STRUCTURE 「重鉄×制震」という名のハイスペックな躯体構造
ヘーベルハウスが50周年記念プロジェクトとして新開発した「RATIUS|RD」(ラティウス アールディー)。2F建て邸宅の新潮流として、今月はその全容を特集する。RATIUS|RDは、「重鉄×制震」をコンセプトにした新しい躯体構造「重鉄制震・デュアルテックラーメン構造」のファーストモデルである。その構造は、ヘーベルハウスのFREXモデルに採用される重鉄・システムラーメン構造と、CUBICモデルに起用されるハイパワード制震ALC構造の2つのテクノロジーを組み合わせることで完成したものだという。まずはそのストラクチャーから詳しく取材していきたい。
STRUCTURE
重鉄制震・デュアルテックラーメン構造
2F建て住宅専用に開発された、業界初の重鉄躯体。重量鉄骨を剛接合した強靭なラーメン構造に、実績のある制震システムを搭載している。1F部には、CUBICモデルにも採用される制震フレーム「ハイパワードクロス」に加え、新たに「アダプティブジョイント」と「フレキシブルジョイント」の2つの新技術を導入し、地震の際にかかる基礎への負担をより低減することに成功したという。この高い耐震性によって、縦横に広がりのある大空間・大開口を生み出す躯体構造でもある。
INTERVIEW
それは、強さとしなやかさを備えた業界初の2F建て専用重鉄躯体だ
RATIUS|RD(ラティウス アールディー)は、この春発売されたヘーベルハウスの新商品である。建坪40~60坪の2F建てレジデンスとして新開発された重鉄モデルだという。「ヘーベルハウスの重鉄モデル」といえば、弊誌でもおなじみ、FREXモデルを思い浮かべるが、本来FREXは3~4F建てをターゲットに開発されたレジデンスであり、その躯体構造を2F建てにも応用し、FREX2というモデルを創造してきた経緯がある。RATIUS|RDは、そのFREXの持つ重鉄構造のメリットを生かしながら、ヘーベルハウスの2F建て専用重鉄モデルとして新たに開発されたのだ。その開発背景と合わせ、新しい躯体構造や建物の設計コンセプトについて、開発担当者である旭化成ホームズの松本淳さんにお話を聞いた。
「重鉄のメリットは、構造の頑強さと強い安心感、さらに躯体性能の高さによるダイナミックな空間構成といった点が挙げられます。これらのメリットを生かしながら、FREXに匹敵するスペックを持つ2F建ての都市型邸宅を幅広く提供できるよう開発したのがRATIUS|RD です。施工性を向上し、専門の施工部隊でなくてもFREXに匹敵するスペックを持つ邸宅として建てることができる、できるだけ多くの方々に喜んでいただけるような邸宅として完成しました。」
これまではFREXの選択肢しかなかった重鉄構造の2F建てヘーベルハウスに新たな選択肢ができたわけだが、開発の背景には、リモートワークの増加などに伴い、都心から少し離れたエリアに比較的広い土地を購入し、開放的なマイホームを建てたいというニーズの高まりも関係しているように思える。筆者もその一人であるが、実際に都内近郊で土地を探してみると、環状8号線を越える郊外であっても、2F建てまでしか建てられない第一種低層住居専用地域が意外に多いことに気づく。RATIUS|RDはその需要も満たしてくれるのではないかと思う。
RATIUS|RDには、ヘーベルハウスが新たに開発した「重鉄制震・デュアルテックラーメン構造」という躯体構造が採用されている。松本さんはつづける。「重量鉄骨を剛接合する強靭なラーメン構造をベースに、2F建て軽量鉄骨モデルのCUBICに採用している制震フレームを組み合わせたハイブリッドな構造躯体です。重鉄の強靭さと独自の制震フレームという、FREXとCUBICの良点を生かしています」。下半身にあたる1FにCUBICのテクノロジーを応用し、上半身にあたる2FにFREXのテクノロジーを用いている。このため、基礎工事はCUBICと同じ作業工程を踏むことができ、大がかりな施工や特殊部隊を必要とせず、結果的にコストパフォーマンスにも優れた躯体として、重鉄の強靭さを保つことができるのである。
また、制震性能をより高めるため、新開発した独自の「アダプティブジョイント」というパーツを取り入れている。「これは地震時おける梁の動きを逃がす部材で、柱や基礎にかかる鉛直方向の力を低減する効果があります。梁のどこにでも設置できるため、設計の自由度を妨げないメリットも兼ね備えています。さらに十字の柱脚と4本のアンカーボルトで地震の揺れを低減し、基礎にかかる負担を抑えるフレキシブルジョイントも採用し、こうした独自のテクノロジーによって地震の揺れに極めて強いストラクチャーを実現しています。」
