人によって多少の差はあろうが、物事の本質が見えてくるのは概ね50歳を過ぎてからである。弊誌の特集「ダッズスタイル」がマスの読者に受け入れられているのも、50歳前後の「アメカジ上級者」のワードローブが首尾よく服装術の本質をついているからであり、彼らのカッコよさの背景には、試行錯誤を繰り返して身についた独自のライフスタイルが横たわっている。住まいについても同じことが言えよう。物事の本質が見えてくる年齢になってくると、単に開放的な吹き抜け空間が広がっているとか、単に有名どころのインテリアを取り揃えているといったことでは満足できない。家の構造、それに基づく空間デザイン、インテリアデザイン、動線、さらに光や風といった「自然」との関係性をいかに良好に保ちながら居場所を創造できるか。そんな心地よさのクインテッセンス(真髄)を理想の住居に求める。ヘーベルハウスが開発した重鉄の家「FREX asgard」(フレックス アスガルド)には、その隅々にまで心地よさのクインテッセンスを感じさせる説得力がある─。
ヘーベルハウスの哲学に裏づけられた生命力を感じる都市邸宅
筆者が暮らすヘーベルハウスのリビングフロアには、ル・コルビュジエが唱えたモダニズム建築の5原則のひとつ「独立した骨組みの水平連続窓」が採用されている。もともと水平連続窓の発想の起点には「連続した絵画のように、家の中に風景を取り込もう」という画家としての閃きがあり、その閃きを現実化したのが「水平スラブ、周囲でそれを支える最小限の柱、各フロアへのアクセスを可能とする階段の三要素のみで構成する」というドミノシステムを考案した建築家としての才能であった。今年新たに開発された重鉄構造のヘーベルハウス「FREX asgard」。コルビュジエの時代から連綿と受け継がれてきたモダニズム建築の機能美がものの見事にアップデイトされたレジデンスだ。まずは外観の美しさ。自然のダイナミズムや生命力を感じさせる縦に目地が伸びたヘーベルウォールと、新たに採用したストラクチャースラブによる美しい水平ラインとの絶妙なバランス。建物は「箱型の組み合わせから一部分を削り出し、そこに機能を生み出す」というモダニズム設計思想のもとでアップデイトされている。たとえば、キューブを削ったあとに残した庇が日射遮蔽性能(季節や時間帯によってきつい日差しが室内に侵入するのを抑える性能)を有していたり、ベランダの周りをシェルウォールで囲い、考え抜かれた高さと配置によって外からの視線を遮りながら陽光に包まれる心地よい居場所をつくったり、削り出した内側にあえて窓を配して奥行の深さを感じさせ、同時に防火壁にもなる大きな壁を前面に見せたり...ヘーベルウォールの機能を複合的に生かしたノイズレスで美しい外観を創りあげている。さらに室内に入ると、光や風の招き方、インテリアの色調や時間ごとの階調によって生み出される心地良さに、思わず取材時間を忘れてしまうのであった
「賢く閉じ、豊かに開く」というコンセプトの下に完成したFREX asgardのLDK空間(2F)。新採用した大開口サッシ「スライディングマリオン」によって室内と半屋外がよりシームレスになった
開口部には効果的にレースのカーテンを設置。時間によって心地よい暗がりが生まれる
鉱物のような黒色「レニウムブラック」で仕上げた外壁目地デザイン「ランダムバーチカル」
3Fから2Fに下りる階段のシーン。磨りガラスを通じてほどよい光が階段室に入りこむ
室内外のフロアレベルを同一にし、床タイルの目地まで揃えた「フルフラットベランダ」
夕暮れ時にも存在感を放つFREX asgardのファサード。無駄をそぎ落とした美しいスタイルだ
FREX asgardにみる理想の都市型住宅
1F
お気に入りの絵画を飾り、ギャラリー感覚で楽しみたい1Fの階段室
午後の光が心地よい1F奥のワークスペース。ゴルフシミュレーターを配したホビールームが付設する
