きていたら、ヘーベルハウスのファサードを見て大いに嫉妬したであろう。

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バウハウスの時代からつづくモダニズム建築のシンプルな機能美を携えるヘーベルハウスのファサード(つくば展示場)。ヘーベルハウスの外壁に採用している「へーベル」は、表面にザラ目感を出すためにピアノ線を用いた壁のカット技術を採用しているという。この写真の「ヘーベル」の目地は、切り出した岩と平板石を交互に積み上げたような「HR目地」だ。

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1926年にグロピウスが設計したバウハウスの教授陣のための住居「マイスターハウス」。1Fから2Fまで縦に連なるガラスのカーテンウォールが印象的だ。室内に十分な自然光を取り入れるだけでなく、この窓を通じて美しい屋外の景色も楽しめる。

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ロングFIX窓によって1Fと2Fに開口部を設けたヘーベルハウスのFREXモデル(倉敷展示場)。進化したマイスターハウスを想起させる外観。

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ヘーベルハウスの強靭な躯体構造を支える重要な建材「ヘーベル」。水に浮くほど軽量で、耐火性、耐震性、寸法安定性、遮音性などマルチ機能を備える。自然な石割でできたような凹凸の陰影など、目地のデザインも多彩だ。

STRUCTURE

01 重鉄制震・デュアルテックラーメン構造

豊かな広がりをもたらす2F建て都市型住宅の躯体構造

 1972年に一般住宅第一号を開発して以来、ヘーベルハウスは構造体に使用する素材を鉄骨と「ヘーベル」(ALC)に限定し、マテリアルファーストの精神に則って強靭な工業化住宅を建てつづけている。50年以上にわたって独自の研究開発をつづけ、ブレない設計哲学によって都市生活者の住まいをより良いものにするため、自ら進化しつづけている。

 そして昨年、ヘーベルハウス50周年記念プロジェクトとして開発した都市型住宅RATIUS[RD]やRATIUS[GR]に採用した躯体構造が、「重鉄制震・デュアルテックラーメン構造」である。FREXモデルに採用される重鉄・システムラーメン構造と、CUBICモデルに起用されるハイパワード制震ALC構造の2つのテクノロジーを巧みに組み合わせて完成した2F建て用の躯体構造で、強靭な接合部、肉厚の重鉄柱、特殊鋼材による制震デバイスなど独自の技術を駆使して完成している。

 重鉄構造だから作れるその躯体は、まるで別荘で寛いでいるような、遮るもののない豊かな開放感をもたらす。天井全体を高くしたLDKは、縦横へと大らかに広がり、大開口から差し込む自然光に包まれる至福の空間が生まれる。さらなる開放感をもたらす、天井の高さと連動した「ハイサッシ」と「コーナービューウィンドウ」。大開口が景色を広く切り取り、内と外のつながりをシームレスにしてくれる。テラスなど屋外空間との一体感を味わえるヘーベルハウス・オリジナルの窓が効果を発揮しているのだ。実際にRATIUS[RD]のモデルハウスを取材して、そのような窓を起用した圧倒的な大開口に別荘的な豊かさを感じると同時に、寝室脇に作られた狭小書斎とのギャップがいいなと思った。「ファミリー空間はできる限りオープンに、プライベート空間はできる限り篭りたい」というわがままを存分に満たしてくれる家だと実感したのだ。

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重鉄制震・デュアルテックラーメン構造/2F建て住宅専用に開発されたヘーベルハウスの重鉄躯体。CUBICモデルにも採用される制震フレーム「ハイパワードクロス」に加え、新たに「アダプティブジョイント」と「フレキシブルジョイント」の2つの新技術を導入し、地震の際にかかる基礎への負担をより低減することに成功している。

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*イラストはイメージです

RATIUS [RD] FINEST VILLA

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自然に囲まれた別荘(ヴィラ)で寛ぐような居心地を与えるインテリアスタイルを採用した高級レジデンス。外観は、立方体を削り出すシンプルな造形デザインで、キャンティ架構によって深い奥行きを表現。S-FINE 仕上げのアルミ手摺や「コーナービューウィンドウ」などの組合せによってノイズレスでタイムレスな造形美を生み出している。室内のインテリアは「VILLA STYLE」を採用。伝統的な浮造り仕上げの挽板フローリングから、大中小サイズの異なる木貼り天井などの建具まで、ナチュラルな天然木の表情を生かしたインテリア構成がすばらしい。