FREXが得意とするダイナミックな空間設計を可能にしながら、CUBICの制震システムをさらに進化させた最強の2F建て専用新躯体、そのファーストデルがRATIUS|RDなのだ。
1 ダイナミックコネクタ
2 重鉄柱
3 制震フレーム ハイパワードクロス・極低降伏点鋼
4 アダプティブジョイント
5 フレキシブルジョイント
INTERVIEW
厳しい実験にも耐え抜く堅牢さ
「重鉄制震・デュアルテックラーメン構造」の水平振動台実験の模様。過去に起きた8つの巨大地震波と、今後想定される首都直下地震など4つの巨大地震波、計12波もの巨大地震波を同一試験体に連続加振。極めて過酷なこの実験を通じて、基礎・柱脚部に損傷がないことが確認できただけでなく、極低降伏点鋼は12波の地震波を受けてなお大きな余力があることが実証された。
柱脚部のフレキシブルジョイント・基礎に損傷はなく、地震エネルギーの大部分が集中している極低降伏点鋼にも余力があることを確認。巨大地震後も安心して住みつづけることができる高い耐震性が実証されたのだ。
FACADE 2F建てレジデンスは新しい時代に入った。
新躯体構造「重鉄制震・デュアルテックラーメン構造」の特長を最大限に生かして実現した2F建て邸宅「RATIUS|RD」。ヘーベルウォールで構成された立方体の塊を削り出し、深い庇による水平ラインやキャンティ架構によって、モダニズム建築の機能美と重鉄らしいダイナミックな造形美をみごとに表現している。そのファサードの特長をじっくり観察してみたい。
FACADE
大型の窓を連続して設置できるのもRATIUS|RDの魅力。正面に見える大型の連続窓は「ビスタウィンドゥ」。伸びやかな空間にさらなる開放感をもたらしてくれる。また大開口では、特殊なフィルムを挟んだ「防災安全合わせガラス」を室内側に採用。耐貫通性に優れ、万一破損しても室内に破片がほとんど飛び散らないため、台風や地震に対して高い安全性を発揮する。
バルコニーに大きく張り出した「2.7mキャンティ庇」。フラットルーフのシャープな造形美を際立たせながら、室内リビングの一部のような居心地をもたらしてくれる。光と風を招き入れるこの空間によって、自然と暮らしがゆるやかにつながる。
INTERVIEW
RATIUS|RDによって進化したモダニズム建築の機能美
RATIUS|RDの魅力は、堅牢な躯体にとどまらない。普遍の建築美を体現したモダンなファサードデザインが心をくすぐる。縦横に伸びた美しい直線が織りなす端正な外観は、シンプルでありながらも美しい。開発者の松本さんはこう語る。「デザインのアプローチは、まずシンプルなキューブからスタートします。レンガの塊を想像していただくといいと思います。その塊に必要部分のケガキ線を入れ、削り出していき、かたちをつくっていくデザイン手法です。削ったところに庇ができたり、ベランダができたりします。これはモダニズム建築の造形手法の基本でもありますが、躯体が堅牢だからこそ、ここまで大胆に削り出すことができます。住宅の機能として必要な要素、たとえば陽ざしを遮る庇を設ければそれが外観デザインになります」。決してかたち優先のデザインではなく、機能を優先した合理的な造形美なのである。
「デザインは外観のみならず、内側とも深く関係しています」と松本さんは指摘する。「室内リビングとつながって一体感を見せるアウトドアリビングなどはその好例です。室内空間が外観に影響を及ぼし、外観が室内の空間構成に大きな影響を与える。この相互作用がデザインをつくり上げていきます。このように暮らしに必要な機能を削り出すことで、ダイナミックかつ洗練された佇まいが生まれます。われわれはこうしたデザイン手法を『ダイナミックマスデザイン』と呼びはじめているのですが、重鉄が可能にする自由な空間構成力は確実にRATIUS|RDにも継承されています。」
キューブ体から必要部分を削り出した結果、室内外に合理的で美しい住空間が生まれる。RATIUS|RDは強靭な躯体構造をベースに、モダニズム建築の極地ともいえるダイナミックで無駄のない造形美を生むことに成功している。
NEW HEBEL WALL
ヘーベルウォールの新テクスチャは「グレイッシュストーン」
RATIUS|RDの発売とともに生み出されたヘーベルウォールの新テクスチャ「グレイッシュストーン」。マグマがゆっくり冷えて固まることで生まれる高い硬度と美しさから、古来、建材として親しまれてきた花崗岩。その荒々しい自然美を外壁にまとわすために、新たな塗装技術が用いられている。ラバーフレックという、砂利や砂を含んだ特殊な吹付材によってリアルな凹凸感を再現している。
SPACE 強さとしなやかさが最良の心地よさをもたらした。