琉球畳を敷いた10帖の和室。奥に見えるデッキスペースは、サウナからつながる露天式水風呂を要した「ととのう」場でもある
ロウリュウもできる本格仕様のサウナ。家族や仲間とのコミュニケーションの場であり、プライベートでリフレッシュできる場でもある。「もうひとつのリビング」として生活に自然に溶け込む空間として設計されているのだ
ゲストを招く1Fのラウンジ。外壁に色調を合わせ、天然木や大理石を用いた似て非なる質感を宿した黒色の壁が空間を凛と引き締める
1F JAPANESE STYLE ROOM
1Fのラウンジ空間の天井高は、ダウンフロアとの組み合わせで2.88m。夜の時間帯には、壁の絵画を浮き上がらせる間接照明が効いてしっとりした空間に。奥に見える階段室の光景も絵画のように美しい
2F
豊かに開いた2Fのリビング空間。半屋外空間でのプライベートタイムも心地よい
室内リビングとシームレスにつながるベランダ空間。近隣の目線をシャットアウトしながら十分に自然の恵みを得られるのでグリーンもよく育ってくれる
LDKの一角には家具で仕切られたワークスペースもある。もうひとつのベランダ空間からやわらかい光がデスク周りに注がれる
2Fの階段室とLDKは磨りガラスの戸と壁で仕切られているため、行き止まり感がない
美しい陰影を放つダイニングテーブル。磨りガラスを通して階段室からやさしい光が入ってくる
夜の時間帯のLDK。天井、床、壁面が、黒とグレーを基調にしたインテリアと共鳴する。間接照明やダウンライトを最小限に抑えたうえでスタンドやブラケットライトを随所に設置し、ゆったりとした寛ぎ空間を演出している
3F
ハイルーフユニットを採用した(天井高2m72cm)3Fの主寝室。足触りのよいカーベットを敷き、2FのLDKとは変化をつけている
3Fへ昇る階段室に設えた木貼り壁。ここにも絵画を飾りたくなる
3階の階段室。奥のロッジアは空を眺めながら自然を感じられる場所。就寝前のリラックススペースとしても活用できそう
寝室からつながるWIC空間
ランドリールームに最適なユーティリティスペース
間接照明によって美しく照らされた夜の主寝室
日本人としてどこか懐かしさもおぼえる心落ちつく居住空間
さまざまな制約のある敷地に建てなければならない都市部の家づくり。最も苦労するのは、いかに外部の自然を上手に招き入れるかという点である。FREX asgardは、耐震性・耐火性といったきわめて高いシェルター機能を有しながら、外部の自然との関わりを十分考え抜かれてデザインされている。象徴的なのが2FのLDK。「賢く閉じて、豊かに開く」というコンセプトのもとに、光や風をほどよく招き入れた空間が広がる。リビングとワークスペースのあるエリアはいずれも半屋外のベランダにつながる開放的な空間。一方、ダイニングキッチンエリアは一見閉ざされているが、じつは広々としていて、落ち着いて食事したり、ゆっくりお酒を楽しめる空間に仕上がっている。LDK全体を見渡すと、賢く閉じたうえでの開口部からの柔らかい採光が絶妙で(庇や室内のレースのカーテンも効いている)、黒とグレーを基調とするインテリアに囲まれた空間に身を置くと、最高に落ち着ける。夕刻に向かって光や風の入り方が変わり、リビング、ワークスペース、ダイニングキッチンそれぞれのエリアが暮色に変わり、さらに3Fの階段室などの「余白」空間にも心地よさが伝播してゆく。それは奇しくも、コルビュジエが愛した桂離宮の古書院がもつ空間美に似ている。夕刻、古書院の暗がりの間にある障子が開け放たれると、吹き抜けの広縁と庭園に向かって張り出した月見台が現れる。月見台は名の通り、木々の間から月を眺めるために設けられた露台。開かれたその空間は、古書院の奥にある閉じた暗がりからつながっている。そんな和空間に似た心地よいグラデーションをFREX asgardの居住空間に感じるのだ。