RATIUS [RD] TSUKUBA MODEL

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RATIUS[RD]つくば展示場のLDK空間。ノイズレスな空間で、天然木を活かしたVILLA STYLEのインテリアが統一感と落ち着きをもたらしている。「ハイサッシ」を起用した開口部の作りも効果的。外へ向かう視線の広がりによって、アウトドアリビングを含む窓外の景色と室内が一体化するので、一層ゆとりある空間に感じられる。重鉄制震・デュアルテックラーメン構造の強靭な躯体構造が、この豊かな広がりを生み出しているのだ。

RATIUS [GR]

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2F建て邸宅RATIUSシリーズの最新モデルとして開発されたRATIUS[GR]。その躯体も重鉄制震・デュアルテックラーメン構造によって完成している。まず目につくのは、最大約2.7mの奥行をもつ大屋根。この大屋根にも鉄骨が組み込まれていて、スリムなスラブが作り出す美しい水平ラインの階層部と絶妙なバランスを取りながら、ジャパニーズモダンの強靭な躯体を実現している。屋根の軒線、スラブ、手摺が揃い、巧みなバランスで重なり合う繊細なデザインだ。軒が大きくせり出すことで、軒下空間は陰影を創り出す半屋外空間になっている。そのエリアがグラデーションをつくり、空間に豊かな変化をもたらしている。また、2Fには最大天井高5.1m×最大12.5帖の大空間を創り出す「ロフティルーフ」を採用し、高さのある勾配天井を活かした小屋のような空間を創り出している。

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*イラストはイメージです

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RATIUS[GR]の1Fは邸宅ならではの大らかな広がりに見合う高さの天井をもつ。単なる開放感だけではない、余白の美を感じるタイムレスな空間だ。

02 重鉄・システムラーメン構造

FREXモデルを支える最強の躯体構造

 強靭な躯体と「ヘーベル」を武器に最良の都市型住宅を創造する。実際にヘーベルハウスに長く住んでいる人たちに話を聞くと、初期投資がかかっても長く住み継がれる家を建てるほうが生涯コストパフォーマンスは良く、省資源にもつながる、そんな意見をよく聞く。キャスターの小倉智昭さんは大学を卒業するまでヘーベルハウスに住んでいた。1970年代に父親が建てた2F建てだったというから初期のモデルだ。「モダンな住まいでしたね。家は街の歴史を築く、街の景観を決める。実際に住んでいたときには気づきませんでしたが、今思えば、そんな発想でヘーベルハウスは家づくりを行ってきたんだなと感じますね。科学的な見地から建築技術を研究し、長く住み継がれるモダンな家を建て、建てっぱなしじゃなくメインテナンスもしっかり行って、住宅を資産として築いている。そんなことを感じますね」。その小倉さんがFREXモデルを見て、「これは、その高みを目指した住宅という印象を持ちます」と語っていた。

 ヘーベルハウスの都市型住宅FREXは、高層ビル建築で多く採用されているラーメン構造を一般住宅用に応用した重鉄・システムラーメン構造によって建つ、きわめてハイスペックな住宅である。柱と梁を独自のシステムで強固に結合した門型フレームを組み上げる立体格子構造によって、室内にダイナミックな無柱空間を創出する。また、フレームひとつひとつが力を分担しながら全体を支えることで構造壁が不要となり、大きなリビングや大開口、大胆な吹抜けなど自由な間取りを可能にする。その躯体構造は、住まい全体を支える主要骨格部「主架構」を軸としながら、そこに柔軟な造形力を持つ可変部「サブ架構」を取り付けられるシステムによるもので、サブ架構(キャンティ架構)は構造の制約に縛られないため、軒やベランダ、スラブなどを自由に付け足すことができ、高度で柔軟な造形を可能にしてくれる。

 さらにFREXは、都市エリアなど、長い1本の通し柱だと資材搬入が困難な敷地に対応し、分割した柱同士を継ぎ足す「コラムカプラ」という接合システムを採用しているが、柱で最も負荷のかかる梁との接合部を22mm厚にすることでさらなる強化を施すなど、見えない部分の骨格もきわめて強靭である。その構造を初めて知ったとき、われわれはこれだ!と直感し、The HAUS BOOKのなかで毎月FREXを研究し、まもなく『エキサイティング・シェルター』という(編集者がヘーベルハウスで新築を建てる)プロジェクトを立ち上げたのだ。 