重鉄制震構造によって生まれる、遮るもののない横の広がりと、ダウンフロアやハイルーフユニットによってところどころに生まれる縦の広がり。この圧倒的な開放感とともに、RATIUS|RDは、居場所の自由度も高い家である。この空間を初めて目にしたとき、まず思ったのが、これは椅子好きにとってたまらない家だ、ということであった。大空間のリビングにお気に入りのラウンジチェアをぽつんと置いてそこに居座る悦びだけでなく、隠れ家的空間を作ってそのなかに居座る悦びも与えてくれるにちがいない、そう思ったのだ。
SPACE
PROTOTYPE
縦横の広がりを生かせるプライベート&ファミリー空間
RATIUS|RDのプロトタイプのフロアプラン:1F床面積101.79m2(30.8坪)/2F床面積98.13m2(29.7坪)/延面積199.92m2(60.5坪)/総面積199.92m2(60.5坪)/建築面積118.92m2(36.0坪)
RATIUS|RDでも生かしたいリビングスペース演出
【ハイルーフユニット】
天井を部分的に上げることで、縦への伸びやかな開放感を生み出す「ハイルーフユニット」。広々としたLDK空間のなかで、たとえばリビングルームの天井のみ3メートル以上の高さまで上げると、それに連なるダイニングキッチンとの間に心地よい「空間のリズム」が生まれる。左のプロトタイプの2Fにもハイルーフユニットが採用されている。
【ダウンフロアリビング】
リビングのフロアを部分的に30cmほど低くすることによって籠り感を演出できる。編集部はしばしばこのダウンフロアリビングにお気に入りのラウンジチェアを持ち込んで読書コーナーやギターの練習場所をアレンジしているが、篭り感だけでなく、縦への新たな開放感も得られ、他の空間にはない独特の居心地を味わうことができる。
【スカイウォール】
空に向かって広い視界を開きながら、外からの視線は遮る。ヘーベルウォールを巧みに利用した「スカイウォール」は、アウトドアリビングの強力なサポーターのひとつ。限られた敷地に建てなければならない都市型住宅であっても、スカイウォールのおかげで心おきなくオープンエアでくつろげる空間を確保できるのだ。
【大開口】
ヘーベルハウスの重鉄構造によって生まれる自由な大開口。自然の恵みを住まいに招き入れ、開け放つことによって内と外の空間を緩やかにつないでくれる。設計自由度も高いので、たとえば写真のように室内と室内の間に中庭のようなアウトドアリビングを築き、三つの居場所をひとつにつなぐこともできる。
INTERVIEW
余白をたっぷり設け心の豊かさを満たす
RATIUS|RDの空間設計をわかりやすく見るために、プロトタイプのレジデンス(約60坪の2F建てレジデンス)を例に、松本さんに解説してもらった。「まず外観は、陽ざしを抑える大きな庇を削り出したデザインが特徴で、2Fの庇の下にアウトドアリビングを設けています。隣家との距離が近い都市の住宅を想定しており、アウトドアリビングには近隣からの目線を遮るためにスカイウォールを設けました。スカイウォールは高さ180cmの壁で、隣家の視線を気にすることなく、天空に抜ける開放感を味わえます。また室内とアウトドアリビングを結ぶ開口部を大きくとっていて、折れ戸で開閉可能です。全開にすると36.0帖のLDKと一体になり、圧倒的な解放感を味わえます」。広々としたLDKもアウトドアリビングも、強靭な躯体構造の賜物だ。「リビングに1本だけ柱がありますが、本来ならばこの柱より内側までが室内で、柱より向こうは屋外になるはずのところを、(強靭な躯体構造によって)屋外になるところまで室内として設計できるので、室内空間に余白が生まれ、視界と心にゆとりを与えます。さらにリビングの天井高を60cm上げ、3mのハイルーフユニットを採用しているため、縦横の伸びやかな広がりによって豊かな開放感をもたらしています。」
スカイウォールやハイルーフユニットの他にもフロアレベルを一段下げて縦空間の広がりに寄与するダウンフロアなど、ヘーベルハウスならではのダイナミックな空間演出がフル活用できるレジデンスである。
最後に、ずっと気になっていたRATIUSのネーミングの由来をうかがった。「ドイツ語で理性的という意味のrationalと、接尾後で満ちているという意味の-ousを組み合わせた造語です。理性で包み、豊かさで満たす家。そんな意味を込めています。」
そのコンセプトを知り、プロトタイプ以外の設計プランも見ていくと、その意味が腑に落ちてくる。そして椅子好きの私にとって、RATIUS|RDはたまらなく誘惑的な家に映ってくる。椅子を置く場所だけでなく、同じ場所でもどの向きに椅子を置くかによって、全く違った「景色」や「交流」を楽しめる。お気に入りのフォールディングチェアを持って室内を移動するだけで、開放感も篭り感も味わえる、そんな家に映ってくる。
このレジデンスは、きっと「住」の上級者を育てあげてくれる家だと思う。