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重鉄・システムラーメン構造/強靭な重量鉄骨を使って柱と梁を構成することで、耐力壁を使わずに堅牢な躯体を実現する。立体格子構造の骨組みは、外的な力が加わっても上下左右に力を分散する。さらに高層ビルの制振装置にも使われているオイルダンパーを初めて一般住宅用にカスタマイズし、FREX全戸に制震システム「SeiRReS(サイレス)」を標準装備しているため、優れた耐震性を発揮する。

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*イラストはイメージです

FREX3 MORIYA MODEL

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重鉄・システムラーメン構造が生み出したFREXモデルの逞しい外観(守谷展示場)。街の景観アップにも貢献するダイナミックかつモダンなファサード。フォールディングウインドウを開ければ室内リビングと屋外テラスが一体化する。街の景観美に彩りを与える住空間だ。

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1Fのダイニング空間には心地よい吹き抜けが広がっていて、撮影時には上階の開口部からほどよい光が降り注いでいた。

FREX2 MINOH MODEL

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大阪府箕面市にある住宅展示場で撮影したFREXの2F建てモデル。重鉄・システムラーメン構造による強靭な躯体は、このように1F、2Fともに大きな開口部を生み出すこともできる。ル・コルビュジエのサヴォア邸が進化したようなファサードで、開口部に使用されている「ビスタウィンドウ」はヘーベルハウスのオリジナル窓だ。

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十分に横の広がりを持つ邸宅ではあるが、室内に入ると縦空間の広がりに驚かされる。とりわけビスタウィンドウとリビングのあいだに突き抜ける吹き抜け、エントランスホールの真上を抜ける吹き抜けが、美しいアトリウムを創り出している空間に息をのんだ。アトリウムを通じてリビングのダウンフロアにもほどよい光が差し込み、しばし撮影を忘れ、ダウンフロアリビング内に篭った。

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ダイナミックな開口部の好例。自然光がビスタウィンドウを通じてアトリウムを照らし、そこが光の回廊となって室内に美しいコントラストを与えている。

FREX3 IKEBUKURO SENKAWA MODEL

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池袋千川展示場に建つFREXの3F建てモデル。このモデルを訪ねたときに感じたのは、ヘーベルハウスのもつクリエイティビティの高さである。重鉄・システムラーメン構造を生かし、在宅時間が高まった家庭内環境を十分に考慮した部屋作りをこのモデルで実現していた。建物の2Fは細かい間取りによってプライベート空間が構成されていて、リモートワークできる書斎、共働き夫婦に喜ばれる家事動線や設備、また部屋を完全に仕切るのではなく、ところどころに子供たちと交流でき、家庭内での教育に配慮した空間演出がなされていた。

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一方の3Fは、アウトドアリビングに接続した思い切り開放的になれるファミリー空間が広がっていて、開くところと閉じるところのメリハリを効かせた居心地のよいリビングの作りに感心した。

03 ハイパワード制震ALC構造

独自の制震フレームによってモダニズム建築を進化させた

 一昨年、筆者が東京の杉並区に購入した土地は、第一種低層住居地域にある「旗竿地」だった。30坪程度の限られた敷地であり、高さ制限もあるため、当初予定していた3F建てを諦め、「旗」の部分に2F建ての狭小住居を計画し、「竿」の部分はすべて駐車場とすることにした。採用したのは、ヘーベルハウスのCUBICモデルだ。そのフレームは、ハイパワード制震ALC構造という強靭な軽量鉄骨構造によって組み立てられる。工業化住宅として初めてヘーベルハウスが「制震構造」を標準仕様化した躯体システムで(重鉄制震・デュアルテックラーメン構造にも応用している)、エネルギー吸収力に優れた「ハイパワードクロス」という制震フレームを起用している。実際に建設現場で観察させてもらったが、それは柱と柱の間にX型のフレームを二段組みにした装置を並べたシステムだった。現場監督に話を聞くと、X型のフレームは二段に組んだほうが一段組みよりも強靭であることは間違いなく、それ以上に、二段組みにすることで使用する補強材としてのブレースの角度が緩やかになり(最適値になり)、地震などの揺れに対して制震装置が効率よく働くのだそうだ。Xが交差する中央部には、極低降伏点鋼(ごくていこうふくてんこう)と呼ばれる特殊鋼材が用いられていて、これによってエネルギーの吸収力が高まるということもよく理解できた。

 この構法のもう一つの特長として、少ないフレーム数で強度を確保できるため、比較的自由な空間設計ができるというメリットがある。我が家の場合、四方を住居に囲われた「旗」地に住居を建てる計画ゆえ、室内への採光が最大の課題だったが、その構造メリットを活かして2Fのリビング空間は極力間仕切りをなくし、南面にロングFIX窓を、また西面に9つの水平連続窓を並べることでその課題をクリアできた。そればかりか、9つの水平連続窓の意匠によって、憧れていたル・コルビュジエの「小さな家」に見られるようなノイズレスでモダンな室内空間を手に入れることができたのだ。

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ハイパワード制震ALC構造/上写真は制震フレーム「ハイパワードクロス」の中央部の制震デバイス。素材には、粘り強く変形能力に富んだ特殊鋼材「極低降伏点鋼」を採用している。地震時や台風時に建物の揺れを抑え、柱や梁などの骨組みの損傷を防ぎ、繰り返しの余震にも耐える力を発揮する。

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*イラストはイメージです

CUBIC HAMADAYAMA SHELTER

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筆者が住むCUBICモデル「浜田山シェルター」。2Fのリビング空間を彩るのは西側の壁一面に設えた9つの水平連続窓。ハイパワード制震ALC構造の堅牢な躯体から生み出されたオリジナリティの高い空間で、設計は本誌でもおなじみ荒川圭史さんが担当した。

強い躯体構造をベースにした「トータルレジリエンス」というサポート力

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 本誌創刊年の2016年にはじめてヘーベルハウスを取材し、その前年にE-ディフェンスという兵庫県にある世界最大の実験施設で行った耐震試験の写真をお借りしてヘーベルハウスの耐震性の高さを記事にした。今年元日に起きた能登半島地震の災害に関するニュースに触れるたびに、あの時の取材でお世話になった旭化成ホームズの担当者の言葉を思い出すのだ。「大地震は一度では終わりません。かなりの確率で本震に匹敵する余震が起きます。連続する余震によって多くの家屋が倒壊する。そこが一番怖いのです」。家族の命、自分の命、そして現実的な話だが財産を守り抜くうえでも、家づくりにおいて「強い躯体」は第一義に考えなければならないとあらためて感じる。

 住宅にふりかかる災害は地震だけではない。火災、台風、水害、最近では猛暑も大きな社会問題になっている。このような不意の災害に立ち向かう機能をヘーベルハウスは有しているが、その背景には化学メーカーをバックボーンにした弛まない研究活動の積み重ねがある。先に述べた耐震試験だけでなく、旭化成ホームズの住宅総合技術研究所内でも、日々徹底的に実験や研究をつづけている。実際に現場を取材したが、炉内温度が800℃を超える燃焼実験や、反力壁に取り付けたジャッキで力を加えて躯体の壊れ方や部材・接合部の強度などを確認する実験を目の当たりにして、ここまでやるのかと驚いた。

 そんな研究に裏付けられたテクノロジーをベースに、ヘーベルハウスは「トータルレジリエンス」(総合防災力)という考えを提唱している。災害から生命と財産を守り抜く家づくりに加え、たとえ電力がストップしてもエネルギーを自給自足できる太陽光発電システムや蓄電池の設備、さらに、よりスピーディーに生活の復旧を叶えるサポートシステムをトータルに備えた住まいづくりの提案である。

 ヘーベルハウスで自宅を建てた筆者は、同時に「火災保険」と「ヘーベル災害保険」に入った。その際に「トータルレジリエンス」のことを知り、万が一のときの対応についても話をうかがった。それは、旭化成ホームズ・旭化成リフォーム・旭化成ホームズフィナンシャルという三社が一丸となって生活復旧までサポートしてくれるというシステムで、住宅の復旧にむけて保険の手続きや補修作業を迅速に行うだけでなく、専門スタッフが管轄エリア内の被災地を訪ね、顧客の安否確認から必要物資を届ける作業までサポートするという内容であった。そういったきめが細かく行き届いたサポート体制もヘーベルハウスの「強さ」なのだ。

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HailMaryこちらのコラムはHailMary2024年4月号に掲載されています。

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